生徒会室にて。
生徒会室。
教室棟の三階にあるその部屋に、涼護と妃は入った。
ちなみにここに来るまで、二人は生徒たちの好奇の視線に晒されていた。
見た目不良(中身もたいがい不良だが)と生徒会長が連れたって歩いていたら、それは目立つだろう。
「失礼します」
「失礼しやーす」
礼儀正しい妃と比べて、涼護はなんとも適当だったが、妃は笑っているだけだ。
室内には、一人の男子生徒がいた。男子にしては長めの水色の髪をしていて、女性と見間違えそうになるくらい、中性的な容姿だ。
「朝雛さん。……に、乙梨か」
「どうも、氷先輩」
彼の名前は、五月雨氷実。
妃と同じ三年生で、陽羽学園生徒会の副会長だ。そして、間違いなくこの学園の三本の指に入るほどの容姿の男性だ。
ここまで顔面偏差値に差があると、もう嫉妬しようという気にもならない。深理に対しても言えることだが。
ちなみに”氷先輩”というのは涼護が使っているあだ名である。
「どうして乙梨がここに?」
「一緒にお昼を食べようと思いまして」
「……何?」
妃の一言で、氷実の表情が変わった。
剣呑な表情で、涼護を睨んでいる。
これが顔も知らないどうでもいい相手なら、涼護も向こうが逃げるまで睨み返しているのだが、さすがに面識のある相手、その上先輩にそんなことはできない。
「どうかしたんですか、五月雨君?」
「あ、いや、何でもない」
妃が言うと、氷実はさっきまでの剣呑な表情を綺麗に消して微笑んでいた。
それを見て、涼護は二人にバレないように、はあ、と溜息をついた。
「それじゃあ、食べましょうか」
妃が生徒会室の椅子に座ったので、涼護もその隣に座る。
氷実の視線が痛い気がするが、あえて無視する。
机に買ってきたパンと牛乳パックを置くと、妃も二つのランチボックスを置いて、包みを開いた。
「二つですか?」
「一つでは入り切らなくて……余っていたランチボックスに詰めてきました。どうぞ、乙梨さん」
「はい、いただきますね、妃先輩」
中身はサンドイッチだった。これなら手づかみで食べられる。
涼護は手を合わせて一礼すると、一つのサンドイッチを手に取った。
口に運ぶ。
「旨いです。これ、ツナサンドですか?」
「はい。他は、フルーツサンド、ハムサンド、クラブサンドなどがありますよ」
「本気で旨いです」
「そう言っていただけると嬉しいです。朝、挟む具を間違って多く作ってしまったので、どうしようかと思っていたんですが」
「一箱分、食べ切ってしまってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
にっこりと、まるで聖女のような笑顔でそう言う妃。
それを聞いて、涼護は意気揚々と他のサンドイッチに手をつけた。二口で食べ切ると、買ったコッペパンの袋も開けて食べる。すべて口に入れると、牛乳で流し込んだ。そしてまたサンドイッチに手を伸ばす。
「マジで旨いです」
「ありがとうございます。ああ、ついてますよ?」
涼護の口元についていたパンくずを取った妃は、それを何気なしに口へと運んだ。
それを見た氷実がぶふっと飲んでいたお茶を吹いた。げほげほと噎せている。
「どうかしました?」
「……それはこっちの台詞なんだが……」
氷実がじろ、と涼護と妃を見るが、二人はその視線の意味がわからず、首を傾げていた。
しばらくその状態が続いていると、氷実のほうがはあ、と溜息をついた。
「いや、もういい……」
「どうかしたんですか、五月雨君」
「何もないよ。気にせず食べてて」
気にはなるが、本人がそう言うのなら気にしないでおくことにして、涼護は食事に戻った。
そんな涼護を、妃はにこにこ笑って見ながら、自分の食事を進めていた。
「……こっちは一年以上かかってようやく一緒に食事できる仲になったのに、なんで一年足らずの付き合いで手料理食べれるような仲になってるんだ。下の名前まで呼んでるし……理不尽だろ……」
氷実が何か言っているような気がしたが、あまりにも小さな声だったのと、サンドイッチに夢中になってしまって、聞き取ることはできなかった。
二人は天然です。
二人の間には何もありません。
そして氷実不憫。
次回投稿は3/7予定です。