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12 作戦開始!

 爆発した煙と舞い上がった岩盤の破片が層になって地表を覆う中から、ライカと火車、さくらを右腕に抱えたコアちゃんが飛び出し、空洞の天井近くまで上昇すると、温羅の頭を狙ってライカと火車は雷玉と火の玉の連射を行い、さくらの指示でコアちゃんはレーザービームとカノンビーム砲を次々と発射した。しかし、温羅の前面を防御していた護光魔陣(ごこうまじん)が温羅の頭上に集まって盾となり、それらの攻撃を全て防いだ。雷玉と火の玉は護光魔陣(ごこうまじん)に当たって炸裂し、レーザービームとカノンビーム法は護光魔陣(ごこうまじん)に跳ね返されて天井を貫いた。

『温羅が防御を頭上に集中せざるを得ないように、連続して雷玉を打ち続けるんじゃ! 魔力と体力の限界まで、いや、限界を超えたって、連続して打ち続けるんじゃあああああああああっ! 絶対に鏡太朗たちを守るんじゃあああああああああああああああっ!』

 ライカは必死の形相で雷玉を全力で連射し、火車、コアちゃんとさくらも連続して温羅を上から攻撃し続けた。


 河童(かわわらわ)は緑色のカッパの姿で、桃花、鏡太朗、申可意兵(さるかいべ)と一緒に煙の中を温羅に向かって駆けていた。

『青く光るカッパは目立つだきゃ! 今はできるだけ目立たずに、桃花さんたちと一緒に温羅に近づくだきゃ!』

 河童(かわわらわ)に向かって熱光線が、桃花に向かって棘が飛んで来た。

『温羅に気づかれてるだきゃ!』

 河童(かわわらわ)に向かって伸びる熱光線に後ろから飛んで来た玄色の光が衝突すると、二つの光は打ち消しあって消滅し、桃花目がけて飛んで来た棘は、大音量のセミの声が衝突して空中で爆発した。河童(かわわらわ)たちの遥か後方には、まふゆとナツが立っていた。

 まふゆの脳裏に、温羅の魂から身を呈して助けてくれた鏡太朗の姿、温羅との闘いに怖気づくまふゆに学校に残って欲しいと言った鏡太朗の優しい笑顔、河童(かわわらわ)と力を合わせて鋼鬼を倒した時のハイタッチが蘇った。

『熱光線はめっちゃ強力だけど、もみじさんが言った通り、あたしの術とは相性がいい! みんなに飛んで来る熱光線は、あたしが防いでみせる! だから、みんなお願い! 絶対に温羅をやっつけて!』

 ナツは河童(かわわらわ)を蹴って傷つけるようなことを言ったのに、河童(かわわらわ)は自分を助けてくれたことを思い出していた。

『河童(かわわらわ)、頼んだぞ! 今度は俺がお前を守る! だから必ず温羅を倒してくれ!』

 まふゆとナツは、鏡太朗たちを狙って次々に飛んで来る熱光線と棘を、玄色の光線と大音量のセミの声で迎撃していった。やがて、まふゆがナツに叫んだ。

「ナツ、もうすぐ迎撃が間に合わない距離になるよ! もみじさんが言ってた『迎撃の限界点』が近い!」

 鏡太朗たちは、温羅とまふゆの中間地点に近づいていた。ナツがまふゆに向かって言った。

「今だ! 行くぞ、まふゆ!」

 まふゆは温羅に向かって玄色の光線、ナツは大音量のセミの声の八連射を連続して放った。

「やあああああああああああああああああっ!」

「だあああああああああああああああああっ!」

 まふゆとナツが叫び声を上げながら必死に連射する攻撃は、煙の向こう側の温羅のシルエットに向かって次々と伸びて行き、今度は温羅が熱光線と棘で玄色の光線と大音量のセミの声を迎撃し始めた。


