一話:スリの少年の場合
街でスリをして生計を立てている少年、ラムジーは今日も人混みに紛れながら獲物を物色していた。
手先の器用さを活かしてこれまで生き抜いては来たものの、最近はどうにも上手く行かない日が続いていた。
そろそろ成果を出さないと飢え死にでもしそうだと焦っていた、そんな時。
ある人物の姿が目に留まった。
遠目でも目を惹く雰囲気を纏った老人だった。
マントの様なコートの様な不思議な意匠の外套に、布地を贅沢に使った仕立ての良い服、白髪を後ろに撫で付けた頭に乗せている帽子、そして高そうな木材が使われた杖。
少年はこの世界には存在しない、和服や羽織袴と言うものを見た事は当然無かったが、それでもそれらを身に纏った老人が金持ちであろう事は容易に想像が付いた。
狙いを定めると人の流れに乗ってさりげなく近寄り、慣れた手つきで獲物の懐から財布をスリ取った。
そして何事もなかったかの様に離れると裏路地まで急ぐ。
さて今回の獲物はーー
「俺の財布をスルたぁ良い腕してんじゃあねぇか」
突然掛けられた声に驚いて顔を上げると、そこには先ほどカモにしたばかりのあの老人が立っていた。
「(ーーまさか。ありえない。気づかれてはいなかったはずだ。
万が一気づかれていたのだとしても、なぜオレの後ろではなく『前に』居る……?!)」
「おおっと、そう殺気立つんじゃあねぇよ。
何も衛兵に突き出そうってんじゃあない。
むしろーー」
老人がニヤリと笑った。
「お前さんの腕、ウチで働かせてみねぇかい」
突然の言葉に呆気に取られる。
普通、スられた獲物の反応は怒って殴りかかって来るか取り押さえるか衛兵を呼ぶか……いずれにせよ荷物を取り戻そうとするはずだ。ーーいや、普通って何だ!?
困惑するオレをよそに、老人は話し続けた。
「ーーまあ、突然こんな事言われても訳分かんねぇよな。
じゃあ分かりやすく二択にしてやろうか。
このまま衛兵に突き出されるか、俺に誘拐されるか、だ」
ぞわり、と背筋が総毛立つ。
咄嗟に逃げようとしたが、いつの間にかすぐそばまで近付いていた老人に腕を掴まれたかと思うと視界が逆転する。
一瞬の後に背中から強く地面に叩きつけられると息が出来ない程の衝撃に襲われた。
悶絶してうずくまるオレを見下ろしながら老人は続ける。
「さて、どうするね?」
ーー逃げられない。
そう観念して、このまま衛兵に突き出されて吊し首にされるよりは、まだ謎の老人について行く方がマシだろうと判断した。
「……アンタについて行く」
「よし、決まりだな!」
老人とはとても思えない様な力強い腕に引き起こされながら、オレはこれからどうなってしまうのかと想いを馳せるしかなかった。
◆
老人に連れて行かれた先は豪邸とまでは言わないが、そこそこの広さの館だった。
街の中心地から程よく離れ、高い柵で囲われ、古さを補修や手入れで補っていそうな外観からはいかにも中で悪事でも行われていそうだな、と感じた。
中に通されると老人と別れ、案内役の者に風呂場まで連れて行かれた。
まずは身体検査でも兼ねているのか服を脱がされ湯を被らされる。
水ではなくわざわざ湯が用意されている事に驚きながら上がると、それまで着ていた服が消えていてきちんと畳まれた別の服が置かれていた。
元の服がどこかと問うと、今は洗濯中なのでそれまで用意した服を着て欲しいと言われた。
逆らう訳にも行かず渋々と従うと、今度は館を案内される。
ーーどうもおかしい。
先程から見かける館の住人は年齢こそバラバラだが子供ばかりだ。
身に着けている服も華美でこそないが、清潔で身体の大きさに合った物を着ている。
手に多少の切り傷やあかぎれの様なものは見えるものの、殴られた様なあざもなく皆活力にあふれた顔で楽しそうに動き回っている。
調理場だろうか、通りがかった部屋の中で子供達がかき混ぜている鍋から実に美味そうな匂いが溢れ、窯からはパンの焼ける香ばしい匂いも漂って来る。
思わず口の中に涎が湧いて喉が鳴り、先程までお腹を空かせていた事を思い出す。
入り口からチラリと見えただけでも、ここに居る子供達全員に行き渡らせられる十分な量の料理がある様に感じた。
このご時世に、それだけの食糧を用意出来るとは並大抵の事とは思えない。
何か裏でもあるのではないかと疑念が頭をもたげた。
「(あの老人は幼児趣味でもある道楽家なのだろうか?)」
そんな事ばかり考えていると、主の部屋に通された。
中にはあの老人が座っていて、こちらにも対面に座るよう促される。
相手より出来る限り優位性を得ようと勢い良く腰を下ろし、老人を睨みつけた。
「ーーで?
