第二十五話 削らないという選択
『第三層開始まで、残り五分です。』
アナウンスが響く。
朝食を食べ終えた後ホテルのロビーに集められた蒼天と白嶺の生徒たち。
水木がロビーの中央に立つ。
「本層は個人戦となっているため相手高校は存在しません。」
その言葉が、空気を変える。
「蒼天も白嶺も関係ありません。」
「皆様は“参加者個人”として扱われます。」
つまり今回のゲームに“相手高校”はいない。
敵は、目の前の誰かかもしれない。
水木が指を鳴らす。床が左右に開く。
下へと続く透明な通路が現われる。
「それでは会場へご案内いたします。」
玲央が一歩踏み出す。
「行くぞ。」
その後ろを九条が続く。
真白がその後ろを歩く。白嶺の生徒も、黙って列に加わる。
敵同士だったはずの足並みが、奇妙に揃っている。
だが、これはもうチーム戦ではない。
通路を進む。壁は全面ガラス。
外側には、上下が反転した都市のような構造が広がっている。
建物が宙に浮き、階段が天井へと伸びている。
重力が安定しているのは、この通路だけ。
「……なんだよこれ。」
久我が呟く。
凛が観察する。
「視覚の錯覚を利用した空間構造ってとこね。」
通路を抜けてやがて円形の広場に辿り着いた。
床には黒いパネル。天井には巨大なモニター。
水木が中央に立つ。
「ここから先は、別の者が進行を担当します。」
わずかに微笑む。
「それでは皆様の無事を心から願っています。」
その言葉だけを残して、水木は静かに後退した。
彼女の姿は影の中へ消えた。
代わりに、天井のモニターが一斉に点灯する。
低い電子音。そして、声。機械的だが、妙に滑らか。
『第三層――逆位階層へようこそ』
広場中央の床が開き、ゆっくりと一人の人物がせり上がる。
長身。黒いスーツ。銀縁の眼鏡。
年齢は二十代後半ほど。
「初めまして。」
淡々とした声。
「本層の進行を担当いたします。管理官・御影と申します。」
そしてゲームの説明へと移る。
『第三層――逆位階層のルールを説明します』
「聞いているとは思いますが第三層は個人戦です。」
「高校、過去、関係性は一切加味されません。」
「評価対象は“現在”のみ。」
その時腕に冷たい感触が走り、全員の腕に金属が装着された。銀色の腕輪。そして液晶が点灯する。
『本層は個人戦です。まず価値ポイントが各個人に割り振られます。価値は譲渡する事が可能。制限時間ごとの審査で最下位の方は失格となります。」
久我が低く言う。
「つまり……今回のゲームには勝負する相手がいないってことだな。」
御影が笑う。
『はい。助けるも、見捨てるも、自由です』
腕輪に数字が表示される。
玲央。
【75】
九条。
【60】
凛。
【82】
久我。
【48】
朝比奈。
【71】
立花。
【63】
湊。
【110】
湊のその数字に視線が集まる。
「……110?」
明らかな格差。
だがそれ以上に場をざわつかせたのは
真白。
【12】
その数字を見た瞬間このゲームの目的が明確になる。
それは点数を低い者を削れと示しているようだった。
真白の顔が青ざめる。
九条が迷わず動く。
「私が渡す。」
60 → 45
真白へ15。
真白のポイントは27
久我が歯を食いしばる。
「クソ、いきなり削れってか……!」
玲央が叫ぶ。
「待て!まだ時間はある。無計画にポイントを削るな!」
凛が言う。
「まずは落ち着いて状況を整理しましょう。今回のゲームの作戦は平均化が最善だわ。」
アナウンスが鳴る。
『条件達成』
この場には安堵の空気。
だがすぐに次の表示。
【現在最下位:真白 27pt】
【次回審査まで:15分】
ポイントを渡したから無事だとは言い切れない。順番に落ちる。
久我が吐く。
「こんなの結局削り続けるしかねぇじゃねぇか。」
御影の声が降りる。
『価値とは、あなたがどれだけ必要とされているか』
『そう。言わばあなたの存在証明です。』
全員が疑心暗鬼になる。
その時九条が口を開く。
「削らない。」
全員が九条を見る。
「さっきも言ったけど全員でポイントを上げる方法を探す。」
湊が腕輪を見る。
「……見ろ。増減ログがある。」
凛も気づいた。
「譲渡以外で微増してる?」
玲央が理解する。
「つまりこれは行動評価。運営に監視されてる。」
それは信頼、接触、滞在距離。
“孤立”がマイナス。“共有”がプラス。
湊が言う。
「固まって動こう。誰も一人にしない。」
久我が半信半疑で言う。
「固まって動くなんてそんな簡単に……」
その瞬間床が傾く。
空間が反転する。上下が入れ替わる。
逆位階層。広場の外側が崩れ、個別エリアが出現する。
全員の足場が分断される。
そしてアナウンス
『協調して行動を継続できるか、試すためのものです。』
足場が離れていく。全員が自然に真ん中にいる真白の近くへ寄る。
数値が微増する。
【真白 27 → 29】
どうやら固まった事で接触とみなされポイントが譲渡されたようだ。
九条が息を吐く。
「まだいける。」
その時湊の腕輪がわずかに光る。
【112】
誰も気づかない。だが御影だけがその数字を見てた。
「彼はとても興味深い人物のようですね。」
小さく呟く。
第三層はまだ始まったばかり。御影はそれを眺めそして微笑む。
「さて彼らが壊れるのは、はたしていつになるでしょうね。」
第三層が始まりました。
今回のテーマは――「価値」。
それは点数なのか。信頼なのか。それとも存在証明なのか。
個人戦と言われた瞬間、空気が変わりました。
敵はもう“相手高校”ではない。目の前の誰かかもしれない。でも彼らは、最初に“削らない”を選びました。
理論上可能な全員生存ルート。
そして湊の数値だけが増えている。
それは偶然でしょうか?それとも――。
御影は観測者。水木は案内人。
この二人の立ち位置の違いにも、意味があります。
第三層はまだ始まったばかり。ここからは、信頼が試されます。
もしよければ教えてください。
・個人戦、どう思いましたか?
・湊、怪しいと思いますか?
・全員生存ルート、本当に可能だと思いますか?
次回、揺さぶりを入れます。
削らずにいけるか。それとも――。




