欲望に忠実
ネタ的にどうなんだろうこれ。
それはそうとお前らさっさと測定しろよ、という斑目の言葉で、涼護たちは各々の測定に戻っていった。
体重、座高、視力、聴力、握力などなどだ。一部身体測定で測るものではないものもあるような気がするが、体力測定も兼ねているので問題ない。
そして。
「終わった奴はグラウンド行け。今女子が測定してるから」
「よっしゃあ!」
その言葉を聞いた途端、どどどどという地響きを立てながら、一部の男子生徒たちが第一体育館からグラウンドに駆け足で出ていった。
「……何だ?」
「俺が知るか」
夏木含む男子生徒たちの勢いについていけず、涼護や深理も含めた男子生徒たちが取り残されていたが、気を取り直して、後を追うように第一体育館から出た。先ほどの生徒たちとは違って、歩いてだが。
○
グラウンドの中で、女子たちが体力測定をしている。
それを先に出た男子たちが外側から見ている姿を見て、グラウンドに着いた涼護たちは呆れた。
「眼福眼福」
グラウンドでは、女子生徒たちが体操服で体力測定をしていた。
唐突だが、体操服は動きやすさを重視しているため、制服よりも生地が薄くできている。
なので、制服よりも身体のラインが出やすくなる。
要は制服よりも女子のスタイルがわかりやすいのだ。
「……エロい……」
涼護の耳に、誰が言ったのかは知らないがそんな言葉が入ってきて、深い溜息をついた。
さすがに涼護も年頃の男なので人並みに性欲というかエロに興味はあるが、ここまで欲望に忠実にはなれない。というか、なりたくない。
「阿呆ばっかりか……」
「うるせえよ。……で、お前は誰がいいのよ、涼護」
「はあ?」
女子の体操服姿を眺めていた夏木が、涼護にそう尋ねた。
涼護は呆れた目で夏木を見返すが、夏木はへらへらと笑っているだけだった。
「ちなみに俺は蜜都ちゃんだな。あの身体はいいわ……」
「どこ見てんだよ夏木」
欲望に忠実すぎる。
そしてその言葉に釣られて、涼護は思わず汐那のほうを見てしまった。
女子としては長身のその身体に見合ったスタイルの良さが、グラウンドの外側からでもよくわかってしまう。
「……まあスタイルがいいのは認めるけどな。モデルなだけあって綺麗だしさ」
「だろー?」
別に否定する理由もないので肯定したが、夏木のこちらを見る視線がうっとうしかった。
涼護としては、美人なのは認めるがそれだけで、決して性的な目で見ているつもりはない。というか知り合いをそんな目で見ようとは思わないのだが。
「まあでもお前、詩歩さんとかで見慣れてるか?」
「いやあの人女だけど女じゃないから」
涼護の師匠である詩歩も、確かに汐那に負けず劣らずの美人ではある。
だが涼護にとって、詩歩は「女性」である前に「師匠」だ。女性としてあまり意識はしていない。
「さっきも名前が出たが、朝雛も美人だよな」
「氷先輩に殺されますよブンヤ先輩」
話に入ってきた伊鶴にそう忠告する。
後ろのほうからドス黒い殺気を感じる。
涼護は無関係なのだが、それでも寒気がする。
「水泳部の沖海先輩とかもいいよな」
「姫雪先輩忘れるなよ」
「鬼百合先輩マジ美人」
夏木と同じように、女子生徒たちを眺めている男子生徒たちの声が聞こえた。
挙げられた生徒たちは、確かに皆美人だ。なんとも男子高校生らしい会話である。
涼護と同じように、男子生徒たちを呆れた目で見ていた深理が、ふうと息を吐いた。
「……これ、俺も言わないといけないのか?」
「いや、お前はいいわ」
「わかっているしな」
深理の言葉に、夏木と伊鶴が答えた。
目を見開いて驚いている深理に、夏木はへらへら笑いながら言った。
「笹月だろ?」
「……そんなにわかりやすいのか、俺」
苦笑を浮かべる深理に、夏木や伊鶴は深く頷いた。
深理はくしゃ、と黒髪を掻きあげた。
「涼護も知ってるだろ?」
「まあ、な」
涼護は未央とはそれなりに長い付き合いだし、深理とも親しい。なんだかんだでよく一緒にいる。
恋愛に興味は無いとはいえ、それくらいはなんとなくわかってしまう。
「涼護でもわかるんだから相当だぞ」
「……へこむな……」
「おいお前ら、どういう意味だ」
夏木と深理の反応に、涼護が眉根を寄せた。
不機嫌そうにそう言うと、夏木やその他の男子生徒がこちらを睨んだ。
「黙れ朴念仁」
「鈍感野郎」
「フラクラが」
「絶食系男子」
「旗折職人」
「後半意味はわからんが少なくとも褒めてはねえなてめぇら?」
とりあえず全員殴ることにした涼護だった。
まあ読めばわかるとは思いますが、深理は未央のことが好きです。恋愛的な意味で。
惚れた過程の話は本編の中でできたらいいなー、と思います。