彼の一日
初めまして。
初投稿―――というわけでもありませんが、よろしくお願いします。
投稿は不定期になってしまうと思います。
「……ん」
授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いている。
それを頭の片隅で理解しながらも、乙梨涼護は起き上がらず仰向けの状態から寝返りを打った。
「……寝れねェ」
そうぼやき、涼護は短く切られた赤い髪をがしがしと掻きながら起き上がり、ベンチに改めて座り直す。
制服のポケットに突っ込んでいた携帯電話を開いて、時刻を確認すると、もう15:30になっていた。涼護が通っている陽羽学園では、もう放課後になっている時間帯だった。
涼護は昼休みからずっと屋上で眠っていたので、昼休みの後の授業はすべてさぼったことになる。
涼護も留年したいわけではないし、ボーダーラインを見極めて留年しない程度の頻度でさぼっている。
しかし、そんなことはお構いなしに説教をするような人間が、涼護の友人にはいた。
「……うるさいのに捕まる前に帰るか」
「誰のこと言ってるの?」
後ろから突然聞こえてきた言葉に肩をびくりと震わせ、恐る恐る涼護は振り返る。
そこにはできれば外れて欲しかった予想通りの人間が仁王立ちしていた。
風に煽られ、女子制服のスカートがひらひらと揺れている。その中身は見えそうで見えない。
「……未央」
「おはよう、涼護?」
彼女の長い黒髪が、風で靡いていた。
笹月未央。涼護にとって幼馴染と言うには浅く、けれどただの友達と言うには深い付き合いの少女。
身内の欲目を抜きにしても、間違いなく美少女で、男子生徒からたまに告白されているようだった。
「またさぼってたわね、涼護」
「……あー、計算してるから問題ない……んだが」
「だからってさぼっていい理由にはならないわよ、馬鹿」
べしん、と涼護の頭を叩く未央。叩かれたところを撫でながら、涼護はベンチから立ち上がる。
「一年の時と同じじゃない。ちゃんと授業に出なさいよ」
「一年の時もちゃんと進級できてるんだから問題ないだろ」
「モラルの問題。ちゃんと真面目に受けなさい。困るのは涼護自身よ?」
「テストはたいてい平均点取れるんだが」
「……ああ言えばこう言うんだから……」
「仕事柄、口は鍛えられてるからな」
額に手をやって溜息をついている未央を見下ろしながら、涼護は欠伸を噛み殺し、溢れてきた涙を拭った。
「つーか、お前がここにいるってことはホームルームも終わったんだろ? 帰るな俺」
「ああそう……涼護、言っておくけど後悔するの涼護自身だからね?」
「わかってるよ」
そう言って、未央にぷらぷらと手を振る。
涼護のその様子が気に食わなかったのか、未央は形の良い眉を歪めながら睨みつけた。
「ちょっと、ちゃんと聞いてるの?」
「聞いてる聞いてる。とりあえず帰るわ」
そう言って涼護が屋上の扉に近付いていくと、まだ開けていないのに向こうから扉が開き、人影が飛び込んでくる。
「乙梨ー!」
飛び込んできたのは、涼護のクラスメイトだった。
肩で息をしながら飛び込んできた彼は、顔を上げると必死な口調で涼護へと話しかける。
「今帰りか? じゃあ暇だよな!?」
「まァ、用事はないが?」
「じゃあ『依頼』がある!」
依頼、という言葉に涼護は真剣な顔になると次の言葉を待つ。
「内容は?」
「バスケ部の試合、助っ人頼む!」
「了解」
涼護は利き腕の右の肩を回した。ごきり、と小気味いい音がした。
――――さあ、仕事の時間だ。