第20話 判定される集団
警告音が、室内に響いた。
低く、短い電子音。
それだけで、全員が息を止めた。
監督官が前に出る。
「次の判定対象を発表します」
一瞬の沈黙。
「――合格者グループ、全員」
言葉が、理解に追いつかない。
「……全員?」
誰かが呟いた。
監督官は頷く。
「個人評価は終了しました。これより、集団評価フェーズに移行します」
スクリーンが切り替わる。
《評価対象:第七選抜グループ》
《人数:12名》
《評価項目:統制・同調・逸脱排除率》
逸脱排除率。
嫌な単語だ。
「これまでの行動、発言、投票傾向を総合的に解析しました」
画面に、グラフが並ぶ。
色分けされた線が、上下している。
「結論から言います」
監督官は、感情のない声で告げた。
「この集団は――不安定です」
空気が、ざわつく。
「理由は、二つ」
スクリーンに文字が浮かぶ。
《① 内部に疑問を抱く者が存在する》
《② 排除判断に迷いが見られる》
胸が、締めつけられる。
――俺だ。
名指しはされていない。
だが、わかる。
「よって、是正措置を行います」
監督官が、指を鳴らす。
床の一部が光り、円形の表示が浮かび上がった。
「これより、集団内判定を実施します」
誰かが叫んだ。
「どういう意味だ!」
「簡単です」
監督官は淡々と言う。
「このグループから、“不適合要素”を一名、選んでください」
言葉が、突き刺さる。
「選ばれた者は、不合格」
沈黙。
誰も動かない。
「制限時間は、五分」
端末が起動する。
《排除対象を選択してください》
――人を選べ、と。
今までは、不合格者だった。
外にいた。
だが、今回は違う。
同じ合格者の中から、切る。
隣の女が、震える声で言った。
「……冗談でしょ」
誰かが、笑った。
乾いた、引きつった笑い。
「やらなきゃ、全員アウトってことか?」
監督官は首を横に振る。
「選ばなかった場合」
一拍。
「全員不合格です」
完全な沈黙。
五分という数字が、残酷に光る。
誰かが、視線を逸らした。
誰かが、俺を見た。
――始まった。
疑心暗鬼。
「……あの人じゃない?」
「さっきから、何も喋ってない」
「評価、低かったよね?」
小声が、連鎖する。
俺は、端末を見つめた。
名前の一覧。
十二人。
全員、ここまで一緒に来た。
誰かを選べば、生き残れる。
選ばなければ、全滅。
合理的なのは、どっちだ?
――違う。
この問い自体が、罠だ。
選んだ瞬間、
この集団は“排除できる集団”として合格する。
選ばなければ、
排除できない集団として失格する。
つまり。
どちらに転んでも、
俺たちは“評価される材料”になる。
残り、二分。
誰かが、声を上げた。
「決めよう……時間がない」
別の誰かが、叫ぶ。
「待て! これは――」
その瞬間。
スクリーンに、新しい表示。
《補足情報》
《不適合要素は、すでに一名特定されています》
全員が、息を呑んだ。
「……え?」
監督官が、初めて笑った。
「あなた方が選ぶ必要はありません」
ゆっくりと、こちらを見る。
「すでに、選ばれています」
視線が、一直線に――
俺に向いた。
端末が、震える。
《排除対象:あなた》
心臓が、止まった。
なぜ?
理由が、表示される。
《理由:判定時における迷い》
《組織適応率:未確定》
――迷っただけで?
誰かが叫ぶ。
「そんなの、おかしい!」
監督官は首を傾げる。
「迷いは、不安定要素です」
俺は、立ち尽くした。
逃げ場はない。
だが、そのとき。
誰かが、端末を床に叩きつけた。
「……ふざけるな」
一人、前に出る。
「だったら、俺が代わりに落ちる」
ざわめき。
監督官の目が、細くなる。
「理由は?」
男は、はっきりと言った。
「この人間がいないと、この集団は崩れる」
空気が、変わった。
――想定外。
監督官が、黙り込む。
システムが、再計算を始める。
警告音。
赤い表示。
《評価再構築中》
俺は、その光を見つめながら思った。
――ここからだ。
この場所は、
従う人間だけを求めている。
なら。
俺は、
従わないことで、生き残る。