アンタはオレをここに連れて来てどうしようって言うんだ?
残念だが、夜伽の経験は無いから楽しませる事は出来ないぞ」
虚勢である事を見抜いているのか、老人はくつくつと楽しそうに含み笑いを浮かべて返す。
「そうさなぁ、俺の好みはボンキュッボンのお姉ちゃんだから、こっちとしても寝台に潜り込まれても困っちまうわな」
「な、何だよ……てっきり枯れちまってんのかと思ったぜ」
「まぁそう言う冗談は置いといて、だ。
ウチは見て貰った通り孤児院の真似事をやっている。
衣食住は補償するし、生きていく為に必要最低限の読み書き計算も教えている。
意欲のある奴には更に高度な教育も施すし、才能がある奴はそれを生かせる様々な分野の業種へ斡旋もする。
その見返りで利益を得ている訳だな」
「ふぅん……随分と美味い話に聞こえるな。
けどこんなオレでも知ってんだぜ『美味い話には裏がある』ってな」
「まぁな。
ウチだって慈善事業じゃあない。
受け入れる子供も見込んだ奴しか入れてないし、外に出せる様になるまでは館の中の家事や下の子供の面倒もやって貰うし、使い物になるまで成長したらきちんと働いて貰う。
頭が良い奴には学者さんやお偉いさん達の徒弟として送り込むし、ウチに便宜を計って貰える様に動いても貰う。
戦いが上手い奴には用心棒として働かせたり、衛兵として送り込む事もある。
力が強い奴には土木作業に従事させるし、手先が器用な奴は工房で物を作る仕事も良いだろう。
話が上手かったり機微に聡い奴は徹底的に話術や知識や教養をみっちり仕込んで子供達の教師として教鞭を取らせたり、上手く行けば貴族や商家の子息の家庭教師にする事も可能だ。
そうやって送り込んだ子供達から伝手やコネが生まれる訳だな」
老人はいかにも悪事を働いているかの様な悪どい顔と身振り手振りで説明していたが、どうにも首を傾げてしまう。
「(それは、ごく普通の事では……?)」
タダで衣食住が保障される訳がないし、その見返りとして働くのは普通の事だし、働けない様なボンクラを養う余裕なんてどこにもある訳がないんだから選別するのは当然だし、更には教育までして貰えた挙句、働き口まで用意して貰える。
しかも商家や貴族とのコネもあって、受け入れられれば出世の道も見えて来る。
その実態にもよるが、他の孤児院を知っている身からすればむしろ破格の条件だ。
「(ここまで来ると、どこかの悪魔崇拝儀式の生贄にでも使っていて、定期的に孤児が消えているとかの裏でもないと納得出来ない……)」
ーー怪しい。怪しくはあるが、しばらく様子を見る程度なら身を置いていても大丈夫かも知れない。
どう転ぶにせよ、明日は餓死か吊し首かと言う生活に比べたらかなりマシである事は間違いない訳でーー。
「ーー分かった。
せいぜいアンタの先行投資に見合う働きはするとするよ」
「そいつぁ助かる」
「オレの名前はラムゼイ。ラムジーとでも呼んでくれ」
「よろしく、ラムジー。
期待しているぜ」
◆
「ーーああ、親分はいつもそうなのよ。
すっごく良いことしているのに、恥ずかしがってるのかすっごく悪ぶるの」
この孤児院に入ってから数日が経ったある日、多少馴染んで仲良くなった少女からあの老人ーー子供達から『親分』と呼ばれている男について聞いた時の言葉だ。
ここの所手先の器用さを買われて料理を教わったり、細工物や家具の修繕を頼まれる様にもなっていた。
今も幼い子供達の為に、木端から動物の彫り物を作ろうと手を動かしながら雑談に興じている。
「だよな?
