表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梁山泊 -Liang’s Dining-  作者: 高火力鉄鍋
85/89

第七十六話 冬仕舞の帳

朝の白さが石橋いしばし欄干らんかんに残り、川は細いすずのように鳴った。

 迎客門げいかくもんかまど李翔りしょうは三つの鍋を順繰じゅんぐりに見て回る。

 骨湯こつゆは白を保ち、潮路しおじは塩を含み過ぎず、香馴こうじゅんかどが立たない。

 香押こうおしの台では楊志ようし焼印やきいんを温め、清蘭せいらん刻湯こくとうの札を冬仕舞ふゆじまいの束にじ直した。


 「星札ほしふだページ、欠けはない?」

 娘娘にゃんにゃんとばりをめくり、蜂蜜のしたたりを紙縁しへりからそっとぬぐう。

 “虎星こせい矢星やぼし炭星たんせい香星こうせい雷星らいせい”。

 五つの匂いが薄く重なり、紙の上で静かに息をした。


 張順ちょうじゅんは水位棒を確かめ、瀬締せじめの丸太に縄を回す。

 花栄かえい矢羽やばねを乾かし、夜渡よわたりの旗を洗って灯籠とうろうの下へ干した。

 秦明しんめいけた雷紋らいもんの旗を湯気で温め、鼓手こしゅに皮の張りを一息ずつ調えさせる。

 「二短にたん一長いっちょう。門の呼吸は変えない」


 門外倉もんがいぐらでは黒実くろみ壺口つぼぐち封泥ほうでいを打ち直し、海塩かいえんたわら秤台はかりだい湿しめりを抜かれる。

 魯智深ろちしんは丸太で雪幕ゆきまくを畳み、武松ぶしょう鉄棍てっこんくいを軽くたたいた。

 「冬の手は冬のうちに片付ける。春は腹が先に走るからな」


 等椀とうわん土器どきを洗う子らの手は赤く、湯気で柔らかく戻る。

 翔は“仕舞粥しまいがゆ”を仕立てた。

 骨湯にあわって落とし、陳皮ちんぴをひとつまみ、桂花けいかは糸ほど。

 湯気は細く真直まっすぐ、冬の終わりを静かにでる。


 昼、黎周れいしゅうの舟が寄り、“南の鍋”の小袋を三つ置いていく。

 沈涯しんがいの手と同じ、あぶり短めの黒実、塩の粉、蜜の粒。

 楊志は帳面に“鍋渡し:春初はるはじめまで壺七、俵十。波星なみぼし門外限げんり”としゅで囲い、

 清蘭は刻湯の札へ薄く香押しを添えた。


 夕刻、灯籠に火が入り、秦明の鼓が二短一長。

 花栄の矢縄が杭に渡り、張順の舟は流れの緩むすじを見つける。

 広場で娘娘が“仕舞粥”に蜂蜜を一滴落とすと、湯気は金の尾を引いた。

 冬の帳は、腹の中でそっと閉じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