第六話 盤上の駒
南東へ向かう。崩れた高架の影を抜け、瓦礫を踏み越える。
「残りの距離140」
凛が告げる。
西班の行動不能通知以降、空気が少しだけ重たい。
だが足を止めるわけにはいかない。
マップ上で、蒼陵の三班がゆるやかに展開している。
均一、距離も、角度も、やはり揃いすぎている。
「……動きが綺麗すぎるな。」
湊が呟く。
「偶然で出来る形じゃない。」
それに凛も同意する。
その時、蒼陵の一班がわずかに進路を修正した。
ほんの数メートル。だがその修正でこちらの進路と交差しなくなった。
「避けられたのか?」
颯真が鼻で笑う。
「読まれてる?」
「いや、読んでるというより――」
言葉を探す。読んでいるというより、最適化に近い。迷う前に、まるで正解へ引き寄せられているようなそんな感じ。
南東の端末が見えたその瞬間表示が更新された。
【蒼陵高校:3基確保】
澪が息を呑む。
「また取られた……。」
蒼天:2
蒼陵:3
残り:2
「接触を回避しながらこの速度は異常だ。」
凛が淡々と分析する。
俺はマップを見て確認する。
蒼陵三班は一定間隔。一定速度。一定修正。
まるで盤面を俯瞰している誰かが、微調整しているかのような動き。
「前に立ってる黒髪。」
湊が言う。
「あいつが指揮してるんじゃないのか?」
「多分違う。」
視線は後方を向く。小柄な白髪の生徒。
常にマップの中央で全体を俯瞰しているような位置。そして常に仲間に囲まれている。今思えばこれは守られていたってことなんじゃないかとすら思う。
そして例える
「前にいるのはチェスに例えると駒だ。」
颯真が笑う。
「駒?」
「盤面で言えば……」
一瞬だけ迷い、言葉を選ぶ。
「クイーン」
凛が目を細める。
「じゃあ後ろは?」
全員が白髪の生徒を見た。
その質問に短く答える。
「キングだ。」
その瞬間自分達の目線に気がついたのか、白髪の生徒がわずかにこちらの方向に視線を上げた。
距離はまだあるはずなのに、それでも見られている感覚。南東端末付近、蒼陵の他の班が待機している。
そして自分たちの周囲を囲まず、あえて開けたような配置。
「あいつ誘ってるな。」
颯真の声が低い。
「私たちを削る気のようね。」
凛が分析する。
他の蒼陵二班は外周を守っている。包囲の形は完全な布陣だった。
「先に言っておくわ、撤退もありよ。」
凛が言う。
もう一度マップを見る。
蒼陵側の中心マーカー、その位置がほんの一瞬だけ、淡く発光していたのは気のせいではない。とゆうか今度は確信に近い。
そしてまた発光と同時に、蒼陵全体の隊列が半歩だけ同期して下がった。
完璧なタイミング。そして完璧な距離。
「……やっぱりいる。」
「何がだ?」
颯真が聞く。
「まだわかんないのか?補正してる奴がいるってこと だ。」
クイーンは前で圧を出す。だが全体を整えているのは、キング。
それは能力か、それとも端末の拡張か。まだ分からない。だが一つだけ確かなのは蒼陵は、“迷っていない”。
やはり迷う前にその問題の正解へと引き寄せられている。
カウントは【02:17:52】
蒼天:2
蒼陵:3
残り:2
北東端末を挟み、両校が向かい合う。
距離は二十メートル。だが誰も踏み込まない。
しかし盤面は、完全に動いていた。
キングは、後方から。クイーンは、前線で。
そしてこちらもまた、駒で終わるわけにはいなかい。
「……揺らしてみるか。」
盤上は奇妙なほど静かだ。だが、次の一手でどちらかが崩れる。そんな予感がしていた。
第六話、読んでいただきありがとうございます。
盤面が静かに動き始めたような?
蒼陵の動きが“綺麗すぎる”理由そして迷いのなさ。
ほんの一瞬だけ光るマーカー。
気づいた方はいるでしょうか?今回のテーマは「違和感」です。
正解が見えることよりも、“何かおかしい”と気づけるかどうか。
玲央はまだ答えを出していません。
でも、盤面の歪みには確実に触れました。
そして次話静かな心理戦が始まります。
誰が王で、誰が旗を振っているのか。
正直わかりやすかったと思いますがどうかお楽しみに。




