97 アノートギャスターを見る
私たちが街を散策していたら、時間も午後になっていた。
「ヴェルゼーア。もう、行っても良いのではないですか」
「そうだな。午後には用意出来ると言っていたから、そろそろ行くか」
「そうだね。午後も少しすぎたからね」
私たちは冒険者ギルドに行って、受付に居たモノに午前中に貰った用紙を渡す。
「それではこちらへどうぞ」
先ほどと同じ部屋に通された。
少ししてギルマスが、やって来た。
その後ろから職員が台車を押して入って来る。
職員が台車に積んで来た袋を机に置き終わったのを確認してから、ギルマスが言った。
「どうぞご確認下さい」
「レファピテル。数えてくれ」
「まったく、もう」
そう言って、レファピテルが袋を中の一枚を取り出して眺めだす。そしてその重さを確認してから袋の中に戻した。
それを数枚ほどやってから、袋を一つずつ持ち上げた。
「ヴェルゼーア、確かに枚数はありましたよ」
「そうか判った」
あれで全ての枚数が判るんだね。
どうやったのかなぁ。
「ソルシード、確かにありましたよ」
「それではこの書面にサインをお願いします」
ヴェルゼーアはそれを受け取って、ビブラエスの方に差し出した。
「ビブラエス、頼む」
ビブラエスがその書類を受け取って、目を通してからサインをする。
そして、ヴェルゼーアに用紙を渡す。
それをヴェルゼーアが受け取って、ソルシードへ渡した。
まぁ、私もアークシュリラに渡すから、人のことは言えない。
それは、字を書くのが面倒くさいと云うわけでは決してない。
私の場合は、アークシュリラが戦闘で決定打を打ったから、その敬意を込めてサインを書いて貰っている。
なのでヴェルゼーアもそうなのだろう。
「これで終わりか」
ヴェルゼーアが確認のために云った。
「ジャイアントヴェスペの買い取りの件はこれで終了となります。他に何かありますか?」
ソルシードがそう言った。
「別に無い」
ヴェルゼーアはそう言って席を立った。
そしてソルシードは、私たちをギルドの玄関まで見送ってくれた。
「お金が、すごい量だね」
「ジャイアントヴェスペなら妥当な金額だろう。各自に同じ枚数を分けて、端数を村の財産とするか?」
「お金ってあんまり必要ないから、私は数枚だけもらえれば良いよ」
「私もあまりいりませんね。村のモノにして良いと思いますよ」
いくら私たちでも、こんなにも人の往来が多い街の中で別ける訳にはいかない。
かと言ってお金を分けるためだけに、宿を借りるのも勿体ない。
なので、ファリチスに戻るまでは、レファピテルがそのまま全てのお金を預かることになった。
村に戻ったら、ミスリル貨を一枚だけ各自に記念として配って、残りを共有の財産とすることにした。
一枚ずつくらいなら、どこでも各自に配ることは出来る。
しかし、今回はプラチナ貨で無くミスリル貨だから、そんな高額貨幣を持っていると知らす必要性はないからね。
それにミスリル貨では、お店もおつりを用意出来ないから、通常の買い物には使えない。
「それじゃ。もうこの国に居る必要はないよね。だったら、早くアノートギャスターをやっつけに行こうよ」
アークシュリラが話題を変えた。
「ジャイアントヴェスペもやっつけられない我々が、行ってもムリだぞ」
ビブラエスがそれに応じる。
「そうだけどさぁ、ビブラエスは戦ったことあるんだよね」
「あると云いたいが、いいように弄ばれただけだ。アノートギャスターが相手では、ジャイアントヴェスペの様に相手に飛び込むことは出来ない。なので、鳥の様に自由に空を飛べない我々が、どうやって戦うつもりだ」
「じゃ、見るだけでも良いからさぁ」
「そうですね。見たことがないのなら、あの飛行を見るだけでも勉強に成りますね。ヴェルゼーアとゼファーブルも行きますよ」
私たちはオーラガニアを出て、西へ進んだ。
数日でアノートギャスターがいる草原に出る。
そこには、デッカい黒と黄色の縞模様の躰をしたトンボが、我が物顔で飛んでいる。
「あれがアノートギャスターですよ」
「あれが、そうなの? とても大きいね」
しばらくの間、私たちはアノートギャスターが飛んでいるのを眺めていた。
そして、アークシュリラが言葉を発した。
「あれと戦うのはムリだね。私の魔法でも、あの速度には付いていけないかなぁ。剣も構えた所に飛んできてくれないと、切ることは出来ないね」
あの飛行速度と云い、自由自在にコースを変える飛行テクニックを見て、誰一人として戦えるとは思っていないと思う。
それに今は巡航速度だしね。
私たちが草原を進んでいても、アノートギャスターは全く襲って来ない。
まるでアノートギャスターの眼中に、私たちが存在していない様だった。
それはアノートギャスターに取って、私たちが警戒する対象で無いことを意味している。
「これならば、ここに住んでいても、ナニもマズいことはないよね」
「でも、家を建てるとアノートギャスターの飛行の邪魔になる見たいで、襲って来ますよ」
「地下なら平気と言うこと?」
「そうですね、地下都市なら平気ですね」
仲良くアークシュリラとレファピテルが、我々が歩く前の方で話している。
「でも、魔法で地下を作らずに、土を掘り出して盛っていると襲ってくるな。限界は2メートルくらいかな」
たまに、ビブラエスがその会話に混ざっている。
「それじゃアノートギャスターも見たし、ファリチスへ帰るとするか」
ヴェルゼーアがそう言った。
「良いですよ」
レファピテルが笑顔で応じた。ビブラエスも笑っている。
三人にとってやっぱりヴェルゼーアが中心ナンだと、今更ながらに思った。