第七十九話 双鞭、乾いた野(前)
東の野は枯れ、風は乾いていた。
鼓ではない、しかし乾いた音が二つ、間を置いて響く。
双鞭――両の手に巻いた鉄の鞭が、土の息を測るように軽く鳴る。
呼延灼は馬を降り、村はずれの秤台を見下ろした。
役人が湿った塩俵を重く勘定し、粟を軽く数えている。
割札の板は泥を吸い、冬の日に曲がっていた。
「湿りで腹を量るのか」
彼の声は低く短い。双鞭は鎖を長く垂らし、俵の側を一度だけ打った。
白い筋が落ち、塩はわずかに軽くなる。
囲炉裏で温められたのは骨と生姜の薄い湯。
鍋の面が揺れすぎると、呼延灼は火を離させる。
「腹は煮立てるな。灯は静かに起こせ」
子に薄粥が一椀渡り、母の肩の強ばりが少し解けた。
村の老人が古い竹札を出してきた。
角が磨り減り、星印が薄く残る。
桂花の甘さを指で温めると、かすかに香りが返った。
「北に、椀で量る門がある」
呼延灼は頷かず、双鞭を静かに巻いた。
「鼓が秤になるなら、行く甲斐がある」
役所からの文は短く、命は重い。
“北の賊勢、椀で民を惑わす。征すべし”
呼延灼は文を火へ投げ、灰を双鞭の先で散らした。
「惑うのは腹か、札か」
彼は村に秤台を残し、双鞭の節を鳴らして東風を嗅いだ。
遠い空気に、乾いた鼓の刻に似た合図が混じる。
だがそれは鼓ではない。灯籠か、矢か、湯気か。
呼延灼は馬のたてがみを撫で、北を見た。
双鞭は刃ではない。
秤と同じ、重みを測る道具だと、彼は思った。




