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Solve  作者: 黒藤紫音
歓迎会
14/77

よくあること

 昼休み。

 寝ていた涼護が起き、起きぬけで回らない頭で一つ欠伸をした。


「蜜都さん、今日もお昼一緒にどうかな?」

「うん、大丈夫」

「そっか。……今日は教室で食べても大丈夫、かな……」


 言いながら、未央が視線を教室の中と外に向ける。

 流石に転校二日目にもなると、昨日のよりも落ち着いてきてはいるが、それでもやはり汐那は注目されていた。

 教室の外にも「蜜都汐那」を一目見ようとする生徒が集まっている。

 それでも涼護の席からは距離を取っている辺り、理性は働いてるらしい。


「……どうする、蜜都さん。屋上に行く?」

「ううん、大丈夫。注目されるのは慣れてるし。というか、注目される仕事だしね」


 もっとも、当の汐那はあまり気にしていないようだった。

 たしかにモデルなんて職業は注目されてなんぼか、と涼護は起きぬけの頭で考えた。


「そう? じゃあ、教室で食べようか。あ、涼護席貸して?」

「そうすると、俺どこに座ればいいんだよって話だろ。……って、そういや、夏木どこ行った?」


 涼護が教室を見渡して夏木を探した。

 いつもなら一番に昼食を食べている夏木が、今日はどこにもいなかった。


「ああ、夏木なら、食堂で食べるって言ってたぞ」

「そうなのか?」

「昼食用に買っておいたパン、腹が減って食べてしまったんだと。で、なんか米が食いたくなったらしい」

「で、食堂か」


 ああ、と深理が頷く。

 夏木はサッカー部の朝練に毎日参加している。

 朝食もちゃんと食べているらしいが、昼まで腹がもたないらしい。

 なので、朝食とは別に朝の分と昼の分、多めにパンを買っているのだが、それでも持たない時があるらしい。

 そういう時の夏木の選択肢は購買か食堂で、今日は後者らしい。


「つーことは、昼飯食い終わるまでは戻ってこないな、あいつ。ちょっと椅子貸してもらうか。深理、机借りていいか?」

「お好きに」


 了承されたので、夏木の席から椅子を失敬する。

 深理の席まで運び、座ると机に弁当を広げる。


「んじゃ、いただきます」

「いただきます」

「「いただきます」」


 涼護と深理がそう言うのと同時に、向こうの二人もそう言った。

 そして涼護が弁当に箸をつけようとした瞬間。

 ピピ、と電子音がした。


「あ、悪い。ちょっと」


 携帯を取り出して、涼護は立ちあがった。

 そして携帯を耳に当てる。


「あ、はい。……はい。はい……わかりました。了解です」


 涼護は電話相手と少し話し、電話を切った。

 そして未央のほうを見る。


「未央、放課後ちょっと遅れる。仕事が入った」

「あ、うん。わかった」


 未央が頷いた後、涼護は椅子に座り直したと思うと、すごい勢いで弁当を掻き込み始めた。

 そして数分もしないうちに食べ終えた。

 買っていたペットボトルのお茶も飲み切っている。


「ごちそう様。じゃあ、俺帰るわ」

「え、帰るの?」


 涼護のあまりに唐突な言動に驚いている汐那だが、それとは対照的に未央や深理は落ち着いている。


「ああ。まあ、後で会えるだろ。じゃあな」


 そう言い残して、涼護は教室を飛び出した。



 涼護が飛び出ていった扉を、汐那はぽかんとして眺めていた。

 途中、おそらくは教師の「おい乙梨! どこに行く!」という怒号が聞こえてきた。

 涼護の「一身上の都合で帰ります!」という言葉も。


「……ねえ、笹月さん」

「はい?」


 未央を見ると、ずいぶんと落ち着いている。慣れているようだった。

 深理も同じようなものだった。いや、教室中の生徒たちも皆、落ち着いていた。

 突然生徒が帰ったというのに。


「……よくあることなの?」

「うん。まあ、そうだね」


 そう言って、未央は教室の窓から下を見た。

 汐那もつられて見ると、涼護が走っているのが見えた。


「……帰るって、どうなの」

「よくあることなの。慣れるわよ、すぐに」


 未央はそう言って、食事に戻った。

 汐那も食事に戻るが、内心では慣れるほど彼と関わるかわからないけど、なんて思っていた。

 一度助けられたとはいえ、汐那にとって涼護はまだその程度の存在だった。


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