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Solve  作者: 黒藤紫音
一息ついて。
25/77

「任されました」

「涼護?」


 彼の名前を呼ぶ声がして、汐那は顔を上げた。

 屋上の扉が開いているのと、艶やかな黒髪をした少女が屋上に入ってきたのがわかった。


「笹月さん」

「あ、蜜都さん。……って、涼護寝てる?」


 こちらに向かってくる未央に、汐那はそっと、唇に人差し指を添えた。

 それを見て、未央も口を噤む。


「なるべく静かに。寝たばっかりだから。起こしちゃまずいわ」

「いや、涼護さぼり魔だから、起こして授業に連れて行きたいんだけどね?」


 などと言いつつ、未央は涼護の寝顔を、優しげな眼差しで見ている。


「……ぐっすり眠ってる。相当寝心地がいいみたいね、蜜都さんの膝枕」

「あはは、みたいだね」


 微笑みながら、汐那はそう同意した。

 眠っている涼護を見つつ、未央は、はあ、と息を一つ吐き、仕方ないなぁ、という顔をする。


「……まあ、今日は見逃そうかな。これだけ気持ち良さそうに寝てるのを起こすのもね」

「そう?」


 未央のその言葉は、少し意外だった。

 さっきの口ぶりから、起こすんじゃないかと思ったし。


「いいの?」

「涼護のことだから、また仕事で無茶したんだと思うし。本人が言うには「無茶じゃない」らしいけどね」

「あ、あー……」


 昨日の大立ち回りを思い出し、確かにあれは普通に無茶だなと、汐那も思う。

 というか、またと言ったということは、よくあることなんだろうか。


「……っていうか、訊かないんだね」

「何を?」

「いや、昨日何があったのか、って。訊かないとは言ったけど、気にならないの?」

「ああ」


 汐那のその言葉に合点がいったらしく、未央は汐那が座っているベンチとは違うベンチに座って、口を開いた。


「気にはなるけど、涼護が関わってるのなら、きっともう解決してるんでしょう?」

「……まあ、そうだけど」

「なら、それでいいと思う。終わったことを無理に訊いたりしないよ」


 未央は自分の髪を手で梳きながら、瞳を閉じて言葉を続ける。


「涼護のことは、信頼してる。だから、私は何も言わないわ」

「……隠してるかもしれないのに?」

「目に見えてそれがわかる時は、流石に口を挟むけれど。でも、そうじゃないのなら、私は何もしない。涼護だって、そうするだろうしね」

「……そっか」


 その言葉だけで、未央がどれだけ涼護を信頼しているのかがわかった。

 きっと、涼護も同じように、未央を信頼している。

 なら、これ以上、汐那が言うことは何もない。


「すごいね、そこまで信頼できるなんて」

「涼護、人相は悪いけど、でも理由なく人を傷つけるような人間じゃないからね」

「そうだね」


 涼護の髪を撫でる。

 手入れされている汐那の髪とは違って、男の子らしく、硬い髪質だった。


「でも、本当、すぐに無茶するから……だからね、蜜都さん」

「うん?」

「涼護のこと、見ててあげて。私じゃ見えないところも、蜜都さんなら見えるかもしれないから」


 未央のその言葉に、汐那はくす、と微笑を浮かべた。

 涼護のことがとても大切だということが、優しいその声でよくわかった。

 だから、汐那も同じように、優しい声で言う。


「うん。任されました」


 にこ、と笑うその笑顔は、猫を被っていない、汐那本人の笑顔だった。

 それを見て、未央もお願いします、と笑顔を返した。


「でも、そんなに大切なんだ……ひょっとして、付き合ってるとか?」

「……よく言われるけど、付き合ってないよ。というか、そんな甘い関係に見えるの?」

「少し、そう見えるかも」

「やめてよ、蜜都さんまで」


未央の言葉に、汐那は内からこみ上げてくる笑いを我慢することなく笑った。



年内はこれで最後かな。


来年は勢いだけで執筆するのを控えたいです。

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