2話 対悪魔組織『エインヘリアル』2番隊隊長
「福崎隊長! 街中に悪魔が出現しました!」
「なんだと!? 対応状況はどうなってる!?」
「6番隊が対応済みです! ただ……多数の重傷者が!!」
「わかった! すぐに行く!!」
俺はそう言うと、走り出す。
悪魔……。
それはこの世界に存在する人類の天敵だ。
姿かたちは様々だが、共通して人間に害をなす存在である
俺の名は福崎悠斗。
16歳だ。
6年前――10歳で村から旅立った俺は、ギフト『新生』や転生前の知識を活かし、あちこちを見て回った。
そして12歳の頃、ギフトの強力さや総合的な戦闘センスを評価され、このユグドラシル大陸の対悪魔組織『エインヘリアル』にスカウトされた。
さらには15歳でエインヘリアルの2番隊隊長に任じられ……そろそろ1年が経過しようというところである。
「福崎隊長! ご指示を!」
現場に着くやいなや、部下である女性隊員が俺に声をかけてきた。
彼女はギフトこそ持っていないが、優秀な人材だ。
俺は周囲を見渡すと……
「まずは重傷者の治療が優先だ! 回復系のギフト持ちは重傷者の治療を、他の者はサポートを頼む!」
「「「了解!!」」」
部下たちはそう答えると、行動を開始する。
俺もそれに続きながら、状況を確認した。
(これは……ひどいな……)
2番隊は、主に回復系や補助系のギフトを持つ者で構成されている。
そうではない者も、一般的な医療知識や応急手当の技術は持っている。
しかし、そんな彼らでも手に負えないほどの重傷者が何人もいた。
逃げ遅れた一般住民も少なからずいるが、重傷者の大部分はエインヘリヤルの隊員たちだ。
彼らは……6番隊の一般隊員だな。
「うう……。俺の……俺の足は……」
「福崎隊長……。俺はもう……」
「ああ……悪魔どもが……」
隊員達からは、悲壮感が漂っていた。
それも無理はないだろう。
みな、体にも心にも大きな傷を負っている。
そんな彼らに、俺ができることは――
「【エクストラ・ヒール】」
俺はそう言って、能力を発動させた。
すると重傷者の傷がみるみるうちに癒えていき……
「う、うう……。これは……」
「ああ……もうだめだと思ったのに……」
「ありがとうございます! 福崎隊長!! 家族のために、また頑張れます」
「隊長は僕たちの光です……!」
隊員たちが涙ながらにそう話す。
彼らは、俺の直属の部下ではないが……。
悪魔との戦いでは、1番隊から7番隊の総力を結集させる必要がある。
これからも、力を合わせて強大な敵と立ち向かっていかなければならない。
俺は気を引き締め、引き続き隊員たちの治療を続けるのだった。
*****
1年後――
「福崎隊長か……。あのギフトには助けられているけど……」
「どれだけ痛い思いをしても、すぐに治されて……。戦い漬けの毎日は辛い」
「辛いなんてものじゃない。はっきり言って地獄だよ」
「だが……福崎隊長がいなければ、エインヘリアルの今はない……」
隊員たちからそんな声が聞こえてくる。
俺の『新生』は体のどんな傷も癒やす。
ただし、心の傷は癒せない。
悪魔との激戦を繰り返す中で、隊員たちの士気は少しずつ落ちていっていた。
そんなある日のことだった。
――ウー! ウー!!
けたたましいサイレンの音が鳴り響く。
これは……悪魔出現の警報だ!
しかも、特級の……!!
「ちっ! こんなタイミングで……!」
俺は舌打ちする。
俺以外の隊長格たちも強者揃いだが、今この街にいる隊長格は俺だけだ。
事態に対処するべく、俺は2番隊の部下たちに指示を出す。
「第1分隊は俺に続け! 第2分隊と第3分隊は住民の避難を!」
「「「了解!!」」」
3つの分隊が同時に返事をし、行動を開始する。
そして……
「なっ!? こ、これは……」
現場に到着した俺を待っていたのは……
「グオオオオ!!」
巨大な悪魔だった。
エインヘリヤルの文書で見たことがある。
確か……特級悪魔のヒュドラだ!
「くっ!」
俺は剣を構えると、悪魔に斬りかかった。
しかし……
ガキン!!
