表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梁山泊 -Liang’s Dining-  作者: 高火力鉄鍋
88/89

第七十九話 双鞭、乾いた野(前)

東の野はれ、風は乾いていた。

 鼓ではない、しかし乾いた音が二つ、を置いて響く。

 双鞭そうべん――両の手に巻いた鉄のむちが、土の息を測るように軽く鳴る。


 呼延灼こえんしゃくは馬を降り、村はずれの秤台はかりだいを見下ろした。

 役人が湿しめった塩俵しおだわらを重く勘定し、あわを軽く数えている。

 割札わりふだの板は泥を吸い、冬の日に曲がっていた。

 「湿りで腹を量るのか」

 彼の声は低く短い。双鞭はくさりを長く垂らし、俵のそばを一度だけ打った。

 白い筋が落ち、塩はわずかに軽くなる。


 囲炉裏いろりで温められたのは骨と生姜しょうがの薄い湯。

 鍋のおもてが揺れすぎると、呼延灼は火をはなさせる。

 「腹は煮立てるな。は静かに起こせ」

 子に薄粥うすがゆ一椀わん渡り、母の肩の強ばりが少し解けた。


 村の老人が古い竹札たけふだを出してきた。

 角がり減り、星印ほしじるしが薄く残る。

 桂花けいかの甘さを指で温めると、かすかに香りが返った。

 「北に、椀で量る門がある」

 呼延灼はうなずかず、双鞭を静かに巻いた。

 「鼓が秤になるなら、行く甲斐がいがある」


 役所からの文は短く、命は重い。

 “北の賊勢ぞくぜい、椀で民をまどわす。せいすべし”

 呼延灼は文を火へ投げ、灰を双鞭の先で散らした。

 「惑うのは腹か、札か」

 彼は村に秤台を残し、双鞭のふしを鳴らして東風をいだ。


 遠い空気に、乾いた鼓の刻に似た合図が混じる。

 だがそれは鼓ではない。灯籠とうろうか、矢か、湯気か。

 呼延灼は馬のたてがみをで、北を見た。

 双鞭はやいばではない。

 秤と同じ、重みを測る道具だと、彼は思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