第三話
「はい、あーん」
お店に着いて、席に案内されて、程なくして料理が運ばれて早々彼女は求めて来た。
「ん……やっぱり変わらず美味しいね」
「んく、だよね! 美味しいよねー」
変わらない思い出が、美味しさがそこにはあった。
「でも、やっぱり一番は悠歌の作る料理が一番だなあ」
彼女はそういった。
嬉しかった。
明日は私が作ろう、色々と。
「ありがとうね。そんなに上手でもないのに」
「十分美味しいし、上手だよ」
「ふふ、ありがとうね、本当に」
それから私たちは幾度となく食べさせ合った。
それが当たり前の様に、噛み締める様に。
……。
思い出のオムライスを食べて、近くのベンチで一息ついていた。
そしたら――
「もう十分かな、なんて」
燐音はそう言った。
「じゃあ受け取って、そして整理したら行こうか」
「うん」
先ほどのショップに戻り、指輪を受け取る。
お互いに嵌め合って、お互いに笑みが零れて、そして少し恥ずかしかった。
お店の人の前でしたもんだからね。
少し控えめに拍手されちゃったよ。
……。
そしてそのまま家に帰り、整理をした。
後に何も残らないように、綺麗に整理をした。
とは言っても大した物なんてないんだけどね。
それでも綺麗に整理をした。
私たちはそれから海へと向かった。
……。
「色々な事があったね。どれも最悪だったけど、良かったものもあるよ」
燐音は海に着いて裸足で歩きながらそうぽつりと言った。
「悠歌が居なかったらとっくの昔に選んでいた道だからね。今更特にないかな」
「……あ、でもね……もっと色々したかったかな」
「したらいいじゃない、離れたんだから、逃げたんだからって言うのは無粋よ」
「私は、私たちはいいの。これでいいんだから」
「何もない、特別でもない上で色々したかったかな」
燐音はそう滔々と零した。
「私もそう思うよ。だから行こう」
「うん。行こう」
「あっちに行ってからもっと話そう」
「そうしよう。沢山話したい」
私たちは海のいたずらのような小さな波に身を任せた。
――
彼女たちはとても笑顔で幸せそうに身罷りました。
とても笑顔で幸せそうに海に流され沈んで行きました。
その身体が、手が離れる事はなく――
それは何気ないいたずらだった。
それでも何でも良かった。
彼女たちは幸せなのだから。