第6話 不合格者の行方
静まり返った会議室に、空調の音だけが響いていた。
長机を挟んで座る十二名の被験者たちは、誰一人として口を開かない。
全員が、目の前の俺を見ている。
――正確には、俺の手元にあるタブレットだ。
そこには、先ほどまで行われていた最終評価の結果が表示されている。
合格と不合格。
たった二文字で、人の人生を切り分ける画面。
「結果を発表する」
俺がそう言った瞬間、空気が一段階重くなった。
「合格者は五名。不合格者は七名だ」
ざわり、と小さな動揺が走る。
だが、誰も立ち上がらない。
まだ、名前を呼ばれていないからだ。
「まず、不合格者から伝える」
あえてそうした。
希望を与える前に、絶望を見せる。
「番号三。四。六。八。九。十一。十二」
呼ばれた者たちの表情が、一斉に固まった。
「……ちょっと待ってください」
最初に声を上げたのは、番号八の男だった。
三十代前半。元外資系コンサル。
自信とプライドを鎧にしているタイプ。
「理由を聞かせてもらえますか? 私の成績は――」
「優秀だった」
俺は即答した。
「知識、分析力、判断速度。すべて平均以上だ」
男の顔が、わずかに緩む。
「では、なぜ――」
「チームを壊すからだ」
一瞬で、その顔から血の気が引いた。
「君は正解を出す。しかし、他人の正解を許さない。
自分より遅い者を“無価値”だと判断する。
組織にとって、最も危険なタイプだ」
「……それは、能力の問題ではないでしょう」
「違う」
俺ははっきりと言った。
「組織において、それは能力の欠陥だ」
会議室が凍りつく。
「この選抜は“優秀な個人”を選ぶ場じゃない。
“残す価値のある存在”を選ぶ場だ」
番号八の男は、唇を噛みしめ、何も言えなくなった。
次に、若い女性が立ち上がる。番号九。
「私は……努力しました。
結果も、他の人と比べて悪くなかったはずです」
「そうだな」
俺は頷いた。
「だが君は、常に“指示待ち”だった。
正解を選ぶことはできる。
だが、正解を作る側には回らなかった」
「それは慎重だっただけです!」
「違う」
また、同じ言葉。
「決断しないことを、安全だと勘違いしている」
彼女は泣きそうな顔で席に座り込んだ。
七人分、すべて説明した。
情は挟まない。
声も荒げない。
ただ、事実と判断基準を突きつけるだけ。
最後に、こう告げた。
「不合格者は、この施設を去ってもらう」
「……行き先は?」
誰かが震える声で聞いた。
「知らない方がいい」
それは脅しではない。
本当のことだった。
不合格者たちが退室したあと、会議室には五人だけが残った。
合格者だ。
彼らの顔には、安堵と恐怖が混ざっている。
「勘違いするな」
俺は言った。
「合格は、価値があると判断されただけだ。
信頼されたわけじゃない。
生き残っただけだ」
沈黙。
「次からは、個人ではなく“チーム”を判定する」
その一言で、全員の表情が変わった。
「仲間を守れない者は切る。
切るべき仲間を切れない者も切る」
誰かが、息を呑む音がした。
「――ようこそ」
俺は、淡々と告げる。
「ここからが、本当の選別だ」




