第10話 評価する側
第10話 評価する側
再び会議室に集められた時、俺たちはもう「待つ側」ではなかった。
円卓の中央に、見慣れない端末が置かれている。
人数分――いや、正確には一人分足りない数だ。
『第十評価会を開始します』
無機質な音声が響く。
『本評価より、合格者は「評価対象」ではなく「評価主体」となります』
空気が一瞬、止まった。
「……評価主体?」
誰かが声を上げる前に、画面が切り替わる。
【本評価は、相互評価によって行われます】
【あなたは、他者を評価する立場にあります】
ざわめきが起きた。
「冗談だろ……」
「俺たちが、他人を決めるのか?」
俺は黙って画面を見ていた。
来ると思っていたが、思ったより早い。
『各自の端末に、評価対象が表示されます』
目の前の端末が起動する。
表示されたのは――三人分の名前。
心臓が、わずかに跳ねた。
全員同じではない。
評価対象は、ランダムに割り当てられている。
『評価項目は三つ』
『適性』『信頼』『不要性』
最後の文字が、やけに目に刺さった。
不要性。
つまり――切るかどうか。
『各項目を総合し、評価を下してください』
『なお、評価理由は記録されます』
誰かが息を呑む音が聞こえた。
「……拒否権は?」
震える声が飛ぶ。
即座に、返答。
『拒否は可能です』
安堵の空気が流れかけた、その直後。
『拒否した場合、あなた自身の評価に反映されます』
沈黙。
完全な、沈黙。
俺は端末に視線を落とす。
一人目。
発言が多く、空気を読まず、だが常に中心にいた男。
二人目。
無難で、協調的で、目立たない女。
三人目。
――ほとんど話さなかった男。
沈黙は中立ではない。
その言葉が、脳裏をよぎる。
選ばなければならない。
誰かを。
俺は、ためらわなかった。
評価理由の欄に、短く入力する。
「集団の意思決定を遅らせる存在」
そして、判定を下す。
【不要】
指先が、わずかに震えた。
だが後悔はない。
これは感情の問題じゃない。
――構造の問題だ。
周囲を見渡すと、皆それぞれ端末を見つめ、苦悩している。
誰かが泣きそうな顔をしている。
誰かは目を閉じ、深呼吸している。
俺は、もう一人も評価した。
同じ判定を。
『評価入力、完了を確認』
画面が暗転する。
数秒の沈黙の後、結果が表示された。
【第十評価 結果発表】
名前が、一つずつ消えていく。
重なった評価。
多数決。
合理。
そして――
【不合格】
会議室の空気が、はっきりと冷えた。
誰かが椅子を蹴り、立ち上がりかける。
だが、何も起こらない。
その人物は、静かに退出を促された。
振り返らずに。
『評価は、正常に実行されました』
『次回より、評価精度があなた方自身に反映されます』
つまり。
切る判断を誤れば、次は自分が切られる。
会議室を出る時、視線が集まった。
俺に。
さっきまで「同じ側」だったはずの視線が、
はっきりと警戒に変わっている。
――いい。
もう、戻れない。
俺は理解した。
ここは、生き残る場所じゃない。
選び続ける場所だ。
判断できる者だけが、残される。




