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第7話 盗賊に聖剣はオーバーキル過ぎた

 数日ほど経った朝の家。

 

『ぱぱらぱっぱっぱー♪』

 

 カリバーンが謎のファンファーレを口ずさんだ。

 この聖剣お姉さん、よくテンションが唐突に上がるなあ。

 

「なんです今の(かわいかったですが)」

 

 僕がパンを頬張りながら聞くと、カリバーンはくるりと回って。

 

『朗報よシードくん、聖剣レベルが上ったわ!』

「聖剣レベル……ああ、そういうのありましたね」

 

 なんか聖剣はステータスが可視化できるんだとか。

 

『毎日私に水やりをしてくれた成果よ、ありがとうね』

 

 ちなみに「水やり」とは土に刺した聖剣さんの刀身とその幽体にジョウロで水をかける行為だ。もちろん幽体だから水で透けたりはしない。でも気持ちよさそうにシャワーを浴びるところを見ると、いけない気持ちになる。

 つくづくえっちな聖剣さんだ。

 いやまあ、そこは今はどうでもよくて。

 

「おめでとう。何か新しいことができるようになった?」

『ええ、これを見て』

 

 カリバーンは『エス・オープン』と言った。

 

 名前 :聖剣カリバーン

 レベル:2

 クラス:七聖剣の一

 攻撃力:140

 スキル:【霊体化】【聖なる波動】【鞘の癒し】【聖剣の恩恵】

     【スキル共有】New!

 

「攻撃力が120から20増えたのと……スキル共有?」

『ええ。私のスキルをマスターが使えるようになるの』

「おお」

 

 それはとても強力なんじゃないか?

 

『【聖なる波動】と【鞘の癒し】の使い方は知ってるから【聖剣の恩恵】だけ説明するわ。これは攻撃力の半分を移動力に回す力で、これさえあれば猫より早く華麗に走ることができるわ。つまり機動力強化』

「へえ」

『うまく農作業に活かしてね』

「それは無理じゃないかな!?」

 

 正直、癒し系はともかく戦闘系は農業に活かせそうもない。

 僕の発想力が足りないんだろうか……。

 

『ゴブリン退治したじゃない。ああいうのはもうないの?』

「あれで一掃したから来ないよ。来るとしたら――」

 

 と、そのときだ。

 ドンドンドンドンドン!

 荒々しく家の扉が叩かれた。

 いったい誰だろう、とガチャリと開ける。

 すると。

 

「シード! シードは無事か!」

 

 となりの同じく農家のタタコノじいさんだった。

 年甲斐もなく血相を変えて汗を流している。

 

「じいさん、どうしたのさそんなに慌てて」

「出たんじゃ! 盗賊が出た! 十人近くじゃ!」

「ええっ、盗賊が!?」

 

 なんてことだ。

 といっても少しだけ予想はしていた。このへんの土地は例のビームぶっぱゴブリン全滅事件のせいで、急激に豊かになった(ように見える)。それに邪魔する魔物もいない。だから盗賊がやってきたのだ。

 

「じいさん、大丈夫!? ケガはない!?」

「儂らは問題ない、じゃ、じゃが孫のサラが連れ去られてしもうた!」

「サラちゃんが……!」

 

 サラは僕より三つほど年下の子だ。街の学校に通っているから最近はほとんど会っていないけど、小さい頃――まだ僕の農地が無事だった頃には、お兄ちゃんと後をついてきた記憶がある。

 放ってはおけない。

 

「わかった、僕が助けに行くよ!」

「は? シードが!? いや無茶はするな、相手は十人じゃぞ!」

「……うん。多分、大丈夫だよ」

 

 僕はテーブルの上に乗った聖剣をぽんぽんと叩いた。

 タタコノじいさんは知らないのだ、聖剣の非常識な力を。

 

『待って、シードくん。ちょっと問題があるわ』

「どうしたのカリバーン?」

『多分期待してくれてるけど……あのビームは一週間に一発しか撃てない』

「えっ!?」

 

 流石に回数制限があるのか。

 僕の【促成栽培】もそうだったけど。

 

『正確には撃てるけどフルパワーは無理。数人を巻き込むのが精一杯ね』

「数人……てことは」

『盗賊が十人いるなら七、八人は普通に倒す必要があるわ』

「……そっか」

『万一のことがあるかもしれない。それでも行くの、シードくん?』

「うん。行くよ」

『そう』

 

 カリバーンは満足げに笑った。

 

『迷いなく言い切れたわね。偉いわ、シードくん』

「ほ、褒めないでよ」

『だめよ。褒めるわ。勇気を出した子は褒めないといけないの』

「勇気というか、助け合いだよ」

『助け合い?』

 

 僕はうなずいた。

 

「農家は助け合いなんだ。僕は偶然だから力を持っている。土地が汚染されてつらいとき、じいさんには何度も助けてもらったんだ。じいさんがいなきゃ飢え死にしてた。だから――今度は僕が助けるんだ」