 その上では、ライカが必死に雷玉を連射していた。

『わしらは護光魔陣(ごこうまじん)を上に引きつけ、まふゆたちが熱光線と棘を引きつけ、鏡太朗たちを無事に温羅に接近させるんじゃああああああああっ!』

 火車が火の玉を放ち、さくらの指示でコアちゃんがレーザービームとカノンビーム砲を発射する隣で、ライカは全力で雷玉を連射し続けた。


 河童(かわわらわ)たちは、五十メートル先の温羅に向かって駆けていた。

『オラたちがここで温羅を倒さないと、ここにいるみんなも、地上にいる全ての人と魔物の命も危ないだきゃ! 絶対にオラが温羅を倒して、みんなを守るだきゃああああああっ!』

 温羅の手前三十メートルで河童(かわわらわ)の体が青く輝いた。

「桃花さん! オラのスピードは誰よりも速いだきゃ! 悪いけど先に行くだきゃ!」

「河童(かわわらわ)さん、一瞬だけのスピードだったら私だって負けませんよ! だからこそ、この役割を志願したのです! 古より桃の木を司りし丕神乃美(おおいなるかみのみ)之命(のみこと)よ! その御力(みちから)を宿し給え! 桃花之箒星(ももはなのほうきぼし)!」

 桃花の羽織を覆う桃の花が輝き、桃花が羽織から長い光の尾を引いて凄いスピードで前進すると、河童(かわわらわ)も同じ速度で前進し、温羅の手前十メートルまで一気に迫った。その時、温羅が右足を踏み出しながら左膝を地面について右手刀を横に払い、その鋭い爪が河童(かわわらわ)と桃花の首を切断して二人の頭部が宙を舞った。

「河童(かわわらわ)! 桃花!」

 まふゆが愕然として見つめる先では、青く光る頭と髪の長い女性の頭のシルエットが、煙の向こう側で宙を舞っていた。


「まふゆ、大丈夫だ。上を見ろ」

 まふゆは温羅への攻撃の手を止め、隣で正座するもみじの言葉通りに上方に目を向けると、漂う煙の向こうには夜空と満月が朧気に見えていた。まふゆが何かに気づいて足元を見ると、煙の下の地面は草原に変わっていた。もみじが話を続けた。

「今のはあたしが幻視之術で見せた幻だ。あたしが今遣っている術『月下(げっか)之草原』は、あたしから半径九百メートル内の空間、またはその範囲内の仕切られた空間の中にいる全ての人間や魔物に、幻視之術で幻を見せることができるんだ。

 ただし、意識を広範囲に拡大するための強い集中が必要な術だから、今のあたしは身動きが取れねぇ。雷の神様の力を借りて身を守ることもできねぇ。今温羅に狙われたら、何もできずに餌食になるしかねぇんだ。でもな、あたしはおめぇとナツがあたしを守ってくれるって信じてるぜ!」

「こんなに凄い術があるなんて……。もみじさん、あたしを信じてくれてありがとう。わかったわ! あなたのことも、みんなのことも、必ずあたしが守ってみせるよ! でも……、何だろう? 誰かを守るために闘うって、今までの闘いとは気持ちが全然違う。自分の中から大きな力と勇気が生まれてくるみたい」

「人は大切なものを失った時、人生最大の悲しみと絶望を感じるだろう。だがな、そのくらい大切なものを守るためだったら、人はきっと人生で一番の強さと勇気を発揮できるんだ。

 まふゆ、強くなれ! 誰かを傷つける目的で力を使うんじゃねぇ! 大切なものを守る時にだけ、その想いを込めて闘え! そうしたら、おめぇはもっと強くなれる!」

「大切なものを守るために、想いを込めて闘う……」

 まふゆはもみじの言葉を噛み締めるように呟き、もみじはナツに声をかけた。

「ナツ、おめぇも温羅への攻撃は一旦中止するんだ。今攻撃すると、鏡太朗たちに当たる危険があるからな。二人とも、あいつらが戻ってくる時まで、体力と霊力を温存するんだ」


