『乙梨涼護』だから
書き直しました。
でも、これもなんか違うんですよね。
「おはよう、蜜都さん」
「おはよう、笹月さん」
翌日。
陽羽学園、2-2の教室。
汐那は、何事もなかったように登校していた。
「昨日はありがとう。楽しかったわ」
「そっか、なら良かった」
汐那は、未央とそう話しながら、自分の席に着く。
鞄を置いて、ちら、と前を見ると、そこは空席だった。
「あれ、乙梨君、まだ?」
「ああ、涼護、結構遅刻するから」
しょうがない奴だよね、なんて未央の言葉に、あはは、と笑う。笑いながら、内心で思う。
……なるべく、早めに話したかったんだけどな。
もちろん、昨晩のことだ。
あのストーカー――――引っ越し先のこの陽羽市にまでついてきて、汐那をさらった男――――がどうなったのか、気にはなる。
それに、涼護が言っていた『Solve』も気になる。汐那の母親からの依頼とか言っていたが。
汐那は当事者のはずなのに、どこか蚊帳の外だ。
それが気に入らない。
「どうかしたの、蜜都さん」
「あ、ううん、何にも」
少し考え込んでいたのが顔に出ていたのか、未央が少し心配そうにそう声をかけた。
一瞬素で返しそうになるが、すぐに猫を被ってそう返した。
……未央なら、素で接しても、変わらず接してくれそうではあるが、けれど、もし変わってしまったら。
それは、怖い。
なんて考えていると、次の未央の言葉に、心を読まれたのかと思った。
「……涼護と何かあった?」
「……どうして、そう思うの?」
冷や汗を、一筋かいた。驚きや戸惑いが、顔に出ていないか、心配になる。
未央は、そんな汐那の内心を知ってか知らずか、うーん、と唸って、口を開いた。
「涼護だから、かなぁ。すぐに厄介事に巻き込まれるし」
「……そう」
厄介事というなら、昨晩とんでもないことに巻き込まれてましたが。
同時に、彼のそういう性質は、周知の事実なんだとわかった。
面識がほとんどない相手だろうが、その相手がどんな危険な状況になっていようが、助けようとする。
彼のそんな性は。
「なんか、わかるなぁ、それ」
ぽつり、とそう呟いてしまう。
しまった、と思った時には、もう遅かった。
「やっぱり、何かあったんだね」
未央は確信を持った声で、そう言った。
あ、と気づいた時にはもう遅い。
「……えっと……」
「あ、大丈夫。別に何があったか、なんて訊くつもりはないから」
「……そう?」
……それはありがたいが、けれど、それでいいのか、とも思う。
「涼護のことだから、きっと蜜都さんの事情に首突っ込んだんでしょ? いつものことだよ」
「……まあ、うん」
どうせ何かあったこと自体はバレてしまっているし、そこは肯定する。
……まあ、いつものことなんだ、とは思ったが。
「涼護のあれは、もう病気だからね。……でも」
そこで、未央は一度言葉を切った。
そして。
「それが『乙梨涼護』だからね」
そう言い切った未央の顔は、苦笑しながらも、けれどどこか誇らしげだった。
「……そうだね」
汐那も、同意する。
くす、と微笑いながら。