第18話 不合格者の声
扉の向こうから、足音が聞こえた。
一人目の“不合格者”が、入室する。
二十代前半の女性。
服装は簡素で、表情は硬い。だが、怯えてはいない。むしろ――腹を括った顔だ。
「番号、A-17」
監督官が告げる。
「あなたは、再評価対象者です。ここにいる合格者たちが、あなたを再度判定します」
女性は、俺たちを見回した。
十二人。
全員が、評価する側。
「……質問しても?」
「許可します」
彼女は一瞬だけ目を伏せ、そして言った。
「私は、何が足りなかったんですか?」
空気が、張りつめる。
監督官は答えない。
代わりに、背後のスクリーンが光った。
《感情抑制率:低》
《協調性:平均以下》
《判断速度:良》
《逸脱許容値:高》
「この数値です」
女性は画面を見つめ、鼻で小さく笑った。
「……やっぱり」
「反論はありますか?」
監督官の問いに、彼女は即答した。
「あります」
声が、はっきりしている。
「私は、間違っていると思ったら黙れません。それが“逸脱”なら、そうでしょうね」
誰かが、目を伏せた。
「でも」
彼女は続ける。
「それって、本当に危険ですか?」
沈黙。
「従順で、空気を読んで、疑問を飲み込む人間だけが安全なら――」
一瞬、こちらを見た。
「その組織は、もう壊れてると思います」
胸に、鈍い痛みが走る。
「質問は以上です」
彼女は一歩下がった。
「判定を開始してください」
合格者一人ひとりの前に、端末が配られる。
《再合格》か《不合格維持》か。
制限時間は、三十秒。
数字ではなく、人間を見たあとでの選択。
隣の男の指が、震えている。
――俺は、どうする?
正直に言えば、
彼女の言葉は、正しい。
だが、ここは“正しさ”を評価する場所じゃない。
このシステムが求めているのは、
従えるかどうかだ。
残り、十秒。
俺は画面を見つめたまま、動けずにいた。
――もし、ここで再合格を押せば。
この制度そのものに、楔を打つことになる。
だが同時に、自分の数値も下がる。
指先が、冷たくなる。
「三、二、一」
時間切れ。
結果が、即座に集計される。
スクリーンに表示された文字。
《再合格:3》
《不合格維持:9》
多数決。
女性は、画面を見て、少しだけ笑った。
「……なるほど」
泣かない。
怒らない。
ただ、一言だけ残した。
「あなたたちは、間違ってない」
そう言ってから、俺を見た。
なぜか、俺だ。
「でも、正しくもない」
扉が閉まる。
足音が、遠ざかる。
監督官が言った。
「記録完了」
その言葉が、やけに重く響いた。
俺の端末に、新しい数値が表示される。
《感情抑制率:上昇》
《協調性:上昇》
――評価されてしまった。
人を切った結果として。
次に呼ばれる“不合格者”は、
もっと、都合が悪い人間だという。
なぜなら――
「次の対象は、組織批判を行った者です」
空気が、さらに冷えた。




