事件発生
ちょっとアクション?
描写が下手くそです。
放課後。
「蜜都さん、一緒に帰らない?」
「笹月さんがいいのなら」
未央は相変わらず汐那に世話を焼いていた。
委員長の立場からも、転校生を放っておくわけにはいかないのだろう。
「真面目な奴」
「笹月のことか?」
涼護がぽつりと呟いた言葉を、耳ざとく拾った深理がそう尋ねた。
ああと涼護は頷く。
「たく、苦労するだけだってのに」
「確かにその通りだな。……だが、俺もお前も、彼女のああいう世話焼きなところに救われただろう?」
「そうだけどな」
未央はこの陽羽市で生まれ育ったが、涼護と深理は違う。
涼護は4年前、深理は1年前に、それぞれの事情を抱えこの街にやってきた。
そして荒れていた心を、未央が癒してくれた。
……そこまで考え、当時の苦い記憶を思い出し、涼護は顔をしかめた。
それよりも今は、汐那のことだ。
「あー、未央。俺らも一緒にいいか?」
「もちろん。……蜜都さんも、いい?」
「うん。全然いいよ」
汐那がそう快諾し、涼護と深理は揃って息を吐いた。
そして教室を出ていく彼女たちの後を、ゆっくり追いかけた。
○
陽羽商店街を男子二人、女子二人のグループが歩いている。
しかもその内訳が眼鏡をかけた知的な美形男子、長い黒髪が綺麗な美少女、現役有名モデル、そして不良面男子なので、嫌でも目立つ。
「悪目立ちしてんなァ」
「ああ」
涼護がそうぼやいたのを、深理が適当に相槌を打った。
そんな二人の後ろでは、未央と汐那の見目麗しい少女たちが楽しげに話していた。
「じゃあ笹月さん、家喫茶店なんだ」
「うん。良かったら食べに来て」
「そうね。時間ができたら行ってみる」
馴染んではいるらしい。
二人の姿に安堵した涼護が、何気なしに商店街の外れに視線を向ける。
「……ん?」
視界に入った光景に、涼護は思わず立ち止まった。
突然立ち止まった涼護につられ、深理や未央たちも自然と足を止めた。
「どうしたの?」
「いや、なんかな」
商店街の外れにある雑貨屋『ライン』。
涼護は数える程度にしか足を運んだことはないが、雑貨屋の名の通り色んな小物が置いてある店だ。
「……なんだ、あれは」
深理がガラス戸越しから見える店内を見て、そう言った。
店内では、サングラスとマスクで顔を隠した中肉中背の怪しい男がレジの女性に刃物を突き付けていた。
「……ねえ、考えたくないんだけど、あれって……」
「……強盗、だろうな」
未央が言い淀んだ言葉の続きを、深理が拾った。
どうやら深理の言葉の通り、強盗らしい。明らかな犯罪現場だった。
「……って、どうするのこれ!? とりあえず警察!?」
「……だろうな。とりあえず、警察に――――」
それは偶然だった。
携帯を取り出している深理から、涼護は視線を店に戻した。
刃物を突きつけられているレジの女性と、偶然目が合った。
――――助けを求める視線と、目が合ってしまった。
(……あー、もー)
はあ、と息を吐き、涼護はその場に鞄を落とした。
ドサ、と鞄が道路に落ちる音がいやに大きく響いた。
「……あの、乙梨君。落としたよ?」
「悪い、預かっててくれ」
汐那にそう言い残すと、涼護は全力で駆け出した。
『ライン』に向かって、まっすぐに。
「ちょっと、乙梨君!?」
「涼護!」
「おい!」
深理たちの声が後ろから聞こえ、これは後で説教だななんて明後日のことを涼護は頭の隅で思った。
「はい、その辺にしとけ」
バンと店の扉を押し開き、店内に入った。
「……な、なんだお前」
「さあね」
刃物を持った男はいきなり店内に入ってきた涼護のほうを向いた。
当然、刃物も今は涼護に向いている。
それでも涼護は、不思議なほどに落ち着いていた。
すう、と息を吸い、ふう、と吐いた。
一歩一歩、ゆっくりと近づく。
「こ、これが見えないのかよ」
「見えてるよ」
男は包丁を涼護に突き付けた。
けれど、涼護の歩みは止まらない。
「と、止まれ」
「…………」
一歩一歩、無言で近づいていく。
「止まれよ……」
何を言われても、涼護の歩みは止まらない。
「と、止まれって――――」
男は、まったく止まろうとしない涼護に怯えていた。
そして、包丁を振り上げた。
「言ってるだろうがああああ!!!!」
振り上げていた腕を、涼護に向かって思いっきり振りおろした。
涼護はその手を取り、一気に懐に入り込む。
襟を持ち、そのまま一本背負いの要領で男を投げ飛ばした。
ダアンと床に叩きつけられ、その拍子に包丁が床を滑った。
受け身も取れずに床に叩きつけられた男は、げほと息を吐きだした。
涼護はそのまま男の胸に飛び乗り、マウントを取る。
両肩に膝を乗せて、完全に動きを止めた。
「こん、の……」
「しつけェんだよ、諦めろおっさん!!」
涼護は、往生際悪く暴れようとしている男の顔面に拳を叩き込んだ。
数回容赦の欠片もなく叩き込むと、男は鼻血を吹いて沈黙した。
「これでよし、と。あ、お姉さん、警察に連絡――――」
「……もうしたよ、ド阿呆」
びすと頭にチョップを入れてそう言ったのは、いつの間にか店内に入ってきていた深理だった。
手に携帯を持っているところを見ると、確かに警察には連絡し終えたようだった。
「……しかし、無茶するな、お前は。見ろ、あの女性陣の反応」
「あん?」
言われて後ろを見ると、店の外には茫然とした様子でこちらを見ている未央と汐那がいた。
それを見て涼護は気まずそうに目を逸らした。
「……後で説教コースかな、これは」
「……何の心配をしてるんだ、お前は」
はあ、と心底呆れたように、深理は溜息をついた。
警察が来るまで、涼護はただ気まずそうに頭を掻いているだけだった。