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Solve  作者: 黒藤紫音
仕事風景
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解決師弟

「Solve」=「解決」から。

師弟はそのままです。



 何でも屋「Solve」。

 従業員は詩歩と涼護の二名のみ。設立者は詩歩である。

 “何でも屋”の名の通り、その業務内容は多岐に渡り、除草や店の開店準備閉店作業の代行、掃除の代行から浮気調査に素行調査、果ては先日のようにストーカー撃退と、基本的には文字通り“何でも”する。

 「ソフィエル鈴白」も「Solve」の仕事として、詩歩が管理人代行を務めている。

 ちなみに本来の管理人は伊宮響音その人である。

 最上階12F、フロア一つが詩歩の貸し切りになっているのも、管理代行業務の報酬として伊宮に相当額賃貸料を割引されているからだ。

 とにもかくにも、何でも屋「Solve」は今日も依頼された仕事に従事していた。


「待てコラ駄猫ォォォ!!」


 ふぎゃー、と鳴きつつ路地を走っているぶち猫を、涼護が必死に追いかけている。

 見方を変えるとある意味微笑ましい光景だが、当人たちは真剣である。

 というか不良面が因縁の仇敵を追いかけるような形相で走ってるのは普通に怖い。


「うがあああああああ!!」


 ぶち猫が左に曲がる。

 道を塞ぐように置かれているポリバケツを飛び越え、追いかけながら涼護は携帯を取り出した。

 片手で操作して、事前に準備していたメールを送信する。


「頼みましたよ詩歩さん。……待てって言ってんだろうがァァァ!!」


 携帯を仕舞いつつそう叫んだ。

 無我夢中で走っていくうちに、擁壁が立ち塞がる道に出た。


「止まれ駄猫!」


 そう言い放つ涼護だが、そんなことを言われても当然ぶち猫は止まらない。

 擁壁を軽やかに昇って逃げていく。

 上にいた人影に気づかずに。


「はい、残念」


 むぎゅう、とぶち猫を詩歩が抱きかかえた。

 どちらかといえば、猫が詩歩の元に飛び込んだというほうが正しいが。


「ナイスです、詩歩さん」

「当然でしょ、ちゃんとここに誘導したんだから」

「でしたね」


 「Solve」の本日最初の仕事は「迷い猫探し」である。

 今詩歩が捕まえたぶち猫は、現在は依頼主である老婆に飼われているが元々は野良猫であり、その時の習性が残っているのか放浪癖がある。

 その困った癖のせいで、今でも隙を見つけては飼い主の家を逃げ出しているのだ。

 今回も例によって逃げ出してしまった猫を捕まえてほしい、というのが今回の依頼だった。


「しかし、もはや常連ですよね……」

「そうねェ。これで何度目だっけ、依頼されるの」

「五回超えてから数えてないッス」

「これだけ逃げ出されるのもすごいわよね……」


 そういうわけで今回の依頼主様は、もう「Solve」にとってはお得意様レベルなのである。

 そのおかげで、ぶち猫の捕獲にも慣れてきてしまった。


「じゃ、さっさと送り届けて、次の仕事行きましょうか」

「アイ・サー」


 ケージにぶち猫を入れつつ歩き始めた詩歩の後を追って、涼護も歩き出した。



「はい涼護」

「へい。これどこですか?」

「それはこっちね」


 次の依頼は「倉庫の整理」である。

 段ボールに詰められた、素人には何に使うのかよくわからない荷物をあっちやこっちに運ぶ。


「よいしょっと」

「……なんでそれをそんなに軽そうに持ち上げられるんですかね……」

「んー?」


 小首を傾げている詩歩は、段ボールを右と左で二つずつ持っていた。

 涼護でも、両手で二つがやっとの重さだというのに。


「鍛えてるもの」

「そういうレベルじゃないでしょ」


 我が師匠ながら人外入ってるとしか思えない。

 詩歩のまだまだ余裕そうな様子が尚更涼護にそう思わせる。



「はい頑張って涼護ー」

「アンタもやれェェェ!!」


 今度は「ビルの清掃」の仕事である。

 なんでも近々新しい店が入るらしいのだが、ずっと空いている物件だったために汚れてしまっており、清掃の必要があった。

 その清掃を行うのが今回の仕事なのだが。


「なんでさぼってるんですか!」

「苦手だもん」

「もん、じゃねェ!」


 散々詩歩に文句を言いつつも、それでも箒で掃いたり掃除機をかけたりと業務をこなしている辺り、顔に似合わず真面目な涼護だった。



「……迷い猫探し、倉庫整理、ビルの清掃。あとは確か……」

「浮気調査でしょ。他にもいくつかあるけど」

「あー……」


 詩歩が運転している車の助手席に座り、涼護は本日の仕事内容を指折り確認する。

 既に三件の依頼は終わらせたが、次の依頼は面倒くさそうだ。ただ身体を動かせばいいものではないし。

 涼護は車に積んであった資料を読もうとして、やめた。


「読んだら絶対酔うしな……」

「あんた車酔いしやすいものねェ」

「詩歩さんが異常なんですよ。車に乗りながら本読んでも酔わないってどんだけですか」


 涼護が詩歩の横顔を見ながら言う。

 なんというか、本当に詩堂詩歩という人間は計り知れない。

 先ほどの倉庫整理の時のように、とても見た目からは力があるようには見えないのに怪力だし、酒瓶片手に暴走族一つを笑いながら壊滅させるし、相当額割引されているとはいえ高層マンションのワンフロア一つ借り切るほどの財力を持っているし、一週間不眠不休でも本を読み続けられるし。

 その上容姿は身内の欲目を引いても超がつくレベルの美人だし、スタイルも出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる理想のスタイル。最近知り合ったモデルの少女と並んでも見劣りしないか、下手したらそれ以上である。

 たまに、本当に同じ人類なのかどうか疑う時がある。


「あ、そうだ涼護。朝食に限った話じゃないけど、マスタードとか辛いの出すのやめてね本当」

「いや、いい年して好き嫌いしないでくださいよ」

「嫌いなものは嫌いなんだものしょうがないじゃない!」

子供(ガキ)かアンタ」


 まあ、こういうところを見るとやっぱり同じ人類なんだな、とは思うが。

 ビル清掃の時のように、苦手な事や自分には向かない事には一切興味を示さないしやる気を出さないし。ただの完璧超人よりよほど人間味がある。

 はあ、と息を吐いた。


「何、そのアンニュイな溜息」

「我が師匠は本当に困った御人だなァと思った次第です」

「うっさいわね」


 赤信号で一旦停止して、詩歩が涼護のほうを向いた。

 赤い瞳と水色の瞳がお互いを見る。


「というか、さっきから視線が熱いんだけど。私に惚れたの?」

「とっくに惚れてますよ。今更何言ってるんですか」

「うん知ってる。私も惚れてるし」

「はいはい」

「ちょっ、流さないで」


 もう何度も繰り返してきたやり取りをしているうちに青信号になり、停まっていた車が発進した。




ラストで告白みたいな掛け合いしてますが、二人は恋愛関係ではありません。

ある意味それより深いですが。


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