知恵の書 2
「ハッ!」
ぼくは大量の空気摩擦を収束し、凍った窓に向かって強力な電撃を加えた。
バリ―ンと、窓ガラスが粉々に砕け散った。
砕けた窓から魔術師たちが一斉に学園長室に侵入してくる。白花が凛に試験官を持たせ、すぐに凛は両手で試験官を開けると、知恵の書が再び輝いた。
凛の掌に強力な生体電流が発生し、リケッチアを媒体にした血液を壊死させる有毒な霧を噴出させた。
「伏せろ!!」
魔術師たちには魔法障壁があるが、ぼくは今度は、気体を圧縮させて空気だけで小爆発を発した。
魔術師たちはもろに爆発に巻き込まれ、ブン! という電気の消える音がした。どうやら三人の魔術師の魔法障壁がなくなったのだろう。
魔術師の一人が悲鳴を上げ、霧から逃げる。
二人の魔術師も逃げようとしたが、霧を吸い込んでその場に倒れた。
リケッチアの霧によって、顔があっという間に真っ青になっていく。
「マレフィキウム古代図書館の「Ruīna」 の書は絶対……に……貴様たちには……渡……さないぞ……」
一人の魔術師は身体中を痙攣させながらうわごとのように小さく呟いていた。
「ルインの書……ラテン語で破滅、破壊、堕落などを意味しているんだ! それが……!? 世界の破滅の書か!!」
「零! 本は後! まだ、この人たちは癒せるわよ!」
「いや、駄目だ! 癒すと仲間を呼んでしまう!」
「そんな……このままだと……」
「落ち着いて聞いてくれ! やばいのはこっちもなんだ!」
ぼくと白花が言い合っていると、隣から凛が首を突っ込んできた。
「ねえ、なんなの? 何が起きたの?! 私、ナニしちゃったの?!」
「いや……後で説明するよ。……?!」
ぼくは魔術師の一人が、学園長室の一つの試験官を握っているのに気がつき驚いた。どうやら、その男は、リケッチアの霧をあまり吸い込んでいなかったようだ。
「ルインの書は我らのものーーー!!」
魔術師が試験官を開けた。
辺りは暗闇が覆った。
「ナニナニー! 真っ暗ーーー!」
「落ち着いて、RGBよ! 周囲の光の三原色を強力な魔術で捻じ曲げたの! でも、すぐに戻るわ!」
RGBはレッド、グリーン、ブルーの頭文字から成り立っている。色の三原色でもある。ぼくは、魔術師が何をしようとしているのか冷静に勘ぐった。
「そうだ! 白花! 凛! ぼくの傍に寄ってくれ! 決して、ぼくから離れるな!」
ぼくは魔術師のいる方へ空気の破裂系の魔術を連発した。
学園長室の隅が壮大に破壊される。
空気の破裂の隙を見てタッタッと、白花と凛がぼくの傍へ走って来たようだ。
しばらくは周囲を暗闇が覆っていたけど、窓の外から大雨の音以外は静かだった。
ぼくは魔術師が白花と凛の二人のどちらかを、人質にしようと思えたんだ。
凛の知恵の書は別だとは思うけど、白花の奴隷の書は、どうみても戦闘向きじゃない。
「ねえ、零。魔術師はどこかしら?」
周囲の暗闇がだいぶ薄くなり光が戻ってくると、隣で埃塗れのハットを叩いている白花がぼくに囁き声で聞いて来た。だけど、ぼくは内心ホッとしていた。
だが、学園長室には魔術師たち二人の姿が消えていた。
室内から忽然と消えた魔術師たちは? ぼくは辺りを見回し、相変わらず大雨の外を覗いたが、黒い服も影も形もない。本当に消えてしまったのなら、やはり何らかの高位の魔術を使ったんだ。