いかにもわっるそうな顔してごくごく普通の事ばっかり言うもんだから、なんか拍子抜けしちまうって言うか……何なんだろうな、アレ?」
冗談めかして言うと、少女ーーシャーロッテは繕い物の手は休めずにくすくすと笑った。
「きっとあれが親分なりのショセイジュツ? ってものなんじゃないかしら。
『良い人』のままでいられる程、世の中って甘くないもの」
そう言う彼女の顔にわずかに掛かった影は、ここに来るまでに経験して来たものの壮絶さを感じさせるには十分だった。
ーーそう、この孤児院で数日過ごしているだけでも、ここにいる子供達に順風満帆な人生を歩んで来れた奴なんて一人も居ない事は分かっていた。
それだけに、親分に対して感謝も慕ってもいない奴なんてほとんど居ない。
中にはオレも含めて反発する奴も居るには居るが、来て日が浅かったり反抗期だったり構って貰え足りなくて拗ねていたり……まぁそんな奴ばかりだ。
みんな気の良い奴らで、一緒に何か作業をしているだけでも楽しい毎日を送れていた。
この生活がいつまでも続けば良いのに、なんて浮ついた事を考える様になっていた頃ーー事件が起きた。
◆
「大変だ、親分!
シャーロッテ達が攫われた!」
平和だったはずの館に鋭い声が響くと、その場の空気が凍りついた。
「賊は?」
静かに問う親分の姿が、その小柄な体格より何倍にも膨れ上がった様に見えた。
「最近暴れている人攫いの奴らだ。
シャーロッテ達が中心市に買い出しに行った所を狙われた。
場所は今ロンが追っている。
オレはとにかく親分に知らせないとって思って……!」
兄貴分のトムは自分が悪い訳でも無いのに親分から発せられる殺気に思わず冷や汗をかきながら捲し立てた。
「いや、良くやった。
人攫い連中に子供だけで立ち向かっても無駄だからな、的確な判断だ。
ーー傭兵団を呼べ。
俺が留守にする間に襲撃が来ないとも限らねぇ、用心しろ。
衛兵連中にも早馬を飛ばせ。
点数稼がせてやるから俺の合図目掛けてすっ飛んで来いってな」
親分の指令が飛ぶと、子供達は一斉に動き出す。
立ち上がった親分の後ろ姿を見送る形になって、呆然としていたオレはようやくハッと我に帰った。
「オレにもやらせてくれ、親分!
オレは鍵開けも出来る! 必ず役に立つはずだ!」
親分はオレの眼を真っ直ぐに見据えた。
「本気だな?」
「ああ!」
「よし、着いて来い!
くれぐれも先走るんじゃあねぇぞ」
◆
斥候を終えたロンと合流し、人攫いの隠れ家へと向かう道すがらに親分は矢継ぎ早に質問した。
「賊の人数は?」
「ざっと二十人程。
外に見張りが五人、中に人攫い連中と取引先らしき奴らが五人ずつ、シャーロッテ達を囲んでいる奴らが五人居た」
「武装は?」
「主にナイフを腰に挿しているのがほとんどだったけど、中にいる親玉っぽい奴と大柄な奴が長剣を持ってた。およそ三人」
「建物の構造は?」
「見た目は厩舎で天井が高い一階建て。
周囲にサイロや木箱があるから身を隠して近付きやすかった」
「乗り物は? 馬車か?」
「幌馬車が何台か。
繋がれてたのはほとんどがロバだった。
馬も何頭かいたけど農家が引かせるには目立つから駿馬はいないはず」
「ーーチビ達の様子は?」
それまで立て続けに淀みなく答えていたロンが詰まった。
「……縛られて檻に閉じ込められている以外は怪我もなさそうだった。
幼い子達も騒がずにじっと耐えていた。
でもーー!
