表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/56

特別編:ティレル隊 【凍る忠義と揺れる信念 】

― 帝都・軍中央作戦区画 ティレル隊専用戦略室 ―


帝都の一角にある作戦区画の地下。

魔力対策として築かれた分厚い壁の向こう、沈黙の中にひとつの気配が揺れていた。


「……“竜の子”の件、保留とは……どういうことだ」


アデル・クラウス副隊長が低く呟いた。


会議卓の前には、ティレル隊の隊長、ユリナ・ティレルが立っている。

その瞳は、静かに、しかし確実に揺れていた。


「命令は変わった。陛下の“直接指揮”だと通達された。――ならば、それに従うまでだ」


「ですが、隊長……あれは、たしかにおかしい。帝王自身が、処分命令を下したと通達が来ていたはず――」


「……アデル」


ユリナの声が割って入る。


「お前は気づいていたはずだ。“誰かが”、帝王の名を使って、勝手に命令を偽装していることに」


アデルが目を見開く。


「それは……あの時の命令か? 森で、少女と竜を容赦なく討てと下された、あの不自然な通達……」


彼はあの日を思い出していた。


――燃える森の中、リアナが自ら名乗り出たその瞬間。

敵意でも憎しみでもなく、「きっとなんとかする」と微笑んだ、あの姿を。


「俺は……疑っていたんです。だけど、“命令”の下に生きてきた身として、それを否定する勇気がなかった」


ユリナは、少しだけ優しい目をした。


「私も同じだ。私は軍人である前に、“ティレル”の名に縛られた娘だった。だが、今は違う」


「違う……?」


「私たちは、“命令”よりも、“真実”を信じたい」


沈黙が落ちる。


やがて、アデルが拳を固めた。


「ならば……俺も、信じてみたい。リアナ・エルフィネアという少女が、なぜ“敵”ではないのか」


ユリナは小さくうなずいた。


「いずれ、帝国は大きく揺れる。……その時、私たちの選択が問われるだろう」


扉の外、遠くで鐘が鳴った。


帝都が、運命の刻限へと近づいていた――。


-ティレル隊の「忠義」と「変化」の狭間-


ティレル隊は、帝国軍の中でももっとも“忠義”を重んじる部隊。

とくに副隊長アデルにとって、命令は“絶対”であり、家族を失った過去から「魔族」「異能」への憎しみは強く根を張っていた。


しかし、リアナという少女の「在り方」に触れたことで、彼の信念が初めて揺らいだ。


それは、力を恐れられる異能者ではなく、

「誰かの命を守るために、自らを危険に晒す少女」の姿だった。


ユリナ隊長もまた、“帝国への忠誠”と“己の良心”の間で葛藤してきた人物。

けれど今、彼女ははっきりと選び取ろうとしている。


「命令に従うことが、正義とは限らない」

「私は、真実を見極めたい」


――ティレル隊は、これから重要な選択の場面を迎える。その時、彼らがどんな判断を下すのかは、今この“揺らぎ”の始まりにこそ、鍵がある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