力の書 1
白花も覚えたようで、こちらに向かって頷くと走りだす。
ぼくは、敦の体重は重いので、空気を生体電流で操り少し宙を歩くようにして走った。
なんとか古代図書館の出入り口にたどり着いた。
けれども……。
「あ、開かない?!」
弥生がドアの取手を力いっぱい開けようとしたが、ビクともしないようだった。ぼくは男だからと敦を地面に降ろして、二人をどかしてから、取っ手を強引にこじ開けようとした。だが、どうしても開かない!
「どうしたの? 閉じ込められたの?!」
あの落ち着いた白花の顔がサッと青ざめた。
古ぼけた階段から四人がゆっくりと歩いてくる。
その中で、一人は頭上に片手を挙げていた。
「あ! あいつか!」
ぼくは片手を挙げている男から、常時生体電流が膨大に放出しているのを察知した。そのせいで出入り口が開かないんだ!
「弥生。ちょっとごめん……」
「?」
ぼくは弥生の持っていた学生鞄から500ミリリットルのペットボトルを取り出した。弥生はいつも烏龍茶を飲んでいるのをぼくは知っていた。そして、ぼくは烏龍茶をペットボトルから地面にこぼして、生体電流で周囲の冷気を掻き集め。烏龍茶をマイナス5℃にした。
それから汗を少し混ぜれば、氷の剣のできあがりだ。
「それ、俺にやらせろ!」
地面に倒れていた敦が、いつの間にか気絶から意識を取り戻し起き上がっていた。
敦は氷の剣を握ると、魔術師たちの方へ向く。
「敦! 片手を挙げている奴を狙ってくれ!」
「おうよ!」
敦の目の前に突然、本が光の中から出現した。
「うん? なんだ?!」
敦はその本に気を取られ、氷の剣を投げるのが少しだけ遅れた。
もう一人の魔術師がすぐに口を大きく開けた。
途端に、膨大な量の生体電流がマレフィキウム古代図書館全体を揺り動かし巨大な火の玉が現れる!
「ち、力の書よ!」
白花が叫ぶが……。
火の玉がこちらに飛ぶより敦が氷の剣を投げる方が早かった。
グズっと鈍い音と共に、片手を挙げている魔術師の男の腹に氷の剣が突き刺さった。ぼくはその光景が信じられなかった。あまりにも現実離れしていた。
氷の剣は魔術師の腹を貫いて、古代図書館の壁もろともぶち破ってしまった。
「すげえー!! 俺ってば! ……これが俺の真の力かー!」
敦が感激して叫ぶ。
「違うわ! 早くその力の書を開いて!」
白花が叫んだ。
今度は倒れた魔術師を後ろへ押しのけた一人は、天井に向かって片手を挙げる。倒れた男と同じ魔術を行使したようだ。今度のはもっと強力でマレフィキウム古代図書館の全ての床がその魔術師の生体電流によって激しく揺れ動きだすくらいだ。




