大騒ぎ
よしこの章終わり。
「涼護お前何やったんだ?」
「何が」
「何がじゃねえよ蜜都ちゃんとどうやってフラグ立てやがったコラ」
「フラグってなんだよ阿呆か」
教室に戻って着替え、SHRも終わり涼護がほぼ空の鞄を肩に担いでいると、後ろから深理と夏木に捕まった。
深理はともかく、夏木の様子が鬼気迫っている。
うっとおしいので、軽く一発裏拳を入れておく。
「ぶふっ」
「で、何の話だ?」
「さっき、蜜都に抱きつかれてただろ」
「あァ?」
確かに抱きつかれていた。
むぎゅう、と背中で潰れた胸の感触が中々気持ちよかった。
「で、それが?」
「それがじゃねえよボケ!」
夏木が首に腕を回してくる。いい具合に決まっていて微妙に苦しい。
腕を掴み、首から少し離して呼吸しやすくする。
「現役モデル美少女に抱きつかれるとか羨ましすぎるんだよゴルァ……」
「んなこと言われてもなァ……キスまでされたことあるんだけど俺」
「おい今とんでもないこと言ったぞこいつ!」
涼護の言葉に、まだ教室に残っているクラスメイト全員がどよめく。
男子勢は涼護に、女子勢は汐那に詰め寄った。
「おい待て乙梨どういうことだ!?」
「フラグ体質ふざけんな!」
「殴らせろ!」
「あああああああああなんで乙梨ばっかあああああああ!」
男子勢は阿鼻叫喚の嵐である。
そして女子勢は。
「ちょっと本当なの蜜都さん!?」
「キス!? キスってあのキス!?」
「いったいいつそんな関係に!?」
「あの朴念仁相手によくもまあ……!」
こちらは興味津津というか、好奇心を隠そうともしていない。
まあ恋話は女子の大好物だし。
「あー、まあしたけど。頬によ?」
「頬かぁ……いや、でもすごいよ」
「あの人でさえそこまではできなかったのに……!」
「つーか乙梨いつか刺されそうなんだけど」
何やら失礼なことを言われている気がする。
今すぐ抜け出したい涼護だが、男共が解放してくれない。
「涼護ォ……!」
「乙梨ぃ……!」
深理他一部の男子を除いて、大多数の男子の眼が血走っていた。
ぶっちゃけちょっと怖い。
汐那が言っていた通り、キスと言っても頬なのだが。
「頬だろうがなんだろうが、蜜都ちゃんみたいな美少女にキスされるとか……!」
「殴らせろ……!」
「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」
あ、やばい。
これはちょっと真面目に命の危機かもしれない。
そう判断した涼護は、肩に担いでいた鞄を背負い直し、強引に男共のバリゲードを突破する。
「ふっ!」
「チィッ!」
「逃がすな!」
当然追ってくる男共から逃れるために教室の扉に向かおうと一瞬視線を向けた後。
軽く舌打ちをして、女子の群れに突っ込んだ。
手を伸ばし、汐那の腕を掴む。
「え!?」
「行くぞ蜜都!」
汐那が何か言う前に駆け出す。
二人で教室から飛び出した。
「待てコラ乙梨ぃぃぃぃ!!」
「蜜都さん、もっと話聞かせて!」
教室から飛び出した二人を、男子勢と女子勢が追う。
どどどどど、と廊下を疾走する音が、放課後の学園に響いた。
「あいつらしつけェなオイ!」
「というか、なんで私まで!?」
「あそこで俺だけ逃げてもどうせお前に標的変更されてたろ!」
「そうかもしれないけど!」
走る赤と蒼。
それを追いかける有象無象。
なんだこの構図は。
「というか、ストップ! 体勢崩れてるからこのままじゃ転ぶ!」
「んな余裕あるか止まったら捕まるわ!」
「でもホント転ぶって!」
「あああああああもう!!」
涼護がぐい、と汐那の腕を力強く引っ張った。
浮いた汐那の身体を掴んでいる腕で上手く操って手元に引き寄せ、抱き止めた。
そして抱き止めた状態のまま走る。
「待て待て待って! これお姫様抱っこじゃないのいわゆる!」
「だと思うけど!」
「なんで!」
「こうするのが楽だからだよ!」
そう言い切って走り続けていると、後ろの有象無象のボルテージが上がった気がする。
もはや騒音としか表現できない怒声や黄色い声がうるさい。
「……あー、もう。なんていうかさぁ」
「あ?」
「この学園に入ってから、退屈しないよ本当に」
「そうかい。だったら安心しろ、ほぼ毎日こんな大騒ぎだ」
「あっそ」
汐那は抱かれたまま後ろを見ていた。
涼護がひたすら走っていると、はあ、という溜息が腕の中から聞こえた。
「まあ、とにかくさ」
「あん?」
「ちゃんと護ってよ?」
「仰せのままに、お姫様」
酷使している足にさらなる無茶を要求し、スピードを上げた。
今日はもう終わりだが、明日は土日。
さて、何が起こるのやら。
次章は土日。
「Solve」側の日常です。