勇気の書 3
ぼくは小さい頃から、いつもマレフィキウム古代図書館の本棚を監視する。古代からの本が並べられていているだけの、中にはまったく読めない。いや、この世の誰もが解読できないタイトルもある。正直、つまらない習慣だ。だけどそれがぼくの役目だからだ。
本は、体裁はしっかりとしていて、読むことに無理が生じない本ばかりで、解読がいつの間にか好きになっていたぼくとしては大助かりだった。
きっと、ことのほか大切に古代図書館の館長に保管されていたのだろう。
そのため今までの役目は全然苦にはならなくなった。
「ねえ、君。昨日の夜にマレフィキウム古代図書館で、一冊の本を見なかった? 光の中へと消えていったのだけど? その本のタイトルはルインっていうの」
「え?!」
一人の女の子だった。この学園の青のブレザーの制服を着ていた。
金髪で綺麗な顔をしているけど、ギリギリ日本人の顔立ちだった。
真っ白なハットを目深にかぶっている。
「見たのか?」
「睨まないで。私は白花 楓よ。世界の変わりを告げる一族」
「?!」
「フフフッ……。 世界が変わる日はすぐそこよ」
学園内にはメタンは無いと思うけど……。
二酸化炭素はあるな。
空気の振動を体内電流で、発した。
こいつは敵なんだろうか?
だとしたら……まずい!
「あれ! ……ちょっと、待って! 落ち着いて聞いて! 私は味方よ! それに奴隷の書を図書館で見つけたの! どんな傷でも癒せる! 癒しの力があるわ!」
「酸素もあれば!!」
「仕方ない!!」
白花は東階段を駆け下りた。
途端に、白花のいた場所の空気が弾けた。
空気の破裂系の初歩的な魔術。
「エアブレイク」だ。
ぼくは階下へと白花を追った。
階段を嵐のように駆け降りると、白花が両手を挙げて降参というポーズをしていた。
「ねえ、落ち着いてよ。ゆっくり話しましょ」
「……」
「私は何も世界の変わりを望んではいないのよ。ただ告げるだけなの。いわばシグナルね」
「そうか……すまなかったな。敵だと思った……」
白花は終始落ち着いていた。
ぼくは白花の瞳に、かなり小さな鎖のような模様が付いていることに気が付いた。
「ねえ、何してるの? ひょっとして告白?」
「マジか?!」
驚きとお道化が入り交じった顔の弥生と靖がこちらを見下ろしていた。
「零君。フラれたのよね! そうでしょ! 可哀想! きゃははははは!」
「何言ってんだ。あったりまえだろ!!」
弥生と克志が腹を抱えて笑い転げている。
この状況を見れば、誰でもそう捉えて当然だろう。
窓の外は未だ大雨で、突如稲光が発した。
「いいえ。私、この人は好きよ」
「?!」
「世界の変わる日まで……ずっと一緒にいましょうね」
「う?!」