変身写真と私と、揺るぎない絆
挿絵の画像を作成する際には、「Gemini AI」と「Ainova AI」と「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
絶妙な加減で調整された照明ライトに照らされた私こと王白姫の身体は、シットリと肌を濡らす汗によって光沢を帯びていた。
それは勿論、照明ライトの熱という理由だけでは説明しきれない。
「良いよ、白姫さん!正しく私のイメージしていた構図の通り!そのピンクのビキニは勿論、手枷と首輪も私の見立てに間違いはなかったね。」
「え、ええ…そうなの。それは良かったわ、玉燕。」
声を弾ませる高校時代の同級生に、微笑を浮かべて相槌は打つ事は出来た。
だけど次の瞬間、私は羞恥の念からドッと吹き出した汗が剥き出しの背中を伝っていくのを自覚したの。
だって何もかもが、高校時代から親交のある写真館の看板娘が言った通りなのだから。
年齢欄に十九歳と書くようになってから数ヶ月が経った私の身体を辛うじて包んでいるのは、明るいピンク色のビキニ水着一枚だけ。
それも三角形の布地を細い紐で繋げただけの、まるでグラビアアイドルが着るような露出度の高い水着だったの。
ここまで素肌を見せる事なんて、十九年間の人生でなかった事だわ。
手枷を嵌められた両手は頭上に掲げられ、壁の突起に繋がれてしまった。
素足にされた両足が床をしっかり踏みしめられているのは、高校の同級生の優しい気遣いだった。
確かに背伸びをさせられていたなら、あまり長時間は保たなかったろうね。
だけど私の喉元を締め付けるベルト式の黒い首輪に意識をやると、その圧迫感に背筋がゾワッと震えてしまうわ。
そんな私の微細な反応を、写真館で生まれ育った同級生は見逃さなかったの。
「おっ、良いね!その眉を顰めて憂いを込めた表情、頂きだよ!」
言うが早いかフラッシュが焚かれ、三脚に固定された一眼レフのシャッター音がスタジオに鳴り響いた。
「ありがとう、白姫さん!いきなりシャッター切られても表情を崩さないなんて、モデルとしてのプロ根性が出来てきたみたいだね!これなら良い宣材写真が撮れそうだよ。それじゃ白姫さん、少し口を開けて歯を見せてみよっか!」
そうして私は玉燕に言われるままに、拘束された身体をよじったり首の角度や表情を変えたりして、モデルの仕事をこなしていったの。
玉燕の実家である植写真館で体験出来る変身写真を告知するための、広告やWEBサイトに載せるイメージ画像。
それらの素材となる写真のモデルになるべく、私はこうしてグラビアアイドル紛いのビキニ水着だけの格好で拘束されているんだ…
華やかな貸衣装やアクセサリーをプロのスタイリストさんに着付けて貰い、これまたプロのメイクアップアーティストさんにお化粧を施して貰った上で最高の一枚を撮影する。
そんな変身写真は台湾島の中華民国で人気のアクティビティだけど、私がここまで深入りする事になったのには訳があるんだよね。
それは何と言っても、胸踊るスクールラブだったの。
大学で同じ基礎ゼミを受講している男子学生の田小竜君と仲良くなった私は、もっと小竜君と親しくなりたいと願っていた。
それを変身写真という形で後押ししてくれたのが、高校の同窓生にして町の写真館の看板娘としての顔を持つ植玉燕だったの。
何と玉燕は太っ腹にも、モニターという形で私と小竜君にタダで変身写真をさせてくれるようセッティングしてくれたわ。
もっとも、そこはモニター。
植写真館が新たに導入した貸衣装や小物類の使い心地を試すという、大事な役割があったのよね。
小竜君が袖を通した真新しい黒のタキシードも、そんな新品の貸衣装だったの。
だけど私に充てがわれたのは、同じ新品とは言えバニーガールの衣装だったのよ。
「白姫さんは彼氏さんに、『こうして変身写真で着飾れる程に、私は社交的になれたよ!』ってアピールしたいんだよね。気兼ねなく自分を曝け出せるようになったアピールとしては、バニーガールはうってつけだと思うけど?」
一分の隙もない完璧な理論武装を展開する同窓生には、私もぐうの音も出なかったわ。
