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第一話

「愛してる」



 彼女は浜辺で波に打たれながらそう言った。



「私も愛してる」



 私も同じように同じ場所から返した。



「これからどこへ行こう?」



 彼女は分かっているのにそう聞いて来た。

 どこへ行くか、何をするのか……分かっているのに。



「それはもちろん――」



 私ははっきりと答えた、応えたのだ。






 ……。






 ある日、それはとても突然だった。

 何気なく当たり前の様に居た彼女が、壊れかけた姿で逃げ出して来た。

 あの日、とても強く打ち付ける様に雨が降っていたっけ。

 そんな時に彼女は目の前に居て哭いた。



「もう……もう、分からないよ……!」



 私はただ抱き締めその銀のいつもは綺麗な髪を、荒れ果てた髪をそっと撫でて答えた。



「大丈夫。私はここに居るよ」





 私の部屋に行った私たちは、一緒に風呂へ入り、冷めた紅茶を飲んだ。

 それまで一切の会話はなく、ただ自然と風呂へ、冷め切った紅茶を飲んだ。

 淹れた時はとても熱かった紅茶も、冷め切ってしまう程抱き締め合った。

 それまで本当に会話はなく、自然と物事を一緒にこなしていた。

 そして、ようやく私たちは会話をした。



「もう戻れない、戻りたくない」

「逃げて良いんだよ、戻らなくても良いんだよ」



 私は彼女の呟きにそう答えた。

 それが正解かなんて分からないけど、少なくとも私ならそうするという意味で答えた。

 彼女もそれは分かっている様でこう返した。



「だから今ここに居るの。分からないけれど」



 まあ私たちは多くの言葉を交わさなくても伝わるのだけどね。

 今はとにかく話したかった。

 何でもいいから話したかった。



「これからどうするの?」

「もちろん……自由よ!」

「やっぱり? 相変わらず分かりやすいね」

「それを言うなら貴女も分かりやすいよ」

「それはそうでしょ? 私たち多くを語らなくても分かり合えるもの」

「じゃあ私が――」

「愛してる」

「最後まで言ってないのに。むぅ……だけど愛してる!」

「次何を言いたいでしょう、でしょ?」

「そうだよ。それで貴女はこう言うの」



『そんなの当たり前でしょ』



 私たちは口を揃えてそう言った。



「さて、こんな雨じゃあ何も出来ないね」



 私は諦めたつもりだったけど、彼女は違ったみたい。



「今日も、明日も自由を満喫するのよ」



 彼女はそう言った。



「雨でも出来る事はあるもんね」

「そうだよ? 何当たり前の事言ってるのよ」

「じゃあ何をしようか?」

「そうだね……時間が時間だから限られてくるけど……」



 そう、彼女の言う通りもう夕方だった。

 そう言えば今日は朝から雨が強く打ち付ける様に降っていたっけ。

 お出掛けなら風邪になっちゃうの覚悟しなきゃだなあ。



「一先ずお出掛けかな?」

「やっぱり言うと思ったよ。まあ、準備したら行こうか」

「うん!」






 ……。






「さあ、行こうか。愛しい貴女様」



 私はそう言って手を彼女に差し出した。



「行こう!」



 彼女はそう言って手を握って引っ張って私を連れ出した。

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