第二話
私たちは強く打ち付ける雨の中お出掛けした。
気休め程度にしかならないけど、一応傘を差してお出掛けした。
「足元がすっかり濡れてしまったね」
「燐音が出掛けたいと言わなければ濡れなかったのよ?」
「あら、後ろを見るの?」
「見るつもりなんて微塵もないよ。ただお返ししただけ」
「最初の音は雨。だけどそれも一興ね」
「そうだね。それまで奏でていたけれど、それはひび割れた音だったね。もっと早く違うものを奏でればよかったけど……」
「原初の音は酷くて耐えきれないものだけど、それでも最初の音に繋ぐことは出来た。悠歌のおかげでね」
唐突にいつものが始まったけど、久しぶりだから嬉しいな。
私のおかげなんて、何もしていないのに。
燐音が耐えて頑張ったからじゃないの。
私は聞くだけ、見るだけだった。
とてもじゃないけどおかげなんて言えやしない。
「燐音自身が紡いだ、奏でたんだよ。私は何も……」
「いつもどんな時も悠歌が居てくれたから、ここまで紡いで奏でられたのよ」
「じゃあそういうことにする」
「今日は早いのね」
「そういう日もあるよ」
……。
「意外と近かったね。悠歌の家って良い所にあるのね」
「100%良いとは言えないかもだけどね。それでもほぼ不自由ないかな」
そんな他愛のない話をしていたら、あっという間に着いた。
体感では5分位だけど、実際は20分位掛かっていると思う。
この大きくもなく、小さくもないショッピングセンターまで。
「これとか似合うんじゃないかな?」
最初のお店で私にそう尋ねて来た。
いつもは私からだったのに、今日初めて尋ねて来た。
「私の趣味じゃないけどね」
「知っていてどうかなって言ったのよ」
「まあ悪くないかな、なんて」
「ふふん」
満更でもなさそうで何より。
まあ買うかは別だけどね。
「にしても、だね」
「いつもお世話になっていたから、今日位はってね」
「そっかそっか」
今度は私から貴女へ。
「最期にどうかな?」
「確かに。折角だし着飾るのもいいよね」
「でしょ? まあそこは任せるけどね」
「折角だからしようよ」
「じゃあ、あれこれ見て選ぼうよ」
「うん!」
それからあれこれ見て選んだのは何もなかった。
その代わりに選んだものがあった。
「やっぱり着飾るのは私たちらしくないよね」
「燐音もそう思うのね。でもせめて何かしたいよね」
「何が良いと思う?」
「じゃあ……これとかどうかな? 一度もこれは交わしてないから」
「いいね! 確かに交わしてないからこれにしよう!」
「ならサイズ測って、デザインとか選ばなきゃだね」
「デザインなんて余計なものいらないと思わない? これが一番じゃない?」
「確かに。言われてみればそうかも」
「じゃあ、サイズ測ったら交わそう」
私は平均的な細さだったけど、彼女のはやや細かったから少し時間掛かることになった。
こういうシンプルなものなら、奥で職人が手直ししてくれるみたい。
それから出来上がるまで私たちは時間を持て余した。
「何をして潰す?」
「そうだね……燐音は何食べたい?」
「あ、もうそんな時間かあ……食べていたら丁度良さそうね」
そこで一息区切って少しばかり悩んで、次の言葉を彼女は紡いだ。
「思い出のものを食べない?」
「いいね。行こうか」
そうして私たちは思い出のものを食べる為に歩き出した。