力の書 3
「ここから早めに出ましょ」
白花が真っ白なハットを目深に被りぼくに囁くように言った。
「私……どんな怪我でも癒せるんだけど、溺死や死んだ人は生き返らせられないの」
「?!」
ぼくはそれを聞いて、さっさと出口を探そうとした。
「みんな急ぐぞ!」
「オーケーだ!」
「後で靴をよく拭かないといけないわね。あの魔術師たちの服で」
敦も弥生も、もう白花が味方だと信じているようだ。ぼくもそうだった。そういえば、第三カリタス学園のキリスト教学科に転校生が今日二人来ると言われていたような……。
そんなことを先生の立ち話で聞いていたのを思い出した。
「今日は転校生が二人来るって言われていたんだ!」
「あれ? そうね! 転校生が二人!」
弥生も知っている感じだった。
「確か白花ともう一人は香川 凛って名前だった……」
白花はその転校生の一人だったんだ。
ぼくたちはそれから魔術師たちを巻くためマンホールの中を滅茶苦茶に走った。
しばらくして、地上へ這い上がってみると、そこは高級住宅街だった。
大雨は未だ振り続ける。汗を大量にかいていて雨でずぶ濡れになったぼくはもうドブねずみの気持ちだった。
「さすがに私たちの家までは知らないでしょうね」
弥生の一言で明日、学校で落ち合おうということになって皆それぞれの帰路に着いた。
ここ高級住宅街は、マレフィキウム古代図書館から東へ数十キロ離れたところだった。でてきたマンホールからは轟々という濁流の音が聞こえる。
ぼくは今まで水かさを増やさないようにと、魔術で部分的に水を圧迫していた。地下は酸素が少ないので、二酸化炭素を操って、みんなの呼吸に危険のないように空気の魔術を行使していた。