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梁山泊 -Liang’s Dining-  作者: 高火力鉄鍋
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第八話 吹雪の道、椀が導く

梁山泊りょうざんぱくに冬が来た。

川は薄氷できしみ、米俵は底をつきかける。

「嶺のふもとに塩と米の市が立つ。今を逃せば雪で閉ざされるぞ」

李翔りしょうは早朝、店の戸を閉めながら皆に声を掛けた。

荷車には米袋の空俵からだわらと寸胴鍋、簡素なかまど。戻る途中に温かい椀を振る舞い、旅人から銅貨を稼ぐ算段だ。


凌凰りょうこうは弓を背に、周文しゅうぶんは帳面を懐に、清蘭せいらんは香草と乾燥麺を包み込む。

魯智深ろちしん雪掻ゆきかき用にやなぎの丸太を担いでいる。

「塩と米の代は、帰り道の椀で取り返す。歩く飯屋だな」

翔は笑い、暖簾のれんの文字を指でなぞった。

「看板は胸にあるさ」



峠へ向かう街道で、一行は茶屋跡の破れ戸を修理しながら小さな市を開いた。

雪を避けて集まる旅人に魯肉飯ルーローファン薬膳湯やくぜんたんを振る舞い、銅貨と噂を受け取る。

「都から囚人の護送が来るらしい。無実だが、太尉たいいの怒りを買ったとか」

旅人の囁きに翔が耳を傾けた。

配流はいりゅう先は猪林ちょりんか。峠を越える道で雪に閉ざされる」

清蘭が湯気の向こうで眉をひそめる。

「寒さに人も馬もやられるわ」


夜半。飯を終えた客たちを見送り、残る薪を数えたとき、遠くで犬の遠吠えが途切れた。

続いて聞こえたのは、護送兵のときの声、鎖の軋み。

凌凰が弓弦ゆづるを鳴らす。

「囚人は十の兵で守ると聞いたが、声は半分。雪で隊が弱っている」

魯智深が丸太を肩に笑った。

「椀が凍る前に連れて来てやろう。備えはいいか」

翔は寸胴鍋に湯を張り、香草と氷糖を放り込む。

「腹を温める準備は万全だ」



吹雪が街道を飲み込む頃、一行は樹影の奥で護送の列を見つけた。

縄で馬に繋がれた男が槍を持ったまま歩く。背筋は折れていない。

翔は火の粉を弾くように瞳を細めた。

「武人の歩き方だ」


焚き火を囲む護送兵のひとりが酒袋を振り、

「早く片づけりゃ、太尉さまから褒美よ」

と笑った瞬間、丸太が火に飛び込み炎が爆ぜた。

魯智深が闇から現れ、棍棒を手折る。


兵たちが驚き立ち上がる。

凌凰の矢が足元を射貫き、清蘭が鍋の蓋で熱湯を浴びせ、周文は帳面で殴杖ぼうを受け止めた。

最後に魯智深の拳が地面を揺らし、護送兵は残らず雪に倒れる。



静けさが戻ると、林冲りんちゅうは荒縄を切り、折れ槍を握って頭を下げた。

「助力、痛み入る。あなた方は――」

翔が木碗を差し出した。

「梁山泊の飯屋だ。まずは椀を」

魯肉飯の甘辛い匂いが吹雪を押し返し、林冲の腹が正直に鳴った。

魯智深が笑う。

「椀の名は俺の“魯”。腹を据える薬だ」

林冲はひと匙掬い、温かさに涙をこぼす。

「剣と誇りを失いかけたが、この椀がまだ熱い。梁山泊へ案内してもらえぬか」

凌凰が肩を貸し、清蘭が薬膳湯を渡す。

翔は荷車を押しながら答えた。

「暖簾は開けて待つ。黙っていても、飯は出す」


夜明け、雪は止み、街道に長い影。

林冲は新しい仲間の後ろで槍を携え、遠く揺れる白い暖簾を見つめた。

その布切れに書かれた二文字――梁山泊――が、凍った心を少しずつ溶かしていく。

店を離れて“歩く飯屋”となった一行は、噂を辿って林冲を救い出しました。

道すがら振る舞った一椀が、武芸教頭の胸に火を灯し、仲間の輪がさらに広がります。

次回、雪を抜けた旅の末に林冲が梁山泊の暖簾を潜り、剣と包丁が交わるシーンをお届けします。どうぞお楽しみに。

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