奴ら、親分の子供達は質が良いから高く売れるって……!
下卑た顔でニヤニヤしながら話してやがった!
畜生ッ! 奴らぶっ殺してやる!」
「落ち着け。
賊の目的が金なら『商品』に手を出す確率は低い。
俺達が今やるべき事は、あいつらの身の安全を一刻も早く確保する事だ。
人攫い連中に拘ってやるのは後回しだ、そうだろ?」
「ーーははっ。
そう言ってる親分のが目がこえーっすよ」
軽口を叩けるまで落ち着いた頃、ようやく賊の隠れ家へと到着する。
「ロン、お前さんは走り回って消耗している。
ここで待機して後続との連絡役になれ。
そして合図が上がったと同時に外の見張り達を撹乱しろ。
ーー着いて来い、ラムジー。
お前さんの鍵開け技術であいつらを救ってやれ」
◆
見張りの目を掻い潜って厩舎の天井付近から侵入すると、親分は内部を観察し始めた。
「ほぅ、随分ともたついてると思ったら交渉が難航しているな?
こう言う取引の時は速さが命だってぇのによ。
欲の皮が突っ張ったのが運の尽きだぜ。
ーーさぁて行くぞ、覚悟は良いか」
その呟きに頷き返すと親分は小さな球を放り込む。
「(ーー煙玉だ!)」
球から煙が噴き出すと同時に親分はひらりと降り立って、誰の視界にも入らない位置から襲い掛かった。
まずは親玉、次いで用心棒、頭と実力者を真っ先に潰された連中に混乱が走った。
「ボスがやられた!」
「畜生! どこにいやがる!」
「侵入者は何人だ!?」
オレは騒ぎが広がる隙を見計らって檻に音も無く近寄ると、鍵開けの器具を鍵穴に突っ込んで素早く開ける。
「ラムジー……!
助けに来てくれたの!?」
「しっ。静かに。
親分が奴らを撹乱してくれてる隙に脱出しよう」
オレとシャーロッテで幼い子供達を挟む様に並んで身を屈めながら出口を目指す。
「でも、外には見張りが……!」
「大丈夫、外でロンが見張りを撹乱してくれる手筈になってる」
予定通り、外の見張りは中と外の騒ぎに混乱してこちらに気付く様子もない。
もう少しで包囲網から抜けられる、そう思った瞬間。
「くそっもう着いて行けねぇ!」
厩舎の中から数人が煙に巻かれながら飛び出して来た。
しかも間の悪い事に真っ直ぐこちらが隠れている所に向かって来る。
あわや見つかるかと思ったその時ーー。
遠くから地響きの様な音が迫ってきたかと思うと、二十騎ほどの騎兵隊が鬨の声を上げながらこちらへ突っ込んで来た。
その光景を目の当たりにした連中に『仕事』の事など頭に残っているはずもなく、蜘蛛の子を散らす様に散り散りに逃げ出した。
そんな足掻きも虚しく、一人また一人と騎兵隊達に捕らえられて行くのを安堵しながら見守っていると。
「悪ぃ! 何人か逃した!」
と叫びながら親分が飛び出して来た。
オレ達の無事な姿を認めてホッとした顔になると、騎兵隊の隊長らしき人に近付いて一喝する。
「遅せぇ!」
「無茶言わないで下さいよ!
これでもかき集められる精鋭揃えて緊急出動したんですから!」
「文句言うな、手柄は全部独り占めさせてやってんだから」
「そりゃあ感謝してますけどーー賊は?」
「あん中でお昼寝中だ。
取引の証拠も残しっぱなしだったから取っといてやったぞ」
ほら、と建物の中を指差された隊長はホクホク顔で取りに向かう。
「ほら、お前達! さっさと全員しょっ引くぞ!