 青く光る河童(かわわらわ)と桃花は、温羅の背後に回っていた。

「もみじさんの幻のお陰で、温羅の背後に回り込めただきゃ。え?」

 温羅を見上げた河童(かわわらわ)は目を見開いた。背中の左側にも温羅の顔があり、河童(かわわらわ)と桃花を見て薄ら笑いを浮かべると、口から熱光線を吐き出した。

 河童(かわわらわ)は熱光線を避けながら水流砲で跳び上がり、温羅の背中の右側に生えた棘に金剛甲壁で体当りすると、棘は折れ曲がって押しつぶされた。

「衝突しても、棘が爆発しないだきゃ!」

「きっと、棘は発射しないと爆発しないのでしょう」

 熱光線を避けながら桃花が言った。桃花に向けて棘が次々と発射され、桃花がそれを避けると、棘は地面に当たって爆発していった。河童(かわわらわ)は押しつぶして折れ曲がった棘に右手でぶら下がり、金剛甲壁は落下して地面に衝突すると、一瞬で消え去った。


 温羅の正面では、鏡太朗が熱光線と棘を避けながら、龍雷を鞭のように使って温羅を攻撃していたが、龍雷が温羅の体を激しく打っても、その瞬間に温羅の体に雷が走っても、温羅は平然として笑いながら鏡太朗への攻撃を続けていた。

「わははははっ! お前の攻撃など、俺には全く効かぬぞ! わははははっ!」

 鏡太朗は温羅の高笑いを聞きながら、必死に攻撃を避けつつ龍雷を振るった。龍雷の動きは、次第に速くなっていた。

『龍雷が、声で指示しなくても思った通りに動いてくれるようになった! これなら、もっと早い連続攻撃ができる! 俺の役割は、温羅の注意を引きつけること。たとえダメージを与えられなくても、温羅の意識を俺に向けさせるんだ! 絶対に温羅には後ろを振り返らせるな! 河童(かわわらわ)くんと桃花さんの攻撃を成功させるために!』

 鏡太朗は熱光線と棘を避けながら、凄いスピードで龍雷を振って温羅を打ち続けた。


 鏡太朗の横では、申可意兵(さるかいべ)が苛々しながら温羅の熱光線と棘を避けて走り回り、なかなか温羅に近づけずにいた。しかし、一瞬の隙を突いて温羅に接近すると、跳び上がって温羅の胸に生えた棘に左手でつかまり、咆哮を上げながら白い光で包まれた右の拳を鳩尾に連続して叩き込んだが、温羅は平然としていた。

「ちくしょおおおおおっ! 全然効いてねぇえええええっ!」

 温羅が右手で申可意兵(さるかいべ)を捕まえようとしたが、鏡太朗の龍雷が手首を払った。その時、申可意兵(さるかいべ)がつかまっている棘が発射され、申可意兵(さるかいべ)は棘と一緒に地面に向かって飛んで行くと、見る見るうちに棘の先が地面に迫った。

「ヤバい! 爆発する!」


 温羅の背後では、桃花が熱光線と棘を避けて地面を駆け回っており、河童(かわわらわ)は温羅の背中から生えた折れ曲がっている棘にぶら下がっていた。

『棘が発射される瞬間を狙うしかないだきゃ! あの棘に狙いを定めて、集中して見るだきゃ!』

 河童(かわわらわ)が意識を集中して凝視していた温羅の左腰から生えた棘が、微かに動いた。

「今だきゃああああああっ! 金剛甲壁!」

 河童(かわわらわ)は温羅の体を蹴ると、今にも発射されようとしている棘の前に飛び出し、金剛甲壁で棘の行く手を塞いだ。発射された棘は十センチ先の金剛甲壁に当たって爆発し、河童(かわわらわ)はバラバラになった金剛甲壁と一緒に吹き飛ぶと、背後の城塞の壁に激しく体を叩きつけられて地面に落下した。

「河童(かわわらわ)さん! こ、これは!」

 桃花は落下して地面に転がった河童(かわわらわ)に呼びかけた後、温羅の姿を見上げて目を見開いた。煙が漂う中、温羅の左腰には直径二メートルのえぐられたような穴が開いていた。穴の中には赤い繊維状のものがたくさんあり、血は出ていなかった。

