第七章 【囁く過去と凍てつく真実】
-リアナ視点-
森の静寂を引き裂いた戦いの余韻が、なおも空気に漂っていた。
傷ついた“異端の影”は姿を消し、辺りには倒れ伏したティレル隊の一部と、剣を構えたままのクロヴィスがいた。彼はなお、誰にも背を見せず、ティアルとリアナの前に立っている。
リアナは、剣を鞘に収めるその後ろ姿を見つめた。
(なぜ、あのとき……わたしたちを庇ったの?)
言葉にはしない。けれど、彼の行動は確かに彼女の中に疑念と希望の両方を残していた。
「ティアル、大丈夫?」
木陰で蹲っていた竜の子が、こくんと頷いた。
「怖かった。でも……リアナがいたから、平気だった」
その言葉に、リアナは小さく笑う。
「わたしもね。君がいたから、怖くなかった」
小さな手が、彼女の指をきゅっと握った。
-シュヴィア視点-
彼は木陰から二人のやり取りを静かに観察していた。
(……あれが、“声”の力)
“癒し”と呼ぶにはあまりに儚く、しかしそれ以上に強い。彼女の存在が、帝王を動かした理由も、少しだけ理解できる気がした。
(だが――)
彼の手の中には、一枚の封書があった。帝都から届いた、極秘命令。
《囚人番号442“リアナ・エルフィネア”の身柄を拘束し、帝都本塔へ移送せよ。
付随する竜種“ティアル”は、“存在確認後抹殺”――》
(……この命令が、陛下に届けば)
シュヴィアは、視線をクロヴィスに移した。
あの男は、どこまで知っている?
どこまで、彼女を“帝王”としてでなく、“彼女自身”として見ている?
-クロヴィス視点-
「……お前には、記憶があるのか?」
唐突に、クロヴィスはリアナに問うた。
「え?」
「前世の記憶だ。……お前の言葉には、時々そういう“響き”がある」
リアナは視線を逸らした。
「……少しだけ。断片的に、夢のように。でも……確かなものではないわ」
クロヴィスはしばらく黙っていた。
「俺には、幼いころ森で出会った少女の記憶がある」
リアナの手が、微かに震えた。
「それが……わたし?」
「わからない。けれど、お前の声を聞いたとき、なぜか涙が出た」
彼のその言葉に、リアナは小さく囁いた。
「……わたし、たぶんその少女よ」
そのとき、遠くで角笛が鳴った。帝都からの増援。追っ手の第二波。
そして、同時にリアナの体がぴくりと反応する。
(……この気配、知ってる)
胸の奥が冷えるような感覚。かつて“裏切り”と共に消えた声と力。
(……あれが、始まりだった。あの時、わたしは)
リアナの前世――“奇跡の声”を持ちながら、帝国に利用され、そして裏切られた少女。
彼女の記憶が、今、ゆっくりと目覚めていく。
―To Be Continued―
過去は忘れられず、未来は選べない。
けれど、“今”だけは、変えられるかもしれない。
第七章で、リアナはかつての自分に、そして帝国の“真実”に触れ始めます。
クロヴィスもまた、自らの出生と王座の重みに揺れながら、リアナに惹かれていく。
次章では、帝都に戻る道を絶たれた彼らが、“帝国の外”に向かう旅を始めます。
その旅路の先に待つのは、新たな同盟か、裏切りか――!!