力の書 2
巨大な火の玉もこちらに向かって、飛んできた!
「まだ間に合うわ! 靖! 本を開いて!」
そう叫んだ白花によって、体中の傷が癒えた敦が力の書を開けた。
「うおおおおー」
出入り口のドアはビクともしなかったが……。。
靖は信じられない力を発揮してドアごと出入り口を粉砕してしまった。
外へと出ると、みんなでマレフィキウム古代図書館から遠ざかるために、全力で駆け出した。
商店街まで走り通すと、未だ真っ黒な空からは大雨が激しく降っている。
「あいつらは?」
弥生がいつの間にか抜刀していた。
竹刀袋には日本刀が入っていたようだ。
周囲の人もまばらで、皆大雨から逃げるかのように急ぎ足だ。
弥生が日本刀を抜いていても、気にとめる人はいなかった。
「もう、大丈夫そうね。こんなに走ったのは、私、生まれて初めてかしら?」
白花が真っ白なハットをかぶりなおして、息を整えながら伸びをした。
ぼくは白花がどういう生活をしているのかと一瞬疑問に思った。
普通の生活じゃなさそうだったが。
でも、聞くのも何故か気が引けた。
気楽には聞けない話のように思えた。
「うーっし、今度は俺たちの番だ。一人ずつ魔術師退治をしてやろうぜ!!」
敦が力の書を手に入れた勢いで、粋がってマレフィキウム古代図書館に中指を立てた。ぼくは口を開けかけたが、弥生が叫んだ。
「上!!」
見ると、三人の魔術師たちが、ぼくらの真上に浮いていた。
「よーっし! このヤロー!」
敦が地を蹴って上空へと飛ぼうとするのを、白花が止めた。
「待って! 様子を見ましょう!」
「うお!」
敦が白花に引き戻される。
ぼくと白花が辺りを見回した。
「?!」
「な、何か変よ?」
「? ……きっと、仲間を呼んでるんだ!」
「あ! 後ろ!」
幾つもの風を切る音が聞こえ、ぼくたちは後ろにあるマレフィキウム古代図書館の方を一斉に振り返った。そこには、たくさんの魔術師たちがうじゃうじゃとこちらに向かって、かなりのスピードで空を飛んできていた。
「キィエエエー」
迫り来る危機感から弥生が宙に浮いている魔術師の太った方に斬りかかった。
「キーン」
という、耳触りな音が鳴り響く!
「せ……生体電流だけで防いだの! ……魔法障壁!?」
白花が叫ぶが、太った魔術師は無表情で空中で佇んでいる。肌を焼くかのような膨大な生体電流が三人の魔術師から放出されている。後ろは、マレフィキウム古代図書館から大勢の魔術師が飛んでくる。
「し、しかたねー!!」
敦は商店街の道端にある一つのマンホールを力任せにこじ開けた。
「さあ、みんな中へ入れ!」
ぼくたちは濁った水の臭いが蔓延するマンホールの中へと、急いで梯子を降りていった。中は薄暗かったが。ぼくは、メタンが多いので、生体電流で少しだけかき集め。手のひらサイズの火の玉を右手に点けて松明変わりにした。
「ありがと。あんたも役に立つようになったわね」
「一言余計だ」
弥生との他愛無いやり取りをしていると、ぼくは水路が気になった。
大きな水路は外の大雨によって、水かさが少しずつ増しつつある。歩行者用の水路の端を歩いて行くと、外の激しい大雨の音がここからでも聞こえた。
「だんだん水かさが増えてくるわね。私、水着なんて持ってないわよ」
「俺だって!」
弥生と敦が焦りだした。
みんなも水路の水かさが身の危険になると思っているんはずだ。それを証拠に水路の水は見る見るうちに膨れ上がっていた。すでに足音はピシャピシャと水気を含んでいる。