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Solve  作者: 黒藤紫音
転校初日
12/77

今日の終わり

「……で、言い訳ある?」

「……えーと……」


 涼護達四人は、陽羽署のロビーにいた。

 あの後警察が来て、強盗犯を連行していった後、涼護も事情聴取として、警察に行くことになった。その現場にいた深理と未央、汐那も一緒だ。

 署内に涼護の知り合いの刑事がいたこともあり、事情聴取自体は早く済んだ。

 だが帰ろうと取り調べ室からロビーに戻った途端、未央がそう涼護に尋ねた。逃げることは許さない、という目をしながら。

 そんな未央の視線から、涼護は目を逸らしていた。


「まあ、確かにあんな無茶をする場面ではなかったな」


 深理もそう言って、涼護に視線を向ける。

 深理のそんな視線からも目を逸らし、涼護は助けを求めて汐那を見る。

 汐那はそんな涼護に苦笑を返した。

 逃げ場はないようである。


「涼護?」


 未央が有無を言わさぬ目で、涼護を見ている。

 その目にしばらくの間耐えていたが、結局根負けした涼護ははぁ、と息を吐いて口を開いた。


「……目が合ったから」

「は?」


 涼護の答えに、未央の口からそんな言葉が漏れた。

 深理ははぁ、とため息をつき、先ほどまで苦笑していた汐那は目を丸くしていた。


「だから、目が合ったんだって。そうなったらもう助けるしかなかった」


 汐那の時と同じだ。

 目の前で誰かが困っているのを見てしまうと、どうしても無視できない。

 関わらない方が楽なのは重々わかっているし、今回だって一歩間違えたら刺されて死んでいたかもしれない。

 けれど、それでもあそこで無視するなんてことはできなかった。

 誰かが助けを求めていて、助けを求めていることが理解できて、自分なら助けられる。なのに無視なんてできるわけがない。


「……涼護、お前、そんな理由で助けたのか?」

「仕方ないだろ、性分だ」


 そりゃあ涼護だって、誰でも助けるわけじゃないし、誰かを助けるためなら命を懸けるねってことを言うつもりはない。聖人君子じゃあるまいし。

 けれど、助けを求められたら助けてしまう。

 それはもう“乙梨涼護”という生物の、本能に近いものだった。


「………………はあぁ」


 未央が、深い溜息をついた。


「なんだよ」

「別に。涼護は涼護なんだなぁ、って思っただけ」


 そう言う未央は、もういつも通りだった。

 苦笑はしているが。


「もういいよ。それより、ごはんどうする? 食べにくる?」

「あ、あー……もうそんな時間か」


 時計を見ると、もう17時前だった。

 早めに終わったとはいえ、事情聴取でそれなりに時間を食ったようだ。


「じゃあ、行くか。腹減ったし」

「俺も行っていいか?」

「全然いいよー」


 そう話しながら、ロビーから玄関へと歩いていく三人。

 と、途中で未央が立ち止まって、振りかえった。


「あ、蜜都さん、どうする? 来る?」

「え? あー……ごめんなさい、ちょっと用事があって……」

「……そっか。じゃあ仕方ないね」


 未央が汐那の言葉に頷き、陽羽署から出た。 

 その後を追うように、涼護と深理も出て行った。



 涼護たち三人が外に出ていってから少し遅れて、汐那は陽羽署を出た。


「それじゃあ、私こっちだから」

「うん。それじゃあ、まあ明日」


 そう言って、汐那に手を振る未央。

 両脇を固める涼護と深理も、軽く手を振った。

 手を振りながら、三人は汐那とは逆方向に歩いている。

 汐那はそんな三人に手を振り返した。

 そして、三人の目がこちらを向かなくなってから、ぽつりと呟いた。


「……バカじゃないの」


 そう言う汐那の視線は涼護に向いていた。

 その視線は、まるで理解できない生き物に向けるかのような視線だった。


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