平均180センチ
一週間ぶりです。
このネタで一章持つかな?
本日、陽羽学園では身体測定が行われることになっていた。
この学園では、身体測定と共に、体力測定も行われている。
今日一日は授業をせずに、丸一日使って全ての生徒が身体測定と体力測定を行う。
男女に分かれ、片方が体育館で身体測定をしているうちに、片方はグラウンドで体力測定をする。
つまり、身体測定をする時、陽羽学園に通う1000人近くの生徒の約半分が、第一体育館に集まることになる。ちなみに男子が先に身体測定をしている。
「非効率的な気がするな」
「そうかァ?」
深理の言葉に、涼護はそう返した。
二人とも、当然ながら体操服姿である。
手には測定結果を書きこむカルテがある。
「人数が多い。学年別に日を分けてやったほうがいいと思うが」
「まあ確かに、一度に全校生徒を測るのは非効率的だけどな。でもその分一日で終わるぜ?」
俺はそっちのほうが楽でいい、と涼護は言う。
その気持ちはわかるけどな、と深理は同意しながら苦笑していた。
「おーい、何の話?」
二人が話していると、夏木が声をかけてきた。
何やら楽しそうに笑っている。
「ちょっと効率の話してた。つか、お前こそどうした?」
「おお。聞いてくれよ涼護」
尋ねられると、夏木は破顔して涼護の肩に腕を回した。
訊かなきゃよかったかもしんねぇ、と涼護は内心で思ったが後の祭りである。
「身長2センチ伸びてて、179センチになった。あと1センチで180センチだ」
「さよか。そりゃ良かったな」
「あと1センチ……伸びるのか?」
「大丈夫だろ、あと1センチくらい。すぐに伸びるだろーよ。運動してるし飯食ってるし」
「だといいがな」
嫌味っぽい深理の言い方だが、特に夏木は気分を害したわけでもないようだった。笑っている。
まあそれはいいから、いい加減離せ、と言わんばかりに、涼護がその笑い顔に軽く裏拳を入れる。
ぐは、と大げさな動きで夏木は涼護から離れた。
「つーか、お前らまだ身長測ってないのか?」
「あー、そういや忘れてたわ。行くか?」
「そうだな」
涼護がそう提案すると、深理は頷き、二人とも身長測定の列へと向かって歩き始めた。
夏木はその姿を一瞬だけ見送ると、次の測定へ向かって、こちらも歩き出し始めた。
○
「180センチ。伸びたなぁ、お前」
「ういす」
身長測定を担当していた斑目の言葉に、涼護はそう返した。
なんとも適当というかぶっきらぼうな言い方だが、これはまだ、涼護としてはかなり好意的に返したつもりである。
斑目は、涼護が一年生だった時も担任を務めていたこともあって、涼護のそういった性格には慣れていて、気分を害した様子もない。
涼護は、斑目のそういう話のわかるところが気に入っていた。授業中寝てても文句言わないし。その代わり、課題を山ほど出されるが。
だがそういうところも、涼護を問題児扱いする教師たちとはまるで違っていて、そこもまた気に入っていた。
「次、枝崎」
「はい」
斑目の言葉を聞いて、涼護は深理と場所を交代する。
ついでに置かれている机でカルテに身長の測定結果を書きこむ。
そして列から離れ、次はどの測定に行こうかと考えながら周りにふと視線を向けると、茶髪が視界に入った。
向こうもこちらに気付いたようで、歩いてくる。
「涼護、何センチだった?」
「180センチ。去年と比べると2センチ伸びたな」
「マジかよ!」
夏木が大声でそう言う。
視線が一瞬集まるが、二人の姿を見て、すぐに離れる。
なんだかんだ目立つ二人なので、周囲も慣れているようだ。単に関わりたくないだけかもしれないが。
「うーわー、先に180の大台乗られたか……」
「別に落ち込まんでも。さっきお前が自分で言ってただろが、あと1センチくらいすぐだとか」
珍しく、本当に珍しく涼護がフォローした。
とはいえ、夏木も本気で落ち込んでいるわけではなかったようで、すぐにけたけた笑っていたが。
そうしているうちに、黒髪がこちらに近づいてくる。
「何やってるんだ?」
「深理。いや、涼護が先に180の大台に乗ってやがったことに憤りを感じてただけ」
「いや落ち込んでたろ。つか、乗ってやがったってなんだ」
そう指摘する涼護だが、夏木は気にしたようでもない。
深理は、二人のやり取りを聞いて、そっと目を伏せた。
「どうした、深理」
「いや、その……俺は夏木に謝らないといけないかもな……」
「……どうしたんだよ?」
何やら深刻な様子の深理に、夏木も真面目な顔をしたそう訊いた。
悲壮な顔つきで、深理は口を開いた。
「俺、身長181センチだったんだ……」
「自慢かよ1センチ寄越しやがれ女顔がああああ!!」
「誰が女顔だ!!」
がば、と取っ組み合いが始まった。
涼護ははあ、と溜息をつく。また周りの視線が集まってるだろが。
「おいやめろお前ら」
「不良は黙っていろ。いい加減ケリをつける」
「バカは黙ってろ。この野郎仕留める」
「オーケーその喧嘩買ったぜ」
そして、止めに入ったはずの涼護も取っ組み合いに参加した。
さすがは三馬鹿。莫迦である。