98 帰国、その後
私たちは周辺に何が有るのかを見ながら、ファリチスへの道のりを進んでいく。
エバマ大河程では無いが、大河が前方に見える。
「あの河はどうやって渡るの」
アークシュリラが誰に問うた訳で無く言った。
「大昔にこの地に在ったガシララ王朝が作った橋が今も残っている。それを渡れば良い」
ビブラエスが答えた。
「ガシララ王朝って?」
「この地の南半分を支配下に治めて、ハルメニア王国も属していた大国だ。オーラガニアもな」
「そんなに広い国土だと、イロイロと大変だよね」
「そうだな」
私たちは太古に作られたとは思えない、今も現役の橋を渡って向こう岸に行った。
誰かが手入れをしているのだろうか、最近作ったと言われても違和感がない。
「こんなにスゴイ橋を作る技術が有ったのに、ナゼ滅んだの」
私が聞いた。
「ガシララ王朝が無くなったのはアノートギャスターがやって来たのと、各街の反乱だな」
ヴェルゼーアがそれに答えた。
「それって、よくあることだよね」
「そう、国が滅ぶ理由としては、よくあることだ」
国が滅ぶ原因は、ほとんどが魔物が出現するとか内乱が起こる場合だ。
その2つが同時に来たら、幾ら大国と言えども保たないだろうなぁ。
こんなモノを作っていた時代には、想像すらしていないんだろうなぁ。
今も国が残っていたら、錬金術も高度に発達していると思う。
私としては、その技術の一部でも教わりたいけどね。
「あの掘っ建て小屋はナンだろうね」
「ここいらの人かナニかが建てたのだろう」
アークシュリラが前方に指を指して言ったのを、ビブラエスが応じた。
「あの脇に停まっている馬車って、私たちの村に来たヤツだよね」
掘っ建て小屋には似合わない、豪華な馬車が一台停まっている。
「ここで布教活動を始めるんじゃないのか」
「ヴェルゼーア、ここは人通りも多くは有りませんよ」
「そうだぞ。西の方が、まだ人はいるぞ」
「気になるけど、事件を起こしてないし、ここではナニも出来ないから早く帰ろうよ」
アークシュリラでは無いが、私としては悪さをしていなければ居ても良い。
みんなはどうか判らないけど……
「そうですね」
レファピテルが私の意見に賛同してくれたので、私たちはそのまま進んだ。
後日、ビブラエスが調べたところ、神官の階級は司教で、名前はロベルトというらしい。
それと、今は布教など宗教的なことは、特にナニもして居ないと言っていた。
そして私たちはファリチスに戻ってきた。
お店の数は私たちが出掛けた時と変わりないが、売っているモノの場所が変わっている。
そして、子供たちが広場の噴水の回りを駆け回っている。
そう言ったことは、少し前まではなかったことだ。
この村の雰囲気も少し変わって来ているんだね。
ヴェルゼーアは留守中に有ったことを、ザスティーニたちに確認している。
まぁ、この感じでは事件は起きていない。
少ししてからヴェルゼーアから、集会所に集合と連絡が有った。
「この手紙が今しがた届いた。差出人はカペランドだ」
ヴェルゼーアが一通の封書を机の上に置いて、話を続けた。
「オーラガニアで我々の捜索が始まったそうだ」
「ヴェルゼーアどうする。放って置くのか」
「カペランドたちは無事なの」
「船の旗は沖合に出てから掲げると書いてあったので、多分無事だな。無事でなければこんなことは書かない。それはここにある船にも、オーラガニアに入港する場合は注意しろよって促していると感じる」
「そうか。でも、ナンで捜索してるんだろうね」
「ジャイアントヴェスペ絡みだろうよ」
「そうですね。隠したくてもギルドから大量にジャイアントヴェスペの部位が出回れば、隠しようが有りませんよ。あれだけの数を退治したのは事実ですからね」
私たちはオーラガニアのギルドで、退治した全てのジャイアントヴェスペを売った訳では決してない。
それは発生源で売るより、他で売った方が珍しいので、買い取り価格が高い場合があるからだよ。
なので、帰路に有るボッズベルの街とかでも、私たちは売っていたよ。
それに、私とビブラエスは毒などを売らずに持っている。
レファピテルは牙とかアークシュリラやヴェルゼーアも針など、みんながそれぞれ気になる幾つかの部位を売らずに持っている。
そうは言っても、その数は退治した数量の5パーセントにも満たないけどね。
「それじゃ、私たちにジャイアントヴェスペを退治してくれと言って来るの?」
退治したばかりだから、退治の依頼とは思えない。
私たちをナンで捜しているのだろう。
「我々にナニをしたいのかは判らんが、探していることはカペランドの手紙から云って事実だろう」
「だったら荷物を運搬する船に乗って調べてくるよ」
「そうしてくれるか」
「判った」
ビブラエスは数日後に、オーラガニアへ荷物を運ぶ船に乗船して旅立った。
ビブラエスが調査をし終えて戻って来るまでは、みんなもこれといった支援は出来ない。
そこで私は、ジャイアントヴェスペの針を参考にして、矢の素材などを改良する事にした。
こんなに細いのに折れないって、本当にすごいよね。
その上、真ん中が空洞に成っているんだから、驚き以外のナニモノでもない。
この構造で矢が作れたら、鉄の時より随分と軽く成るよね。
ダガーで少し針を削って錬金釜に入れたり、合成炉で熱を加えたりしてみる。
魔物と言えども生物が作ったモノだから、それほど甲殻と変わらないと思う。
こうすれば良いのかなぁ。
あれ、柔らかくなってしまったと云うことは……道具を使った作業って、本当に久しぶりだなぁ。
やっぱり、戦いよりこう言うことの方が楽しい。
よし、これで同等のモノを作ることは出来る。
数日掛かったが、目処はついた。
成分が解れば、あとは杖でも作ることが出来る。
更に今回の素材は金属でないので、同じ生き物である草花からでも短時間にその素材だけでは無く、矢まで作りだすことが出来る様に成った。
なので、弓での戦闘中でも生物がいない岩場以外だと、補充が出来ることを意味している。
最初は杖以外では無理かと思っていたが、別に杖の形で無くても錬金術を行う効果は変わりなく使えたからだよ。
そうなると、何処かへ行く度に、矢を入れた野草入れを背負っている必要は、もうない。
しかし、女王のスピードに、私の射た矢では当たりもしなかったんだよなぁ。
折角の飛び道具なのに、これじゃ、飛ぶ相手では使えない。
今でも、力の限り引いているから、これ以上強く引くことは出来ないしなぁ。
今の筋力で無理と言うことかも知れないから、一応、筋トレはしておこう。