今日はお手柄だから私の奢りだ!」
騎兵隊達が歓声を上げながら賊達を引っ捕えていく様を見送ると、親分はこちらに向き直った。
「ーーお前さん達、良く耐えたな」
「親分……!」
「親分!」
「こわかったよおやぶん!」
子供達が口々に泣き叫びながら走り寄ると、親分はしっかりと抱き止めて頭を撫でたり涙を拭ってやったりした。
シャーロッテも震えながらその様子を見守っている。
「シャルは行かなくて良いのか?」
「もう、私はお姉さんなんだから良いの。大丈夫だって」
そうやって強がるシャーロッテにも親分は優しく語りかけた。
「シャーロッテ。良くチビ達を守っていてくれたな。
もう大丈夫だ、安心しろ」
「……っおや、ぶん……!」
思わず駆け寄って抱きつきながら泣きじゃくっている。
「私も……怖かったぁ……っ!」
みんなが泣き止むまでには、もう少し、時間が掛かりそうだった。
◆
「ーーもう行くのか?」
「あぁ。
あんまり長居すると離れ難くなっちゃうからな」
あの事件から数ヶ月。
逮捕された奴らや証拠品から芋蔓式に捜査の手が伸びて行き、ここら一帯の犯罪組織が撤退を余儀なくされる騒ぎがしばらく続いた後、オレは衛兵団に志願する事にした。
あの時の親分みたいには流石に真似出来ないが、それでもみんなを守れる力が欲しかったからだ。
得意分野が手先の器用さで力はそこまでなオレには合ってないって反対する奴も居たけど、親分は賛成して推薦状まで書いて応援してくれた。
一応はコネ入隊って形にはなるんだろうけど……いずれ誰もが実力で認めるくらいまで成長するつもりだ。
昨日は送迎会でみんな盛大に祝ってくれたから、まだ眠っている奴ばっかりだろう。
ここで過ごした時間は短い間だったのに、随分と馴染んだものだと思う。
部屋を出て、庭を抜け、門の前まで向かうと振り返って館を仰ぎ見る。
様々な思い出が頭を過ぎって、込み上げたものが流れ出ない様にグッと堪えた。
「ラムジー!」
未練を振り切る様に背を向けたオレに声が掛かる。
「シャル!」
ーー最悪だ。アイツにだけは見られたくなかったのに。
「なんで来たんだよ!
昨日は遅かったんだからまだ寝てろよ!」
「だって……私、どうしてもラムジーの事を見送りたかったから」
しばしの間、二人の間に沈黙が流れる。
シャーロッテの顔を見ていたら、どうしても後悔したくなくなったオレは思い切って切り出した。
「ーーシャル、もうこの際だから言うけどさ。
オレ……お前の事が、さ。
……〜〜っあーくそっ」
頭をガシガシとかき回して叫んだ。
「オレ、お前の事が好きだ!」
「私も! ラムジーの事、大好きだよ!」
間髪入れずに返されて呆気に取られる。
「マジかよ!?」
「マジだよ!」
「じゃ、じゃあ、オレ、衛兵団で偉くなるからさ、その時はお前を迎えに行くよ!
その時まで待っててくれ!」
「うん! 待ってる!」
「じゃあーー行って来ます!」
「行ってらっしゃい!」
大きく手を振るシャーロッテの姿を前にしたら、気恥ずかしさが勝って思わず駆け出してしまう。
早朝の冷たい空気が紅潮した頬に心地が良い。
この熱が引くまではいつまでも走り続けてしまえそうだった。
◆
「やだ、恥ずかしい!
私ったらなんであんな事言っちゃったんだろ……!
勢い、そうよこれは勢いのせい!」
ラムジーを見送ったシャーロッテも顔を真っ赤にしながら館まで走り去った。
後に残されたのはコソコソと物陰に隠れる二つの影。
「親分、見送らなくて良かったんですか」
「いやぁ、あんな場面に出くわしたら流石に割って入る訳にも行かねぇだろ」
青春ってなぁ良いねぇなどと呟きながら、二つの影もまた朝露の中へ消えていった。