『…………なるほどね』

 

 カリバーンは僕の言葉に笑顔で頷いた。

 さあ、サラを助けに行こう。

 

 僕はじいさんに盗賊が去った方向を聞いた。

 そして深呼吸をすると。

 

「【スキル共有】【聖剣の恩恵】!」

 

 瞬間、時間が歪んだ。

 少なくとも僕にはそう思えた。視界がぐわんと歪んでいる。一歩踏み出すと風景が後ろに高速で流れ、二歩で風景が前後に伸びた。すごい。今、僕は風になっているんだ――。

 ほんの数分で農道を歩く一団に僕は追いついていた。

 

 前方に粗野なヒゲを生やした男達が見える。

 あいつらだ! 僕は盗賊たちの前にザッと立ちはだかった。

 

「ああん? なんだガキ、失せな」

「え……シードさん!?」

 

 サラもいた。しばらく見てなかったけど間違いない。銀髪のショートカットに学生服。たぶん学園からの帰宅の最中だったのだろう。サラはロープで巻かれ、盗賊のひとりに与し抱かれるように拘束されているようだ。

 

 よし――やるぞ。

 

 僕は聖剣カリバーンを振りかぶって臨戦態勢を取る。

 すると盗賊たちは一瞬あっけにとられ、次いで大きく笑った。

 

「がははははははは! てめぇみたいな貧弱坊やが俺らに歯向かう気か!」

「親分はクラス【闘士】だぜ、やめとけやめとけ」

 

 山賊たちの声を聞いてサラは血相を変えた。

 

「シードさん、だめです、逃げてください……!」

「大丈夫だよ。僕、強いから」

「そんな! シードさんはただの【農民】じゃないですか!」

「……そうだね」

 

 僕は確かに僕はただの農民だ。

 だけど――。

 

「武器は、最強なんだ」

「えっ」

 

 我ながら他人頼みだなあ。

 思いながら僕はカリバーンを振り下ろした。

 

 ズガアアアアアアアアンンンン!!!

 

 サラの周りの盗賊三人がカリバーンからの黄金の衝撃波でぶっ飛んだ。サラは無傷だ。カリバーンの敵味方識別機能だ。この聖剣さん、ほんとに便利すぎると思います僕は。

 

 ( ゜д゜)←サラ

 ( ゜д゜)←盗賊親分

 

 僕は呆然としている盗賊の後ろに【聖剣の恩恵】で回り込んだ。

 そして剣の柄で、がすん。

 

「へぶっほおおおおおおお!!??」

 

 ヘタに刃で触ったら多分スパンと切れてしまうので、柄で打った。それでも聖剣の攻撃力140は発揮されたらしく、盗賊親分は数十メートルほどぶっ飛んでゴロゴロ転がってパタンと倒れた。

 しーん。

 誰も声を発さなかった。

 そりゃそうだ。僕自身呆れているのだ。

 

「ば……ばばば、化け物だあああああああ!」

「逃げろおおおおおおお!!!!」

 

 親分を倒された盗賊たちが情けない声とともに逃げていく。

 残されたのは僕と、ロープに縛られたままポカンとするサラだ。

 

『お疲れ、シードくん』

 

 あとウインクするカリバーン。

 

「いや疲れてはいないけどね……万一とかなかったね」

 

 聖剣の力があまりにも圧倒的すぎた。

 

『シードくんの思い切りが良かったわ』

「そうかなあ……あ、サラを助けないと」

 

 僕はカリバーンでぷちぷちとサラのロープを切った。

 服が切れないように慎重に切るのは手間だった。

 

「大丈夫、サラ。怪我はない?」

「え。は、はい……怪我はない……ですけど」

 

 サラはおっかなびっくりの様子で僕を見つめている。

 

「シ、シードさん……ですよね? おとなりさんの?」

 

 銀髪の髪をさらさらと揺らしながらサラは問いかけてくる。

 

「うん。ひさしぶりだね。元気だった?」

「あ、はい……シードさんは、その、たいへんお強くなられて!」

「強いのは僕じゃなくて剣だよ」

「剣? と、とにかく、ありがとうございました」

「うん。どういたしまして」

 

 そうして僕たち三人は帰路につく。

 サラはずっと僕と剣とをじろじろ見つめていた。

 

『ふふふ。幼馴染の少女を助けて恋心をゲットできたわね』

「いやあ……してないと思うよ」

 

 サラのはどっちかというと怪物を見てる視線だと思った。

 うん。

 ちょっと――いやかなりおかしいよね、この自称・植物の聖剣さん。

なんかこう王道からいけない方向(ビームぶっぱする方向)に外れてるのはわかるのですがもう修正不可能なのでもういいや。あ、ブクマと★もらえると超うれしいです。


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