第七十六話 冬仕舞の帳
朝の白さが石橋の欄干に残り、川は細い鈴のように鳴った。
迎客門の竈で李翔は三つの鍋を順繰りに見て回る。
骨湯は白を保ち、潮路は塩を含み過ぎず、香馴は角が立たない。
香押しの台では楊志が焼印を温め、清蘭は刻湯の札を冬仕舞いの束に綴じ直した。
「星札の頁、欠けはない?」
娘娘が帳をめくり、蜂蜜の滴りを紙縁からそっと拭う。
“虎星・矢星・炭星・香星・雷星”。
五つの匂いが薄く重なり、紙の上で静かに息をした。
張順は水位棒を確かめ、瀬締の丸太に縄を回す。
花栄は矢羽を乾かし、夜渡りの旗を洗って灯籠の下へ干した。
秦明は裂けた雷紋の旗を湯気で温め、鼓手に皮の張りを一息ずつ調えさせる。
「二短一長。門の呼吸は変えない」
門外倉では黒実の壺口に封泥を打ち直し、海塩の俵は秤台で湿りを抜かれる。
魯智深は丸太で雪幕を畳み、武松は鉄棍で杭を軽く叩いた。
「冬の手は冬のうちに片付ける。春は腹が先に走るからな」
等椀の土器を洗う子らの手は赤く、湯気で柔らかく戻る。
翔は“仕舞粥”を仕立てた。
骨湯に粟を炒って落とし、陳皮をひとつまみ、桂花は糸ほど。
湯気は細く真直ぐ、冬の終わりを静かに撫でる。
昼、黎周の舟が寄り、“南の鍋”の小袋を三つ置いていく。
沈涯の手と同じ、焙り短めの黒実、塩の粉、蜜の粒。
楊志は帳面に“鍋渡し:春初まで壺七、俵十。波星は門外限り”と朱で囲い、
清蘭は刻湯の札へ薄く香押しを添えた。
夕刻、灯籠に火が入り、秦明の鼓が二短一長。
花栄の矢縄が杭に渡り、張順の舟は流れの緩む筋を見つける。
広場で娘娘が“仕舞粥”に蜂蜜を一滴落とすと、湯気は金の尾を引いた。
冬の帳は、腹の中でそっと閉じられた。