戸惑いながらも着替えた私だけど、そこで更なる衝撃に襲われたの。
「それでね、白姫さん。オプションの小物なんだけど…」
「そうなのよ、玉燕。私もそれが気になってて…って、ちょっと!」
そうして一瞬の隙を突く形で手首にはめられたのは、金属の質感を模したプラスチック製の手枷だったの。
しかもご丁寧な事に、メタリックに塗装されたプラチェーンまで付いていたのだから。
変身写真の名に恥じない余りにも奇抜な格好にされてしまった私だけど、小竜君にも喜んで貰えて前よりも親密になれた気がするから、結果としては大成功と言えるんじゃないかな。
私達二人の仲を応援してくれて御膳立てまでしてくれた玉燕には、本当に感謝してもしきれないよ。
そう言う訳だから、高校の同級生に「どうか我が植写真館のために!」って頭を下げられた時には協力する心積もりを決めていたの。
「水臭いなぁ…友達じゃない、私達。私に出来る限りの事なら、玉燕への協力を惜しまないよ。」
この一言を聞くや否や、随分とシリアスだった玉燕の顔がパッと明るくなったの。
まるでスコールが止まった直後の晴天みたいにね。
「そう言って貰って助かるよ、白姫さん。ちょっとモデルのバイトをしてくれるだけで良いんだ。」
玉燕が言うには、植写真館は広告やWEBサイト等で変身写真を告知する時に使う宣材写真のリニューアルに取り掛かっている真っ最中だったの。
「だけど本職のモデルさんなんて雇ったらお金が凄くかかるからね。うちみたいな個人経営店じゃ手が届かないの。」
「それで私に白羽の矢が立ったという事なのね。」
どうも先日のモニター体験で撮った私のバニーガールの写真を玉燕さんの御家族が随分と気に入ったようで、「また手伝って貰えたら」という話になったみたい。
「今回は私達の方からお願いする形になる訳だから、謝礼だって払うよ。うちは零細だから台南市の最低賃金分の時給しか払えないけど…」
「そんな申し訳ない顔しないでよ、玉燕さん。私だってプロのモデルさんなんかじゃないんだから。」
このような経緯で、私は最低賃金でのモデルを引き受ける事になったんだ。
大学の休日を利用する形で、撮影は朝から始める事になったの。
この午前中の撮影は本当に楽しかったわ。
何しろ変身写真の醍醐味である、豪華絢爛な衣装にアレコレ袖を通す事が出来たのだから。
ドレス一つにしたって、ブルボン朝のベルサイユ宮殿で着られていたかのようなドレスもあれば、明治時代の日本の鹿鳴館が似合うようなドレスもあった訳だし。
漢服に満州服、それにアオザイ。
そうしたアジア各国の民族衣装も、どれも可愛くて本当に良かったわ。
お昼ご飯も玉燕さんの御家族と御一緒させて頂いて、至ってアットホームな雰囲気だったの。
だけど午後から雲行きが変わってきて、ドレスや民族衣装の撮影は早々に打ち止めになってしまったわ。
「えっ、またそれ着るの?」
「こないだのモニター体験の時に着た事がある訳だし、白姫さんも慣れてるでしょ?」
忘れようはずもない。
玉燕さんが嬉々として掲げたのは、あのバニーガールの衣装だったのだから。
ピンク色のレオタードの滑らかな手触りも、ニーハイソックスの要領で太腿の辺りまでしかない網タイツも、何から何まであの日のまま。
ちょっと違うのは、玉燕さんやそのお母さんの手助けなしでも着付け出来た事と、玉燕さんが指示するポーズが前回より大胆になった事かな。
「こ…こうかな?」
「う〜ん、良いんだけど背中をもっと反らしてみてよ。」
確かに今日はボーイフレンドである小竜君もこの場にいないけど、頭の後ろで手を組む事で脇を見せ、胸を突き出すポーズは気恥ずかしかったなぁ…
だけど気恥ずかしさのピークは、ここではなかったの。
「えっ、何これ…まさかこれを着るの?」
「もちろん!何しろ白姫さんはグラビアアイドル並みにスタイルが良いんだからね。こんな虚飾のないシンプルなビキニこそ映えるんだよ!」
玉燕さんに手渡されたピンク色のビキニ水着は余りにも大胆で、細い紐で繋がれた三角形の布と言った方がまだシックリ来るレベルだったの。
「虚飾がないというより、布地がないんじゃないかな…」
