知恵の書
そのせいで、クタクタだった。もう歩くのも億劫だった。
生体電流を常時使い続けるのは、物凄い体力と集中力を使う。
白花がぼくを気遣って、何故か一緒に学校に行こうと言いだした。ぼくは首を即座に横に振った。家には母と父がいる。心配だった。
「明日、学校で……またな…」
「そう……魔術師は多分、学校へは近づけないの。学校はみんなの家よりも遥かに安全よ」
「何故?」
「簡単よ。もっと、高位の魔術師が第三カリタス学園にはいるの」
「……誰だ?」
「私の父よ。学園長なの」
「?!」
高級住宅街から商店街までは、白花がついてきてくれた。歩くこと一時間半。もうすっかり真夜中だった。ぼくは空腹になってきた。過度の疲労も相まって、「なぜ、ぼくの代になって……こんな大変なことが……他の奴がやればいいのに」隣を歩く白花につい愚痴を零してしまった。
落ち着いた白花は目を丸くして、「私も同じことを考えていたわ」と呟いた。
「もう少し早ければ、私の一族で最高位魔術師第三カリタス学園長がこの事態に対処していたのに……でも、もういいのよね。私は……これで……そう……いいんだわ」
「? ……?! 巻いたと思ったのに!!」
「え?!」
「白花! 上を見ろ! 全力で逃げるぞ!!」
真っ暗な夜の空には、ぼくたちを見張っていたのだろう。三人の魔術師たちが宙に浮いていた。あの最初に出会った四人の魔術師ではない。それぞれ顔に彫り込まれた歪んだ模様は違っていた。どうやら指紋のようにみんな違うのだろう。
魔術師たちは三人とも生体電流を増幅させていた。
ぼくは白花を連れ、疲れでしんどい身体を鞭打って全速力で第三カリタス学園に駆け出した。突如、目の前に大岩が落ちてきた。
商店街のど真ん中で大岩がぼくたちの前に立つ塞がる。
「チッ」
ぼくは舌打ちして、額から汗を流し、残りかすの生体電流を空気中に発生させた。空気摩擦を発生させて、瞬く間に放電した雷の玉を掌に生じさせた。それを大岩の中心に投げつける。
大岩が強力な電気の力で破壊された。
「ありがとう! もっと早く走りましょう! 学園長のところへ! そこはここよりももっと安全なはずよ!」
「チッ! わかった!」
商店街を突き抜け、今度は第三カリタス学園の正門を抜ける。芝生を蹴って、校内に入ると、学園長室を目指した。
階段を上へ上へと走り、廊下を死に物狂いで突っ走ると、学園長室の重厚な扉を開けた。中には香水のようないい香りが充満していて、多くの試験官が所々に置いてあった。……緊急時に触媒としてつかうためなのだろうか? 水素や酸素、フッ素に珪素にリケッチアやバクテリア。他には何の化学物質かもわからない気体が入った試験官が豪奢な机の上にも並んでいた。