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大公家

 竜の国の西の外れに大公の領があった。


 深い森と険しい山々が大陸中央の国との国境線を形作っていた。森の奥、山との境目に何ヶ所か魔物が湧く場所があった。

 

 三十年ほど前、当時の王の年の離れた末の弟アスランが、辺境の人々を悩ませていた魔物たちを掃討した。それぞれの魔物の癖を見抜き、作戦を立て、効率的に。大多数を片付けたが、毎年毎年、時期になると湧いてくる。臣籍降下しアスラン・フォン・エルンシュタイン大公となり、辺境に屋敷を建て、騎士団を連れて魔物の湧く時期は討伐隊を出している。お陰で、辺境の人々は魔物の姿をほとんど見ずに過ごせている。


 三年前の討伐の時、討伐隊を引き継ぐ筈の長男ローデリックが魔物の毒で倒れた。間が悪く、聖女は別動で初期の治療が遅れた為、半年苦しんで亡くなってしまった。幼い息子ヴァルターを残して。

 引き継いだ次男エドガルは元々、武闘派ではなかった。討伐隊の騎士団長は他の者に任せて、領地を盛り立てるように学んでいたところで、病に倒れた。

 もう一人、イルアールの七つ上にアーデルハイトという姉がいた。小さいうちに治癒能力が発現し、七歳で聖女見習いとして教会暮らしになった。成長後は聖女として度々辺境の大公領の討伐隊にも派遣され、魔物の湧く季節には討伐隊と共に行動していた。兄ローデリックの事故の際に側に居られなかったことを悔いていた。二十五歳となり、聖女の活動は引き継ぎ、実家に戻っていた。聖女の頃より少し力を失ったアーデルハイトではあったが、治療のおかげで少しずつエドガルも快方に向かっていた。


 この度、跡取りとして()()()()連れ出されてきた三男は、眩しいほどの美丈夫で、体格の良さも辺境騎士団の中で一番だった。

「病弱って話では?」

 という声に、放っておいたら育っていた、と苦笑いしながら大公は答えた。


 アスラン大公はまだまだしっかりしてはいたが、六十を超え、本来であれば長男に責を引き継ぐつもりだった。その息子ヴァルターはまだ五歳。その間の繋ぎをイルアールにと考えていた。


 イルアールも望まれればやぶさかではない。魔物の討伐に出て、祖父の指導で身に付けた剣技を活かせるものなら。伯爵家で縁の下の力持ちになるのも、大公家で繋ぎになるのでもどちらも、自分の力を誰かの為に役立てられるのは喜ばしいことだ。


 とはいえ、突然現れたイルアールに大公家はどよめき立った。


 勿論、大公の前で言い出す者はなかったが、亡くなった大公の長男ローデリックに今も敬意を抱いている者、今の騎士団長に信を置いている者。特に、大公の長男が亡くなったのは、当時の新人達を庇ってのことだったので、庇われたその元新人達。彼らに鬱々とした思いがあるのが見える。

 じわじわと漏れ聞こえてくる不満を耳にしながら、イルアールはここをどう持って行くかが肝だなと思っていた。


 ――挨拶代わりに模擬戦をやることになった。

 そもそもとして、何もイルアールが一番強くなくてはいけないという事はない。父の大公の若い頃こそ、当代随一の剣で、剣術も指揮統率も竜の国で一番優れていた。それが歳を重ねて沢山の経験は手に入れたものの、体力は落ち、今は前線には出ないのだった。

 引き継いだ、今は亡き長男も父譲りの剣筋の強剣だった。

 イルアールについては、どれほどの腕前か誰も知らず。模擬戦は大公も観覧することになった。


 三戦。第一隊隊員、第三隊隊長、騎士団長。奇しくも、不満のある三派閥の関係それぞれから選んだような形となった。


 イルアールの剣は派手さがない。

 父の大公や亡くなった長男の剣は力を誇示するかのような派手な剣で、魔物一頭一頭をできるだけ少ない手数で確実に仕留める物だった。斬撃一刀。

 イルアールの剣は体力を温存し、長く戦い続けられる。おそらくは先鋒として魔物を弱らせて、他の者が仕留める、チームで戦う戦術だろう。第一隊隊員と第三隊隊長には勝った。騎士団長には負けた。派手に動かずにいなす剣は、騎士団長や第三隊隊長には技量が読めたが、第一隊隊員はその技量を読めなかった。右に左にいなされ、本気では無いように思えた。

「俺を馬鹿にしやがって」

 小さく呟いた彼の声は誰にも聞こえなかったが。


「イルアール、伯爵家の騎士団では、先鋒(ヴァンガード)だったのか?」

 大公の問いに

「そうですね。大体は」

「お前、それで後ろが間に合わず、離されることは?」

「常に後ろの部隊を確認しますから、離れてきたら、自分で仕留めます。先鋒(ヴァンガード)じゃ無い時も」

「そうか、此方では一度に大量に魔物が湧く。後ろの者達もそれぞれ戦っている時もある。一刀で仕留める剣も使えるか?」

 そう言われたイルアールが、少し離れて大きく振った剣は、空気を割いて音もなくドンという衝撃だけが伝わってきた。

 一瞬遅れて騎士団員達の、おぉ!という声がした。

「まるで雷が落ちたかのようだな。」

 

「ずっとこれだと半日しか体力持たないんですけどね……」

 半日持つのか……と口の中で呟いてから、大公は言った

「面白い男に育ったな」


「あれが出来るんなら、一撃剣で模擬戦やれってんだよ」

 解散後、くだんの第一部隊隊員が言った。

「いやお前、人の身であれ受けたら剣を交わす前に死ぬぞ」

 まぁそうだなと次の言葉を飲み込むしかなかった。


 


 


 

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