生徒会長
更新久しぶりです。
色々アクシデントがありまして…。
「あーもう!」
廊下を走り、購買へと向かう涼護。不良面が全力疾走しているので、ほとんどの生徒が怖がって道を開けていた。
それをありがたかく思いつつ、涼護は一秒でも早く購買へ向かおうと足を速めた。
この時間だと食堂はおそらく既に満員で、購買もパンが残っているか怪しいがそれでもかけるしかない。
「おおああああああ!」
ただひたすら走り、ついに購買が見えてきた。普段ならば人だかりができているのだが、都合良く今は誰もいなかった。
涼護はラストスパートをかけて、購買の前に滑り込むと財布から千円札を取り出し叫ぶ。
「おばちゃん、パンちょうだい!」
「はいよ。何がいい?」
「焼きそばパン」
「売り切れちゃったよ」
「ジャムパン。BLTサンド。あんぱん」
「ないねぇ」
「……クリームパンとかコロッケパンとかメロンパンは?」
「残ってないよ」
つまり、ほとんど何も残っていないということだ。
涼護は絶望して、その場に崩れ落ちそうになるのを必死にこらえる。
「……何なら残ってる?」
「たまごサンドならあるよ。あとはコッペパンとか」
「…………うあが」
両方とも、残るのが必然の不人気パンである。
たまごサンドは味がくどく、コッペパンにいたっては何の味もしない。
「……コッペパン五つください。あと牛乳も」
「はいよ」
それでも比較的ましなコッペパンを注文すると、購買の店員が商品を取りだすために奥へと引っ込んだ。
それを眺めながら、涼護ははァと溜息をついた。脳裏に浮かぶのはあの自由人の師匠だ。
上司としても師匠としても尊敬しているが、それでもやはりあの自由人というかマイペースというか変人っぷりは矯正したほうがいいのかもしれない。まず弟子の仕事ではないだろうが。
「はいコッペパン五つと牛乳一つね。あとおつり」
「あんがと」
渡されたパンと牛乳パックを腕に抱え、おつりを受け取る。
礼を口にして、教室に戻ろうと踵を返した。
「……けどコッペパンだけかァ」
ぽつりと涼護はそう呟いた。
たまごサンドよりはマシなのだが、だからといって味無しのコッペパンを五個も食うのは若干気が滅入る。
「……あら?」
涼護が歩いていると、聞き覚えのある声がした。
そちらに目を向けると、ショートカットの桃色の髪を揺らしながら少女がこちらに歩いてきていた。
「乙梨さん。どうかしたんですか?」
「妃先輩」
涼護に物怖じせずに話しかけた女性の名前は、朝雛妃。
この陽羽学園の生徒会長であり、彼女もまた涼護に普通に接する例外の一人だ。
「パンをたくさん持っていますけど……それ、全部食べるんですか?」
「ええ、まあ」
こくり、と涼護は頷いた。その様子はとても大人しく、普段の荒っぽい口調や態度は微塵も感じられない。
「あ、そういえば、詩堂さん、来てましたね」
「……やっぱ目立ってましたか、あの人」
苦笑する。
教室棟からだとグラウンドは丸見えだ。そのため詩歩の姿が見えてしまうのは仕方ないとだろうが、身内としてかなり恥ずかしい。
「でも、どうしてここにいらしたんです?」
「昼飯調達です。俺用意し忘れてて……。で、代わりに俺の弁当渡したんですけど……そのせいで俺の昼がコッペパンと牛乳だけに」
「あらあら」
言葉にするとさらにみじめな気分になった。
一昨日の残り物だったとはいえ、コッペパンなんかよりは味気あるものだったというのに。
「まあしょうがないです。正直コッペパンだけっていうのは、ちょっとあれですけど。我慢します」
「あ、それなら、私のお弁当、食べますか?」
あっさりと言われたその言葉を、一瞬涼護は理解できなかった。
しかし、次の瞬間言葉の意味を理解して思わず呆気に取られた声が出た。
「え?」
「作り間違えて、少し量が多いんです。食べていただけるとありがたいのですけれど」
「え、あー、その……いいんですか?」
「構いませんよ。あ、ただ私、生徒会室で食べるつもりだったので、そちらになりますけど、いいでしょうか」
「全然いいです。……てーか、もしかしてまた休み時間使って仕事してるんですか?」
ちら、と涼護は自分よりも小さい身体の妃を見た。
何も彼女は伊達や酔狂で生徒会長を務めているわけではなく、その性格もあって、生徒会の業務に真面目に取り組んでいる。有能だし、結果もついてきているのだから、している側としては楽しいのだろうということはわかる。
だが、昨年仕事を手伝ったことのある涼護はいくらなんでも真面目すぎると思っている。
休み時間を使ってまで片づけなければいけないほど量があるわけではないし、そもそも生徒会には他の役員もいるのだから彼らに頼ってもいいのだ。
「少し、急ぎの用件がありまして……あ、五月雨君も一緒ですよ?」
「氷先輩ですか? ……まあいいですけど。簡単な業務なら俺や未央も手伝えますから、言ってくださいね」
疑いようのない涼護の本心だ。どこかのバカみたいに、無理のしっぱなしで倒れられでもしたらあまりにも寝覚めが悪い。
妃もわかっているようで、涼護を安心させるためにかにっこりと笑っていた。
「では、行きましょうか」
「はい」
頷いて、生徒会室に向かって歩き出した妃の隣に並ぶ。
未央よりは大きいが、それでもやはり涼護よりは小さい妃の身体。彼女の歩幅に合わせるように歩く。
そうして歩いていると、先日、汐那と歩いたことを思い出した。
そして、やはり彼女は大きいんだなと改めて思った。
妃はサブヒロインです。
登場はさせましたが、メインで絡んではきません。
次回の更新は3/4を予定しています。