今日の終わり
「……で、言い訳ある?」
「……えーと……」
涼護達四人は、陽羽署のロビーにいた。
あの後警察が来て、強盗犯を連行していった後、涼護も事情聴取として、警察に行くことになった。その現場にいた深理と未央、汐那も一緒だ。
署内に涼護の知り合いの刑事がいたこともあり、事情聴取自体は早く済んだ。
だが帰ろうと取り調べ室からロビーに戻った途端、未央がそう涼護に尋ねた。逃げることは許さない、という目をしながら。
そんな未央の視線から、涼護は目を逸らしていた。
「まあ、確かにあんな無茶をする場面ではなかったな」
深理もそう言って、涼護に視線を向ける。
深理のそんな視線からも目を逸らし、涼護は助けを求めて汐那を見る。
汐那はそんな涼護に苦笑を返した。
逃げ場はないようである。
「涼護?」
未央が有無を言わさぬ目で、涼護を見ている。
その目にしばらくの間耐えていたが、結局根負けした涼護ははぁ、と息を吐いて口を開いた。
「……目が合ったから」
「は?」
涼護の答えに、未央の口からそんな言葉が漏れた。
深理ははぁ、とため息をつき、先ほどまで苦笑していた汐那は目を丸くしていた。
「だから、目が合ったんだって。そうなったらもう助けるしかなかった」
汐那の時と同じだ。
目の前で誰かが困っているのを見てしまうと、どうしても無視できない。
関わらない方が楽なのは重々わかっているし、今回だって一歩間違えたら刺されて死んでいたかもしれない。
けれど、それでもあそこで無視するなんてことはできなかった。
誰かが助けを求めていて、助けを求めていることが理解できて、自分なら助けられる。なのに無視なんてできるわけがない。
「……涼護、お前、そんな理由で助けたのか?」
「仕方ないだろ、性分だ」
そりゃあ涼護だって、誰でも助けるわけじゃないし、誰かを助けるためなら命を懸けるねってことを言うつもりはない。聖人君子じゃあるまいし。
けれど、助けを求められたら助けてしまう。
それはもう“乙梨涼護”という生物の、本能に近いものだった。
「………………はあぁ」
未央が、深い溜息をついた。
「なんだよ」
「別に。涼護は涼護なんだなぁ、って思っただけ」
そう言う未央は、もういつも通りだった。
苦笑はしているが。
「もういいよ。それより、ごはんどうする? 食べにくる?」
「あ、あー……もうそんな時間か」
時計を見ると、もう17時前だった。
早めに終わったとはいえ、事情聴取でそれなりに時間を食ったようだ。
「じゃあ、行くか。腹減ったし」
「俺も行っていいか?」
「全然いいよー」
そう話しながら、ロビーから玄関へと歩いていく三人。
と、途中で未央が立ち止まって、振りかえった。
「あ、蜜都さん、どうする? 来る?」
「え? あー……ごめんなさい、ちょっと用事があって……」
「……そっか。じゃあ仕方ないね」
未央が汐那の言葉に頷き、陽羽署から出た。
その後を追うように、涼護と深理も出て行った。
○
涼護たち三人が外に出ていってから少し遅れて、汐那は陽羽署を出た。
「それじゃあ、私こっちだから」
「うん。それじゃあ、まあ明日」
そう言って、汐那に手を振る未央。
両脇を固める涼護と深理も、軽く手を振った。
手を振りながら、三人は汐那とは逆方向に歩いている。
汐那はそんな三人に手を振り返した。
そして、三人の目がこちらを向かなくなってから、ぽつりと呟いた。
「……バカじゃないの」
そう言う汐那の視線は涼護に向いていた。
その視線は、まるで理解できない生き物に向けるかのような視線だった。