ヒュドラの体は鉄のように固く、俺の刃は通らない。
「グオオオオオ……!!」
ヒュドラが毒のブレスを吐き出す。
俺は咄嗟に『新生』を発動させた。
だが……
「うぐっ! ふ、福崎隊長……!!」
「お、俺たちのことは構わず……悪魔を……」
ヒュドラのブレスは広範囲に及び、部下の隊員たちも巻き込まれてしまう。
俺はすぐに、『新生』で彼らを回復させた。
「逃げろ、お前ら!」
「隊長……。し、しかし!!」
「あそこに逃げ遅れた町民たちがいる……。お前らが守らなくてどうする!」
俺は叫ぶ。
部下も町民も、俺の能力によって解毒されている。
だが、この場にいれば、いずれはヒュドラによって殺される可能性が高い。
「早く逃げろ! 足手まといの無能ども! 俺の邪魔をする気か!?」
「福崎隊長……すいません!!」
「ありがとうございます!」
そう言って、部下たちが逃げていく。
それでいい。
彼らは貴重な戦力だ。
ここで死なすわけにはいかない。
「グオオ!!」
ヒュドラが俺に向かってくる。
そして鋭い爪を振り下ろしてきた。
俺はそれを剣で防ぐと、そのまま奴の目に向けて剣を突き立てる。
「グオオ……!?」
ヒュドラが苦しそうな声を上げた。
奴の最も厄介な攻撃は、毒のブレスだ。
しかし、俺ならば『新生』で回復できる。
特級悪魔は厄介だが、今回ばかりは相性が良かった。
「よし! この調子で――」
『その油断が命取りだ。スキル【死の宣告】』
そんな声が聞こえた気がした。
次の瞬間、ヒュドラの口から凄まじい量の毒のブレスが放出される。
「な、に……!」
俺は反射的に『新生』を発動しようとする……が!
「ぐわっ!!」
ブレスの衝撃で、俺は吹き飛ばされた。
物理ダメージに加え、強力な毒のおまけつきだ。
(落ち着け! 物理ダメージも毒も、『新生』で回復できる!)
俺はそう自分に言い聞かせる。
だが、現実はそう甘くなかった。
『お前に毒は効かんようだな。ならば、窒息死させてやる』
再びそんな声が聞こえる。
悪魔はある程度の知性を持つ個体が多いが、言語を解する悪魔など聞いたことがない。
さすがは特級といったところか……。
いや、こんなことを考えている場合じゃない。
「うぐっ!?」
ヒュドラから放たれる毒ブレスの勢いがさらに増した。
粘性のある毒がこべり付き、息ができなくなる。
(ちっ……くそったれ!!)
俺は必死にもがくが、身動きが取れない。
このままだと……マズイ!
もうあとのことなんかどうでもいい!!
「うう……! ああああぁっ!!」
俺は『新生』の力を暴走させ、右手の筋肉を異常回復させる。
とびっきりの奥の手だ。
発動後の反動が強いので、普段は使わない技だが……。
そんなことを言っている場合ではない!
「うおおおぉぉぉっ!!」
俺は一時的に異常発達した右手の筋肉を躍動させ、全力で剣を投げる。
その剣はヒュドラの硬い鱗を貫き……心臓部を破壊した!
「グオオ……」
ヒュドラが力なく崩れ落ちる。
そしてそのまま、動かなくなった。
(た……倒したのか……?)
俺は『新生』の反動による激痛に耐えながら、かろうじて自身を侵す毒を浄化する。
しかし、それまでだった。
「ううっ……」
俺は地面に倒れ込むと、そのまま気を失ったのだった。
*****
「……ん」
俺が目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
(ここは……?)
天井が視界に入るが、それだけではどこか判断できない。
確か……ヒュドラと戦って……。
その後……どうなったんだっけ?
「福崎隊長! 目が覚めたんですね!」
「隊長……良かった……」
俺が考え事をしていると、そんな声が聞こえてきた。
目を向けると、そこには部下たちの姿がある。
「俺は……あのヒュドラはどうなった?」
「隊長のおかげで、無事倒すことができました」
「そうか……。それは良かった……」
俺は安堵した声を出す。
部下たちも嬉しそうだ。
しかし――
(改めて考えると、妙だ。特級悪魔は厳重に封印されているものばかり……。ヒュドラだって、古代遺跡の地下で厳重に管理されていたはずだ。それが、なぜこんな場所に?)
俺はそう考える。
しかし、いくら考えても答えは出ない。
ならば……
「古代遺跡に調査兵を送れ。今すぐにだ」
俺は部下に、そう告げたのだった。