第七十一話 鼓灯ひと息
初雪が石橋の欄干に薄く積もり、川は鈴のような音で流れていた。
迎客門の竈では李翔が骨湯に山椒をわずか、桂花を糸ほど落として“雷馴がゆ”を温め直す。
梁の下では鼓手が皮の張りを確かめ、秦明は裂けた雷紋の旗を湯気で柔らかく伸ばした。
陳石の短笛が一度。
張順の舟が瀬締の影から滑り出す。
灯籠は五呼吸の法で明滅し、秦明の鼓は二短一長で応える。
灯と鼓が同じ息を刻むと、霧は薄くほどけた。
花栄は弦に寒さを吸わせないよう息を当て、矢縄を杭へ通す。
武松は虎皮の裾を締め直し、橋の袂で鉄棍を軽く地に置いた。
魯智深は丸太で風よけを組み、清蘭は刻湯の札に“雷”の小印を添える。
広場の端で、子の泣き声。凍えた脚を抱いた若い夫婦が門の外に立っていた。
湯気は遠くから人を呼ぶ。
翔は雷馴がゆを二椀、骨梅湯を一椀よそい、門の外で手渡した。
桂花の糸が遅れて胸へ伸び、山椒の痺れが脚へ火を下ろす。
秦明は鼓を短く三度。
灯が応え、門の者が湯石と毛布を運ぶ。
刃の音は要らない。鼓と湯気で事は足りる。
昼、門外倉で黒実を焙る香が立つ。
娘娘は蜂蜜をひと筋、霍沙は塩床の火を弱めて角を落とす。
楊志は竹札台帳に“雷星配備:夜警は二短一長、灯は五呼吸、舟は初短で出す”と朱で囲い、
張順は舟子へそのまま伝えた。
夕刻、雪が細く降り始める。
秤台の炭は白い粉をまとい、塩俵の湿りは薄い筋になって落ちる。
秦明は旗の裂け目を指で撫で、笑った。
裂けは消さぬ。風を逃がす口になる。
旗が息を覚えるほど、鼓は短く、椀は長くなった。
夜、川霧は出ず、星は近い。
李翔は最後の雷馴がゆを鍋の底から掬い、門の者へ配る。
湯気は静かに梁山泊を包み、鼓は門の呼吸のまま眠りについた。




