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第二章 【氷の皇子、炎の記憶】

- クロヴィス- 視点


帝都ルヴェルタの夜は、炎と悲鳴に染まっていた。


遠くから聞こえる破壊の轟音、焼け落ちる建物の軋み、燃え盛る炎の熱気。

その中心に立つ、若き氷の皇子――クロヴィスは血を流しながら冷たい瞳を閉じていた。


彼の胸の内は、無感情を装いながらも揺れていた。

この国を治める者として、民の命は数のうちのひとつでしかない。

だが、今夜のこの混乱は、あまりにも無意味に思えた。


「……また、愚かな者たちの蠢きか」


帝国を揺るがす反逆者たちが、王都の片隅で暴動を起こし、魔法を使って破壊の限りを尽くしている。

騎士たちは必死に鎮圧に動き回るが、クロヴィスは動かなかった。


むしろ、彼の目は炎の中の一箇所に釘付けになっていた。


路地裏の瓦礫にひざまずき、あるいは身をかがめて小さな影を守る、ひとりの少女。

囚人服を纏いながら、彼女はまるで不屈の光のように、恐れず立っていた。


その声は聞こえない。

けれど、彼女が放つ“何か”が、炎を一瞬だけ和らげていた。


クロヴィスは、わずかに眉をひそめた。


(……この力は何だ?)


目を凝らすと、少女は囚人仲間をかばいながらも、はっきりとした口調で言った。


「きっと、なんとかするから」


その言葉は、まるで世界に向けた約束のように響いた。


クロヴィスの胸に、突如として抑えきれぬ感情が込み上げてきた。

忘れていた記憶の欠片が、脳裏にちらつく。


雪の舞う森の中。

幼い自分が、ひとりで泣いていたあの冬の日。

誰にも見つからないように隠れていた秘密の場所で、見知らぬ少女が近づき、そっと手を差し伸べてくれた。


「泣かないで、大丈夫」


その時の彼女の声、温かな手のぬくもり。

それが今、あの少女の言葉と重なり、胸に深く刺さった。


(まさか、あれは……)


だが考えを巡らせている間もなく、反逆者の魔法が少女へと放たれた。


「やめろ――!」


クロヴィスの声が響いたが、既に少女は霧のように消えていた。

ただ、そこに残されたのは、静まり返った空気と安らかに眠る子どもの姿だけだった。


クロヴィスは拳を固く握った。


(誰だ……お前は……)


彼の心に、初めて“氷”が解ける兆しが見えた瞬間だった。


- リアナ- 視点


帝都の地下牢は冷たく暗かった。


石造りの壁に囲まれたその場所で、リアナは囚人服のまま、にこやかに囚人仲間と話していた。

牢獄の重苦しい空気とは裏腹に、彼女の目はいつも澄んで輝いていた。


なぜなら、彼女には誰にも言えない秘密があったからだ。


彼女は魔法の使い手。

しかも、瞬間移動を自在に操り、瞬時にどこへでも移動できる。

その力を使い、彼女は密かに傷ついた者たちを助けていた。


そして、あの日、彼女が助けたのは――絶滅したはずのドラゴンの子供だった。


「リアナ! 牢獄に何しに来たの?」


仲間の囚人が声をかける。彼女は笑って答えた。


「ただの用事。心配しないで」


牢獄の中でも彼女は明るく振る舞い、囚人仲間と楽しく過ごしていた。

瞬間移動で外の世界へ抜け出すこともあったが、何故かここを離れようとはしなかった。


ある夜、帝都に反逆者の襲撃が始まった。


炎が街を包み、人々が叫び、恐怖が支配する。


リアナは瞬時に移動し、怪我人を救いながら叫んだ。


「きっと、なんとかするから!」


その声は、絶望の中にあっても希望の光だった。


しかし、遠くから彼女を見つめる冷たい瞳があった。


塔の上から静かに見つめるのは、クロヴィスだった。


彼の瞳に映るのは、かつて幼い頃、森の中で自分を慰めてくれたあの少女の面影――それを確信できずにいる自分だった。


混乱の中、リアナは子どもを抱え、瞬間移動で姿を消した。


やがて彼女がたどり着いたのは、古の森の奥深く。

そこで待っていたのは、かつて助けた竜の子だった。


「また会えたね」


彼女は優しく呟いた。


―To Be Continued―

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