「古より桃の木を司りし丕神乃美(おおいなるかみのみ)之命(のみこと)よ! その御力(みちから)を宿し給え! 砕之文字(さいのもじに)宿御霊(やどりしみたま)!」

 桃花が両手に持った枝で空中にそれぞれ『砕』の文字を書くと、その文字が空中で白く光る文字となり、二つの文字から放たれた白い光が温羅の腰の穴まで伸びて、穴の奥を砕きながら温羅の体を貫通し、左脇腹にある顔の真下から飛び出した。

「やっただきゃあああああっ! もみじさんの作戦通りだきゃああああああっ!」

 河童(かわわらわ)と桃花は左腰に大きな穴が開いた温羅を見上げて歓喜し、温羅の正面にいる鏡太朗と遠くで見つめるまふゆの顔も喜びで輝いた。


 温羅の上方ではライカと火車、さくらを右腕に抱えたコアちゃんが、雷玉と火の玉、レーザービームとカノンビーム砲の連射をしており、それらは温羅の頭上を守る護光(ごこう)魔陣(まじん)に命中していた。

 ライカは疲労困憊で息を切らしており、火車がライカに声をかけた。

「ライカ! 強弱をつけて効果的に攻撃するんだよ! そんな風に全ての雷玉に全力を出していたら、体がもたないよ!」

 ライカは火車の言葉が耳に入らないかのように、全神経を集中して全力で雷玉を放ち続けていた。

『目が霞んで意識が遠くなるんじゃ……。とっくに体も、魔力も、限界を超えているんじゃ。でも、鏡太朗たちが無事に戻って来られるように、護光魔陣(ごこうまじん)を上に引きつけ続けるんじゃ! そのために、わしは自分の全てを懸けて雷玉を撃ち続けるんじゃああああああああああっ!』

 ライカは必死の形相で雷玉を温羅に向けて連射していたが、突然意識を失って数メートル落下した。

「ライカ!」

 火車が慌ててライカまで飛んで体を受け止め、ライカは我に返って茫然とした。

「しまった! 護光魔陣(ごこうまじん)が!」

 護光魔陣(ごこうまじん)はコアちゃんの攻撃を防ぐ六枚を残し、他の六枚は温羅の前面へ降下していった。ライカと火車が慌てて雷玉と火の玉を温羅目がけて連射すると、四枚の護光魔陣(ごこうまじん)が上昇してそれを防ぎ、二枚の護光魔陣(ごこうまじん)は温羅の前面に留まった。

「今のあたしらの攻撃だったら、護光魔陣(ごこうまじん)を全部使わなくても防げるってことかい? 気に入らないねぇ」

 舌打ちして火の玉を放つ火車の隣では、ライカが再び必死の形相で雷玉を連射していた。


「だあああああああああっ! 爆発させるかあああああっ!」

 草原の上では、申可意兵(さるかいべ)が両手でつかんでいる棘に数メートル引きずられながら、棘が地面に当たらないように必死に堪えていた。申可意兵(さるかいべ)の脳裏に、魔界で村の住民から石を投げられて額から血を流し、涙を拭って桃花が見せた笑顔の記憶が蘇った。

『俺は絶対に、桃花にこれ以上悲しい思いも辛い思いもさせねぇ! 絶対にここで温羅を追跡する日々を終わらせるんだ!』

 申可意兵(さるかいべ)が全力で咆哮すると、地面まであと二ミリの距離でやっと棘が止まった。

「危なかったぜ! 何とかコイツを手に入れたぜ! 温羅の野郎、見てろよ! 今すぐコイツをお返ししてやるぜ!」

 申可意兵(さるかいべ)は棘を右脇に抱えると、叫び声を上げながら温羅に突進した。その行く手を護光魔陣(ごこうまじん)二枚が阻んだが、申可意兵(さるかいべ)は左手で護光魔陣(ごこうまじん)の上の縁をつかんで跳び越えると、そのまま助走をつけて温羅の胴体に向かって跳んだ。

「こいつを食らいやがれええええええええええっ!」

 申可意兵(さるかいべ)が叫びながら棘を持った右手を振りかぶると、温羅の左腹部に開いた穴の上にある左脇腹の顔が、申可意兵(さるかいべ)を狙って熱光線を吐き出し、申可意兵(さるかいべ)は呆然として自分に迫るオレンジ色に輝く光線を見つめた。