身に付けてみたら予想以上に露出度が高くて、本当にグラビアアイドルになったみたいな有り様だわ。
もっとも、それを言おうものなら「それこそが変身写真の醍醐味じゃない!」って返されちゃうんだろうけど。
それでも最初のうちはグラビアアイドル紛いのポーズを取らされるだけで済んでいたんだけど、やがて手枷が付いたり首輪が付いたりとどんどんエスカレートしていって、ついには手枷の鎖を壁のフックにかけられてしまった訳なの。
まあ休憩時間はちゃんと貰えるし、その間はフックから外して貰えるから別に良いんだけど、休憩明けにエスカレートする傾向にあるから油断出来ないんだよなぁ…
「大丈夫、白姫さん?辛かったら無理せず言って良いんだよ。」
「ありがとう…でも、大丈夫だよ。玉燕達が色々と気を遣ってくれているから。」
差し出してくれた杏仁酥に手を伸ばしながら、私は文山包種茶の温もりに思わず溜め息をついてしまったんだ。
この茶菓子の差し入れもそうだけど、植写真館の皆さんのサポート体制は本当に至れり尽くせりだよね。
撮影前には丁寧な説明と再確認が行なわれるし、スタジオには私の大好きな日本の歌謡曲をBGMに流してくれるし。
そう聞いたら、こんな風に返されちゃったけど。
「当たり前じゃない、白姫さん!私達、友達だよ。自分の家の家業で友達に不快な思いをさせたら、それこそ最低じゃない。」
だけど、それは玉燕が私を実家の写真館と同じ位に大切に思ってくれている事でもある訳で、「本当に良い友達を持ったなぁ…」と改めて実感出来るんだよね。
「白姫さんが気分良く撮影に臨んでくれているなら、喜ばしい限りだよ。私なりに体を張った甲斐があったって訳だし。」
「まさか全く同じ撮影をモデルとしてこなしていたとはね…」
確かに宣材写真にバリエーションが必要なのは分かるけど、写真館の娘自らモデルもこなすとは凄い話だよね。
今の私と全く同じように手枷や首輪をつけたビキニ姿の玉燕さんが大写しになった写真を見せられた時には、私も度肝を抜かれちゃったよ。
「私が身を以て試したから大丈夫!そう言ったじゃない、白姫さん。」
そんな玉燕さんの頑張りが今の私の快適な撮影に繋がっている訳なのだから、それに私も応えて行かなくちゃね。
そうして休憩時間が終わった私は、撮影の続きに備えて定位置に戻ったの。
手枷の鎖を連結され、真ん中の金具を壁のフックに引っ掛けられて。
そんな玉燕さんの慣れた手付きで、私は元通りに拘束されていったんだ。
だけど私が不安やストレスを感じないよう、色々と話しかけてくれたからね。
「そろそろ海水浴シーズンだし、白姫さんも新しい水着が欲しいんじゃないの?これは言ってなかったけど、白姫さんが今着ているピンクのビキニも、時給とは別途で進呈する事になっているんだ。」
「えっ、良いの?この水着、割と高いのじゃなかった?」
鎖で吊るされた身体を見下ろすようにして、私は素肌を辛うじて覆うピンク色の布地を改めて確認したんだ。
貰えるとなると急に愛着とが湧いて来るんだから、全く現金な話だよね。
「遠慮する事はないよ。何しろビキニも衣装として必要経費に計上出来ているのだから、我が植写真館としても税務上のメリットは大きいんだ。」
「うわぁ、しっかりしてるなぁ。こういう所には本当抜け目ないんだから。」
だけど店舗や工場を経営する親御さん目線で考えるなら、玉燕みたいな子がいてくれていると本当に有り難いだろうね。
「きっと小竜君も褒めてくれるよ、そのビキニ。この宣材写真を見たら、ますます白姫さんに首ったけになるんじゃないかな。」
「えっ、首ったけ?小竜君が私に?そ…そうなのかな?」
バニーガールになった私の事を、小竜君は心から褒めてくれた。
このビキニに対しては、どんな感想を持ってくれるのかな。
「おっ、良い具合に頬に赤みが差したじゃない。これは良い写真が撮れる予感!この撮影のうちに白姫さんも、着心地に慣れときなよ。」
「そ…そうかな、玉燕!分かった、私がんばるよ!」
すっかり乗せられちゃった私だけど、その心境は不思議な程に清々しくて心地良かったの。
もしかしたら私は、心の中も変身出来ていたのかも知れないね。