第3話 記録に残らない証拠
佐久間 恒一が、この世界から消えて三日。
それでも、俺の頭の中からは消えなかった。
会社では何事もなかったように業務が回っている。
空いていた窓際の席には、すでに別の社員が座っていた。
誰も疑問を持たない。
誰も思い出さない。
――俺以外は。
昼休み、俺はスマホを握りしめていた。
例のメモ帳を開く。
【昨日の打ち合わせ:佐久間さんの案、採用】
削除しようとして、指が止まった。
「……消えない?」
何度消しても、なぜかその一行だけが復活する。
まるで、俺に思い出させるために残っているみたいに。
その日の帰り道、俺は佐久間が消える直前に話していた内容を思い返していた。
才能。
向き、不向き。
将来的価値。
――あの時、俺は“評価”を下した。
翌日、確かめずにはいられなかった。
会社近くのカフェ。
最近見かけなくなったアルバイトの女性がいたはずだ。
愛想がよく、仕事も早い。
常連の間では評判だった。
「最近、あの子見ないですね」
何気なく聞くと、店員は首をかしげた。
「……誰のことですか?」
胸がざわついた。
店のシフト表にも、履歴にも、
最初から存在しない。
その夜、また夢を見た。
白い空間。
文字だけが浮かんでいる。
【判定待機中】
【対象:複数】
【補助ログ生成中】
――補助?
目が覚めた瞬間、汗でシャツが張り付いていた。
俺は気づき始めていた。
佐久間だけじゃない。
消えた人間が、少なくとも二人いる。
そして、共通点が一つ。
消える直前、
俺は彼らを“評価していた”。
能力。
将来性。
価値。
無意識のうちに。
スマホの画面に、見知らぬ通知が一瞬だけ浮かぶ。
【次回判定まで:72時間】
すぐに消えた。
だが、はっきり見えた。
――俺は、もう無関係じゃない。
そう理解した瞬間、背筋が凍った。
もし次に消えるのが、
俺の身近な人間だったら?