『ヤバい! 空中じゃあ避けられねぇ!』

 その時、護光魔陣(ごこうまじん)が飛んで来て、熱光線を地面に向けて跳ね返した。その護光魔(ごこうま)陣(じん)には龍雷が巻きついており、申可意兵(さるかいべ)が龍雷の下に目を向けると、鏡太朗が龍雷が伸びている霹靂之大麻(へきれきのおおぬさ)を両手で握っていた。

「人間よ、ありがとうよおおおおおおおっ!」

 申可意兵(さるかいべ)は棘を温羅の左脇腹の顔を目がけて全力で投げつけ、棘は爆発して顔を吹き飛ばし、その部位にはえぐられたような直径二メートルの穴が開いた。

 申可意兵(さるかいべ)は地面に落下しながら歓声を上げた。

「やったぜーっ! ざまあみろ! 酉野郎と戌野郎のお返しだああああああっ!」


「わははははははははははーっ!」

 温羅が洞窟を揺るがす笑い声を上げた。

「それで俺にダメージを与えたつもりか! 見るがいい!」

 温羅の体に開いた穴の内側から赤い繊維が無数に伸びて穴を塞ぎ、体の表面を覆う赤い繊維は皮膚に変化し、吹き飛んだ左脇腹の顔も元通りに再生した。

「元通りになっただきゃ! 温羅は不死身だきゃああああっ!」

 河童(かわわらわ)が驚愕して叫び声を上げ、桃花もその隣で茫然としていたが、我に返ると、温羅の右脚に向かって駆け出した。

「私が温羅を無の空間へ飛ばします!」

 桃花が温羅の右ふくらはぎに両手で触れると、温羅の右膝から下が消えた。

「温羅が自分の膝から下を切り離しました!」

 驚く桃花の目の前で、温羅の右膝からすぐに下腿部が生えた。

「仕方がありません。河童(かわわらわ)さん、退却しましょう!」

 桃花は河童(かわわらわ)と一緒に温羅の前側に回り込み、鏡太朗、申可意兵(さるかいべ)と合流して温羅の前から逃げ出した。鏡太朗は龍雷を地面に引きずりながら桃花たちと一緒に走り、温羅から遠ざかろうしたが、四人の行く手を二枚の護光魔陣(ごこうまじん)が阻み、温羅の高笑いが響いた。

「わはははははっ! 逃しはしないぞ! 何っ?」

 驚く温羅の目の前から四人の姿が突然消え去り、護光魔陣(ごこうまじん)から離れた別のルートを通って走る四人の姿が現れた。


 火車は、鏡太朗たちが走る様子を感心しながら見下ろしていた。

「もみじって奴の幻の術は、たいしたもんだねぇ。ライカ、さくら、あたしらの役目は終わったよ。行くよ」

 火車は、満身創痍のライカに優しく微笑んで前足で頭を撫でると、ライカ、さくらを右腕で抱えたコアちゃんと一緒にもみじの方に向かって飛んで行った。ライカとさくらは途中で後ろを振り返ると、祈るような表情で鏡太朗の姿を見つめた。

『鏡太朗、無事に帰ってくるんじゃ……』

『鏡ちゃん、どうか無事でいて……』


「おのれ! 逃さぬぞ!」

 温羅が両腕を水平に上げると、鏡太朗たちが走っていく先の地面の中から厚さ百五十センチの岩盤の壁が出現して見る見る高くなっていき、空洞の端から端まである岩盤の壁は、天井まで伸びて空洞を二つに仕切った。鏡太朗たちがいる空間ともみじたちがいる空間が分断され、もみじが見せていた幻の草原は消え去り、地面は再び金色に光る岩盤になっていた。

 退路を完全に断たれた鏡太朗たちは、愕然として壁を見つめた。

「これじゃあ、もみじさんたちの処へ戻れない!」

「温羅から逃げられないだきゃ!」

 壁の前に呆然と立ち尽くす鏡太朗と河童(かわわらわ)の背中を狙って、温羅が放った二本の棘が凄いスピードで迫った。

「鏡ちゃああああああああああああん!」

「さくら?」

 鏡太朗が振り返ると、すぐ後ろまで接近していた二本の棘が、ピンク色の領巾(ひれ)の左右の端にそれぞれ巻きつかれて静止しており、その上方では満月を背にしたさくらの魂が天女姿で宙に浮かんでいた。

