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Solve  作者: 黒藤紫音
歓迎会
15/77

告白ラッシュ

 放課後になった。

 涼護が帰った後も、授業はつつがなく行われた。

 そして帰りのホームルームに来た斑目も、涼護がいないことを知っても、「またか」と言っただけだった。

 どうやら、涼護のこういった行動は、生徒間だけでなく、教師陣にも周知の事実らしい。


「まあ、いいけどね……」


 自分の一つ後ろ、誰も座っていない席を見て、誰にも聞こえないくらいの大きさで、そう呟いた。

 汐那は、教科書を鞄に入れて、席を立った。


「笹月さん」

「あ、蜜都さん」


 未央に声をかける。

 どうせ、これから向かう場所は同じだし。


「じゃ、行こっか」

「ええ。……でも、本当、何?」

「こういうのは、内緒のほうがいいと思うから」


 ふふ、と笑っている未央は、答えてくれなさそうだった。

 まあ、こちらに害があるようなことをするとも思えないからいいが。会ってまだ一日しか経っていないが、しかし、逆に言えば、未央はまだその程度しか接していない人間に、妙なことをするような人間だとは思えない。

 モデルなんて仕事をしていると、人と接する機会はそれなりに多い。その中には、こちらを利用しようとか、そういう薄汚い思惑を持って接する人間もいる。モデルとして生きていくには、目の前の人間が、そんな連中か、そうでないかを見極める目を持つ必要があった。

 そして、今まで生きてきて、培われたその目には、絶対の自信がある。

 そんな目を持っている汐那から見て、笹月未央という人間は、無意味に人を害する人間には見えなかった。


「蜜都さん? どうかした?」

「え、ううん。何も」


 少し、考え込んでしまったようだ。

 笑顔を張り付けて、何でもないように振る舞う。

 未央は、納得したらしく、それ以上は何も言わなかった。


「じゃ、行……」

「蜜都汐那さん」


 教室から出た未央が、汐那に声をかけようとした時、それを遮るようにして、別の声が割り込んだ。

 名前を呼ばれて、汐那が声をしたほうに顔を向けると、一人の男子生徒がいた。

 身長も高く、顔もそれなりに美形なほうだ。


「……何か?」


 そう訊くと、その男子生徒は意を決したように、汐那を見た。


「お話があります。できれば、ついてきてくれませんか」


 そこまで言われて、ああ、と何の用かわかった。

 ちら、と未央を見る。


「……ごめんなさい、笹月さん。ちょっと遅れるから」

「あー……、じゃあ待ってる」


 未央もなんとなく、男子生徒の用件に予想はついたらしく、苦笑しながらそう言った。


「え、でも……」

「一通りの道は教えたけど、もし迷ったりしたら大変だしね」


 昨日、話の流れで簡単に『桜』への道は教えてもらった。

 あの商店街からさほど離れていないようだし、別に方向音痴でもないので、大丈夫だとは思う。

 とは言っても、別に未央の好意を断る理由もない。


「……じゃあ、ごめんなさい。待っててくれる?」

「うん、じゃあ玄関で待ってるから」


 そう言い残して、未央は玄関へ歩き始めた。

 汐那は、その後ろ姿を見送ってから、男子生徒に向き直った。


「……じゃあ、行きましょうか」

「あ、はい!こっちです……」


 歩き出した男子生徒の後を追いかけつつ、汐那ははあ、と溜息をついた。



 第一体育館裏にて。


「好きです、付き合ってください!」

「ごめんなさい」


 即答した。

 男子生徒が言い終えるのと同時に、そう答えた。


「……え……」

「興味ないの、恋愛に。だからごめんなさい」


 何か言いかけた男子生徒に覆いかぶせるように言葉を叩きつける。

 希望なんて、絶対に持たないように、容赦なく一刀両断する。


「……そうですか……」


 そう言い残し、彼は意気消沈した様子で、その場を去った。

 姿が見えなくなってから、汐那ははあ、と深い溜息をついた。


「あー……もー」


 先ほどの台詞でわかる通り、さっきの男子生徒の要件は、いわゆる「交際の申し込み」だった。

 汐那にとっては、もう嫌気が差すほどによくあることだった。

 人に注目され、ある程度の「美」を求められるモデルを生業としている以上、男子に告白されるなんて、もう星の数ほどあった。

 その大半が、汐那の美貌にやられた、いわばミーハーな気持ちで告白してくるような輩ばかりだった。

 そして、汐那はそれを全部断っている。

 理由はさっき言った通り、恋愛に興味をもてないからだ。

 もっとも、人の顔や身体しか見てないような連中となんて、仮に恋愛に興味があっても付き合いたくないが。


「……で、次の人、どうぞ」


 疲れた声で、そう言うと、物陰から、先ほどの彼とは別の男子生徒が現れた。

 ここに来る途中、さっきの男子生徒と同じように、汐那に「話があります」と声をかけてきた生徒だ。

 わざわざ日を改めるのも面倒なので、話が終わった後でいいなら、と一緒に来てもらって、話が終わるまで待ってもらった。


「それで話は?」

「あの……ずっと好きでした、付き合って下さい!」

「ごめんなさい」


 今度もばっさりと切った。

 硬直した男子生徒に向けて、言葉を重ねる。


「恋愛に興味がないから。話が終わったのなら、もう帰っていい?」


 と言いながら、返事を聞く前に、汐那は踵を返していた。

 置いていた鞄を手にとって、足早に歩く。

 第一体育館裏には、撃沈した男子生徒だけが残された。



(……本当にもう……)


 つかつかと廊下を歩きながら、汐那は内心でそうぼやいた。

 思い返すのは、告白してきたさっきの男子生徒たちだ。もう顔も覚えていないが。

 もううんざりだった。容姿に惹きつけられて、ボウフラのように涌いてくるミーハーな男どもも、そんな連中に時間を取られることも。

 かといって、これを誰かに話したら、「モテる奴の自慢か」とか、僻まれるのだからやってられない。

 はあ、と溜息をついた。頭を振って、もやもやを吹き飛ばす。

 そして、考えを切り替える。


(……さて。どうしよう、かな)


 そう汐那が考えているのは、未央のお誘いのことだ。

 未央には、「都合が良かったら、『桜』に来て」と言われている。

 つまり、汐那の都合が悪かったら、別に行かなくても問題はない。

 本音を言うと、さっきの告白二連続のことが原因で、少し面倒になってきた。

 「都合が悪くなったから、行けない」と言うのは簡単だ。

 適当な理由をでっち上げてしまえばいい。きっと、未央は納得してくれる。

 が、今はその適当な理由を考えるのも面倒だった。

 んー……、とその場で少し考えて。


「……行こう」


 とりあえず、行くことにした。

 行って、不愉快なことになったら、用事があるとかなんとか言って帰ればいい。

 なんて考えながら歩いているうちに、汐那は廊下を抜け、玄関に辿りついた。


「あ、蜜都さん」

「笹月さん」


 玄関で待っていた未央と合流した。


「終わったの?」

「うん」


 それを聞いて、未央は下駄箱から靴を取り出した。

 汐那も、下駄箱から、靴を取り出して、履く。

 そして、校舎の外に出る。


「じゃあ、行こう?」

「ええ」


 そう言って、汐那と未央は、『桜』に向かって歩き出した。





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