17 泣き叫ぶさくらと立ち尽くすもみじ
夜の学校のグラウンドに桃花が立っており、向かい合って鏡太朗、もみじ、さくら、來華、まふゆ、ナツが立っていた。その傍らでは河童とグリーンマンが気を失ったまま倒れており、さくらはボロボロになっている等身大のコアラのぬいぐるみ姿のコアちゃんを背負い、來華は黒猫の姿で気を失っている火車を大切そうに両腕で抱えていた。
白衣と袴、白足袋が血で真っ赤になった傷だらけのもみじが、左肩を押さえながら桃花に言った。
「桃花、おめぇの術はすげぇじゃねーか! 地下王国と地上との出入口の縦穴をあっという間に封印しちまった!」
「あのまま放置して村に帰る訳にはいきません。この術を身につけていてよかったです」
「やっぱ村に帰るのか? おめぇさえ良ければ、ここに残ってあたしの家にいてもいいんだぜ。そうするなら大歓迎だぜ!」
「ありがとうございます、もみじさん。でも、私はすぐに村に帰って、村を守らなければならないのです。私は六年もの間、温羅を追って魔界中を放浪しました。そして、今魔界には大きな危機が迫っていることを知ったのです」
「大きな危機?」
「魔界には強力な魔力を持つ魔物がたくさんいて、お互いに牽制し合ってきたため、大きな国が存在していませんでした。一族だけで構成する村や、友好関係にある複数の魔物で構成する町、強者が周辺の弱者を支配する小国が無数に存在しているのです。しかし、最近になって、魔界を統一しようとする国が現れたのです。
今、二つの国が競い合うように、強力な魔物の軍隊で他の村や町、小国を襲って支配し、急速に領土を拡大しているのです。いずれ私の村にも、どちらかの国の軍隊がやってくるでしょう。そして、この二つの国が魔界全土を巻き込んで軍事衝突するのも時間の問題なのです。私は村を、私の一族を守らなければならないのです」
桃花の話を聞いたもみじは驚愕した。
「魔界でそんなことが?」
「ええ。勢力を増し続ける国の一つは、先頭部隊の隊長が自ら最前面に立って戦い、無敵を誇っています。この隊長は戦う相手を気絶させるだけで、絶対に命を奪わないそうです。『稲妻の戦士』と呼ばれるこの隊長は、なんと雷を操る人間だというのです」
「何だって?」
「おねーちゃん、それってまさか!」
驚愕するもみじに、さくらが叫んだ。
「そして、もう一方の国の軍隊は、戦う相手を幻で撹乱して無敵を誇っているのです。幻を見せているのは、常に悲しみの涙で頬を濡らしている人間で、『悲しみの魔女』と呼ばれているそうです」
「おねーちゃん! おかーさんだ!」
「間違いなく、近いうちにこの両国は戦争を始めるでしょう。稲妻の戦士と悲しみの魔女が衝突するのも時間の問題なのです」
「おとーさんとおかーさんが戦争? おねーちゃん、どうしたらいいの? おねーちゃん! おねーちゃん! おねーちゃあああああああああああん!」
さくらは泣きながら叫び続け、もみじは両目を大きく見開いたまま身動きができずにいた。
鏡太朗と來華は二人にかける言葉が見つからないまま、立ち尽くしていた。
(おわり)
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。心から感謝します!
本シリーズは全12話の構想なのですが、投稿開始時点で初稿が出来上がっていたのは今回の第4話まででしたので、今後は投稿の間隔が空いてしまうことになります。
本シリーズがどんな形で幕を下ろすのかは最初から決めており、頭の中で出来上がっているラストシーンを早く書きたいという想いも強いのですが、そこに至るまでの各話を魂込めて創り上げていきますので、最終話の最終エピソードまで、これから数年間お付き合いいただけたら、最高に幸せです!
これからも、よろしくお願いいたします。
小雨 無限