『鏡ちゃんは絶対にあたしが守るんだから! どんなことがあっても絶対に!』

 さくらは領巾(ひれ)の右側の端を振って、捕えた棘を鏡太朗たちの近くの壁に叩きつけ、棘の爆発が壁に直径二メートルの穴を開けた。さくらは間髪を入れずに領巾(ひれ)の左側の端を振り、捕らえていた棘を穴の奥に叩き込むと、その棘の爆発が向こう側の空間まで穴を貫通させた。

「みんな、今のうちだよっ!」

 さくらに促されて、桃花と河童(かわわらわ)、申可意兵(さるかいべ)が壁の穴を通り抜け、鏡太朗はさくらを見上げて微笑むと、壁の穴を抜けてもみじたちの方に向かって駆け出し、さくらがそれを追った。


「おのれえええっ! 人間めええええっ!」

 温羅が再び両腕を水平に上げると、空洞を仕切っていた岩盤の壁が徐々に地面に吸い込まれて消え去った。地面は再び幻の草原に変わり、夜空のような天井には満月が二つ輝いた。温羅は、走って遠ざかる鏡太朗たちに向けて棘を連射した。

 さくらは鏡太朗を守るように、温羅に体を向けたまま後ろ向きに飛び、次々に飛んで来る棘は領巾(ひれ)を伸ばして側面を打ち払い、棘は天井や壁に先端が衝突して爆発していった。

『鏡ちゃんには、絶対に手出しはさせないんだから!』

 さくらは鏡太朗を狙って放たれた熱光線を領巾(ひれ)で受けたが、熱光線は領巾(ひれ)を貫いて鏡太朗に向かって伸びていき、さくらは悲鳴を上げた。

「鏡ちゃん!」

 鏡太朗に迫る熱光線は、玄色の光が当たって互いを打ち消し合った。

「まふゆさん!」

 喜びの笑顔を見せたさくらの視線の先では、まふゆが笑みを浮かべて立っており、その表情にはみんなを必ず守るという強い想いが溢れていた。

「鏡太朗たちは、迎撃の限界点の内側に到達したわ! 後は任せて! あたしがみんなを守ってみせる!」

 その時、さくらの横を棘が通過して鏡太朗を目がけて一直線に飛んで行き、さくらは目を見開いた。

「しまった! 鏡ちゃん!」

 鏡太朗に迫る棘に大音量のセミの声が命中し、棘は激しく振動して爆発した。

「俺とまふゆが絶対にみんなを守り抜く! 誰一人犠牲にはしない! みんな、安心して戻って来い!」

 ナツはそう叫ぶと、飛んで来る棘を次々と迎撃し、まふゆも熱光線に次々と玄色の光を放ち続けた。

『まふゆさん、ナツさん、鏡ちゃんを助けてくれてありがとう。そうだよね、みんなを信じなくちゃ! 鏡ちゃんを助けたくて、熱くなり過ぎちゃったみたい』

 さくらの魂は微笑みを浮かべると、走り続ける鏡太朗を追って真っ直ぐ飛んで行った。


「そうか、さっきからお前が幻を見せていたのだな!」

 温羅は六百メートル先で正座しているもみじに右手を向けると、右手が手首から離れて飛び出し、手首からは新しい右手が生えた。飛び出した右手は鋭い爪を先頭にして、もみじ目がけて凄いスピードで飛んで行き、まふゆは飛んで近づいてくる温羅の右手に気づいて目を丸くした。

「な、何なのあれは? 狙いは……、もみじさん? まずい、もみじさんは今動けない!」

 まふゆとナツが、飛んで来る温羅の右手を玄色の光線と大音量のセミの声で狙ったが、右手は全ての攻撃を回避して正座しているもみじのすぐ目の前まで迫り、もみじは目を見開いた。

『ダメだ! 避けられねぇ!』

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