『依頼』
陽羽学園には、校舎が二つある。
一年生から三年生までの教室がある教室棟と呼ばれている校舎と、音楽室や化学実験室などの特別教室がある実習棟と呼ばれる校舎だ。
そして教室棟、実習棟と前後に並ぶようにして、第一体育館がある。
もう一つある第二体育館と比べ大きいそこは、放課後はバスケ部やバレー部などの屋内の運動部が使用している。
第一体育館のバスケットボールのコートの中には、計十人の人間がいた。
全員動き回っている。試合をしているらしい。
赤と青の二つのチームがあり、赤チームの中には涼護がいた。
その場でダンダンと床にボールをバウンドさせている。
目の前には敵チームの選手。
「……ふっ!」
涼護は走り出した。
当然相手選手は止めようとするが、涼護は一瞬止まり、そこから身体を回転させるような動きで選手をかわした。
相手を抜き去った涼護は、そのままゴールに向かう。
他の選手が止めに入ってもするりとかわし、ゴールに近づく。
跳び上がり、そのままダンクシュートを決めた。その威力に、ゴールが揺れる。
同時にビー、という音がした。終了を告げるホイッスルだ。
得点表には、赤47:青41と書かれていた。
*
「よっしゃあ!」
「痛ぇ!」
バシ、と背中を叩かれる。
結構な威力のそれに、涼護は叩かれた背中をさする。
叩いた相手は今回の依頼主だった。
バスケ部で紅白試合をやることになり、足りなくなったメンバーを埋めるために涼護が駆り出されたのだ。
人数足りないんだったらしなくてもいいんじゃないか、と涼護自身思わないでもないが、だからといって断ることでもない。
「手加減しろよ……」
「悪い悪い」
そう言って謝られる。
涼護は肩をすくめた。
「でも本当に助かった、乙梨のおかげで勝てた! 最後のダンクもすごかったしな!」
「そりゃどーも」
帰り支度をしながら適当に答える。
汗をタオルで拭きつつ、脇に置いておいた鞄を手に取った。
「なあ、乙梨。本当にバスケ部入らないか? 助っ人じゃなくて」
「悪いが断る。それしたら他の部活の助っ人ができなくなるし、仮に入っても、他の『依頼』で部活には行けないしな」
「そうか……」
相手が本気で残念がっているのを見ると、さすがに涼護も居心地が悪かった。
「涼護ー、何してるの? 早く帰るわよ」
「あ、おう。じゃあな」
未央の呼ぶ声が聞こえ、これ幸いと涼護はその場から立ち去った。
依頼主や他のバスケ部員の視線からも必死に目を逸らして。
「……運動もできて、あんな可愛い彼女もいるなんて、羨ましいなぁオイ」
「彼女じゃないって」
ただそこだけははっきりと否定しておいた。