タイプではないけれど。
はい、久しぶりの投稿です。
新キャラ二人。
グラウンドの外で暴れようとしていた涼護を深理や夏木が止めているのを見て、くす、と汐那は微笑を浮かべた。
会ってまだ数日しか経っていないが、本当に見ていて飽きない人だと思う。
「どうしたの?」
「笹月さん」
少しの間眺めていると、未央が声をかけてきた。
測定の手が止まっている汐那が気になったらしい。
汐那が見ているほうに視線を向け、涼護の姿を見つけると、顔をしかめていた。
「また涼護は何してるのよ……あのバカ」
「あはは、面白い人だよねぇ」
「ただのバカよ、もう」
ばっさりそう切って、未央は呆れた顔で涼護を見ていた。
汐那もなんとなく、涼護たちに視線を戻した。
涼護が深理に羽交い絞めされていて、夏木がそれをからかっていた。
が、少々やりすぎたのか、深理が涼護を解放した。そして涼護が夏木を追いかけ始め、追いかけっこが始まった。それを見て他の男性陣は笑い、深理も苦笑していた。
「楽しそうだね」
「ああもう、何やってるのよあのおバカ……」
未央が溜息をつき、涼護たちへ向かって駆け出した。止めに行くのだろうか。
そんな未央と、涼護たちの光景を見て、汐那はくすくすと笑っている。
「うわ、相変わらず乙梨たちバカやってるな」
「本当にね」
その声に後ろを振り返ると、二人の女子生徒がいた。
片方は明るいオレンジの活動的なショートヘアをした長身の少女。汐那とほとんど目線が変わらない。
もう片方も、明るめの茶髪をした少女。こちらは平均的な女子の身長だ。
汐那は、この二人を見たことがあるような気がするのだが、どこで見たのかはわからないし、失礼ながら名前も出てこない。
「え、と……」
「あー、わかんないか。一応、クラスメイト。あたしは初見晶」
「私は和泉菜摘。同じくクラスメイト」
「……ごめんなさい、すぐに出てこなかった。初見さんと和泉さんね」
「うん、よろしく」
晶がそう頷いているのを尻目に、菜摘は男子勢のほうに目を向けていた。
その視線は、たった一人を追いかけている。
「あ、枝崎君いた。相変わらず格好いい……」
ほう、と菜摘は感嘆の息を吐き、熱っぽい視線を送っていた。
いくら人間関係に疎い汐那でも、さすがにこれがどういう意味なのかはわかった。
自分も、散々向けられてきた感情だからだ。
「……和泉さんって、枝崎君のファン?」
「正解」
晶がそう言って、菜摘を呆れた目で見ていた。
菜摘は自分にそんな視線が向けられているのにも気づいた様子はなかった。
「枝崎ってさ、見た目は格好いいでしょ。いや、中身も悪くはないけど」
「あー、まあ確かにそうだね」
先日は女顔だとか言われていたが、深理は間違いなく美形である。
眼鏡をかけていて、落ち着いた雰囲気も持っている。知的、という表現が似合う。
さすがに付き合いが短い汐那には、内面のことまではわからないが(涼護とも短いが、その代わり密度は濃いのである程度はわかる)、まあいわゆるモテるタイプだろうなぁ、と思う程度には美形だ。
汐那のタイプではないけれど。
「だからさ、菜摘入れこんじゃってるんだよねぇ」
「へえ、そうなんだ」
誰を好きになるか、なんていうのは個人の自由だし、好きになること自体は咎められることではない。
方向性さえ間違っていなければ、アプローチするのだって自由だろう。
「まー、枝崎は苦手っぽいけどね、菜摘のこと」
「え、そうなの?」
「あいつ、基本的に女子苦手だよ」
そう言われて、汐那は改めて思い返した。
確かにそう言われてみれば、歓迎会の乾杯以外で、汐那は深理と喋ったことはないかもしれない。
距離を取られているのかもしれない。
「……あれ、でも笹月さんとは普通に話してるよね?」
「ああ、笹月は例外。笹月以外には基本的に事務的な対応しかしないよ。そこがまたストイックだとか言われるんだけど」
「……あー、と」
それはストイックだろうか。
「まあ、蜜都が良かったら、あたしたちとも仲良くしてよ。乙梨ばっかりじゃなくてさ」
「え、ええ。……私で良かったら」
「ん、よろしく」
ぷらぷらと晶は手を振って、もう片方の手で菜摘の襟を掴んだ。
ぎゃっ、という声をあげて、菜摘が振り返る。
「何?」
「測定の続きするよ。蜜都は?」
「あ、うん。私も行く」
晶が菜摘を引っ張っていくのを見つつ、汐那も測定に戻ることにした。
「……ところで初見さん」
「うん?」
「……私と乙梨君って、そんなに仲良くしてるように見える?」
「すごい見える。だいたい乙梨といるじゃん。昨日だって一緒にさぼってたし」
「まあ、それは……うん……」
別にそういう風に見られるのが嫌というわけではないのだが、なんだか気恥かしい。
視線を逸らそうと、汐那は空を見上げていた。