「信じるよ」「信じろ」
前に投稿してから一週間越えてるぞ!
別の小説書いてました。
それに夏休みも終わったので、これからは更新遅くなると思います。
などとしていると、唐突に車の音が聞こえてきた。
音のしたほうに目を向けると、その車はこちらに近づいてきて、汐那や涼護の前で止まった。
そして、運転席の窓から、妙齢の女性が顔を出した。
「無事に助けたみたいね、涼護」
「ええ、まあ」
どうやら涼護と知り合いらしい彼女は、車から降りると、こちらを見た。
「初めまして。貴女が蜜都汐那さんね?」
「そうですけど……?」
「私は、詩堂詩歩。涼護の上司」
詩歩は、端的にそう名乗ると、今度は涼護に向き直った。
「犯人は?」
「中で伸びてます」
「そう」
それだけ確認すると、詩歩は、廃工場へ向かって駆け出した。
中に入っていくのを見た涼護は、汐那に話しかけた。
「後処理はこれで良し。俺らはこのまま帰るぞ。送っていく」
「……いいの?」
汐那は、詩歩が入っていった廃工場を見てそう言うが、涼護はくく、と喉で笑った。
「大丈夫だ。詩歩さんだし。……道すがら、色々説明する」
そう言って涼護は自転車に跨った。
そして、後ろの部分を叩く。
「乗れよ。こっちのほうが速いし。……まあ、クッションとか、気のきいたもんはないけどな」
「出来ればあって欲しいけど……まあ、いいわ」
歩くのも面倒だし。
内心でそう思い、汐那は涼護の後ろに横座りで座り、涼護の背中に腕を回した。
「落とさないでね」
「いいからお前はしっかり掴まってろ。行くぞ」
そう言って、涼護は自転車をこぎ始めた。
○
「警察に連絡入れなかったのは、依頼主の意向なんだよ」
「依頼主って――――私のお母さん?」
「ああ」
涼護と汐那を乗せ、二人乗り状態になっている自転車は、夜の道を走っていた。
たまにライトを点け忘れている莫迦がいるが、涼護はちゃんと忘れずに点けて走っている。
そして、自転車を走らせながら、涼護は事情を説明していた。
「あんまり大事にしたくなかったんだろ、ストーカー被害を受けてたとかさ」
「まあ……確かに、プラスの印象受ける人は少ないと思うけど……」
「それにしたって過剰な気がするが……まあ、それはいいよ」
そう言って、涼護は面倒くさそうに会話を切り上げた。
が、横座りで座っている汐那は、まだ気になることがあるのか、涼護に向かって口を開いた。
「けど、それにしたって危ないよね。君たちが」
「うちはそれなりに実績あるからな。あんな行動に出た奴もいなかったわけじゃないし」
涼護はその時のことを思い出しているのか、少し懐かしげな声だった。
何があったのか、少し興味はあったが、それよりも気になることを訊く。
「でも、あいつどうなるの?」
「詩歩さんがどうにかするだろ。まあ、その辺りの詳しい事情知りたかったら、後処理が終わった後に説明する」
「そう……」
そう言った汐那は、一見何も気にしてないように見えた。
それを知ってか知らずか、涼護は言う。
「心配すんな。お前には、絶対に二度と手を出させないから。俺が護る」
「……乙梨君」
安心させるように、笑っている涼護に、汐那は微笑んだ。
……不思議だ。
ほとんど面識もないのに、どうして、こんなにも安心できるんだろう。
汐那は、涼護の背中に頭をとん、と押し付けて。
「うん。信じるよ」
「ああ。信じろ」
汐那が言った、「信じる」というその言葉に。
涼護は、臆面もなく、「信じろ」と返した。
「……ふふ」
「なんだよ」
「何にも」
汐那は柔らかく微笑んでいた。
前を見ている涼護には、その顔は見れない。
「っていうかさ……私、今胸押し付けてる状態よね」
「指摘するな、人が必死に無視しようとしてんのに!」
「それはそれでむかつくなぁ……えい」
「さらに押しつけんなー!」
「ひょっとして、狙ってた?」
「んなわけあるか!」
夜の道、自転車を二人乗りしている男女が、そんな痴話喧嘩を繰り広げていた。