95 女王との戦いが終わって
私たちはジャイアントヴェスペの女王と戦って居るが、敵いそうにも無かった。
「ゼファーブルとレファピテル。もう一度寒く出来るか」
「出来るよ」「出来ますよ」
私たちが、同時に答える。
「じゃ、頼む」
「ビブラエス、それをやってどうするの」
「高度が下がったら、ヴェルゼーアとアークシュリラは剣を出さないでほしい」
「判ったよ」「判った」
「絶対零度」「絶対零度!」
再び周辺の温度を下げた。
女王は戦って躰が温まっているようで、先ほどよりかは高度が下がらない。
「ちょっと遠いかなぁ。でも大丈夫だろう」
そう言ってからビブラエスは壁を駆け上って行き、壁にある出っ張りで体勢を変えた。
そして、壁を蹴ってそのまま女王目掛けて飛び込み、女王の腹部をダガーで捕まえた。
腹部は毒針も届かないし、咬むことも出来ない。
女王は手足を使いビブラエスを落とそうとするが、ビブラエスも届かない所へ上手く移動している。
それからビブラエスは、ダガーで女王の胸部と腹部のつなぎ目を切断すると、腹部はそのままビブラエスと一緒に地面に落下した。
空中に留まっている女王の切断された箇所から、体液が流れ落ちている。
それでも女王は最後の力を振り絞って、気高く私たちに飛来して来た。
それをヴェルゼーアとアークシュリラが示し合わせた様に、両側から羽を切り落とした。
こうなってしまえば、女王としてもやれることはない。
動物みたいに、舌を噛み切っての自殺も出来ない。
「ビブラエス、大丈夫か」
「大丈夫だ」
「なら、お前が留めを刺せ」
「判った」
ビブラエスは、足を引きずって女王の頭部と胸部の部分に近付いた。
そして、ビブラエスがダガーで心臓を一回突くと、動いていた女王の手足は動かなくなった。
女王は誰からも邪魔されない、二度と起きることの無い安らかな眠りに就いた様だ。
「ゼファーブルは、ビブラエスの治療をしてくれ。アークシュリラは解体は出来る……」
アークシュリラが無理って顔をしたのを見て、ヴェルゼーアが続けた。
「イヤ、私が解体はする。レファピテルとアークシュリラは幼虫と卵の処理を頼む」
ヴェルゼーアの指示の元、それぞれの担当の仕事をやり出す。
幼虫は活き締めをして、卵はレファピテルが孵化しない様に処理をした。
私はビブラエスに治癒魔法をかける。これで良いと思うけどなぁ。
「ビブラエス、痛いとこはある」
「無いが、違和感は有るなぁ」
「どれ」
魔法で元に戻っているが、私は腰や足を中心に看ていく。
これは一時的なモノだろうか。
もしかして、落ちた時に針が刺さったか、毒が口に入ったかなぁ。
再び全身に治癒と回復及び解毒の魔法をかける。
「今度は、良くなったぞ」
「良かった。ビブラエス、落ちる時に針が刺さるか毒が口に入らなかった?」
「入ってはいないと思うが……」
「そう。今度は解毒の魔法もかけたんだよ。これで良くなったから、どちらにしても毒にやられているよ。女王の毒をもらって来るからちょっと待っててね」
私は解体をしているヴェルゼーアに尋ねた。
「女王の毒はどうしたの」
「まだ腹はやってない。手伝いなら歓迎するぞ」
「先に毒だけ貰うよ」
ヴェルゼーアはビブラエスの方を見てから言った。
「そう言うことなら、構わないぞ」
私はダガーで腹部を割き、毒袋を取り出す。
結構大きいね。
毒袋から毒を取り出して、私は解毒剤を作り始める。
錠剤が持ち運び易いが、即効性を優先して液体にした。
「魔法で解毒したけど、これも飲んどいてね」
「これは解毒剤か」
「そう、女王の毒から作った解毒剤だよ。最近判ったんだけど、魔法じゃ完全に消えない様だからね」
「これは一気に飲んでいいのか」
「一度に飲んで」
ビブラエスが薬を飲み終わると、他のメンバーも仕事が終わった様だった。
女王の部屋には、卵や幼虫を入れていたモノなど、不要品しか残っていない。
この先には、もう通路や部屋はない。
「終わったね」
「ビブラエス、流石だよ。自力で行かなくても、私が魔法で飛ばして上げたのに」
「あれはドコへ飛ぶかとか、事前の準備がいるからな」
「そうだね。良く相談して上手く打ち上げないとダメだよね」
「ここにある壁は自然に出来たモノだから、難なく登ることは出来る。後は届くかだが、一か八か賭けてみたんだ」
「ビブラエスが届かなければ……彼女がそんな賭けをするはずはありませんよね」
それから私たちは会話に応じてくれるジャイアントヴェスペとはできるだけ話して、問題になりそうな巣を聞きだした。
他のジャイアントヴェスペたちから問題だと聞いたとしても、それらが話に応じてくれて問題のない処にいってくれれば退治はしないよ。
やはり、中には話に応じてもくれないモノもいるし、話し始めても問題の無い処へ行ってくれないモノもいる。
最後は強硬手段しか無いので、私たちは幾つかの巣を始末もした。
アークシュリラも強い魔法を放ったり、私が多弾頭の電撃を放ったりもしたが、それでも女王との戦いは熾烈を極めた。
ビブラエスやヴェルゼーアたちも、幾度となくレファピテルによって女王に向かって飛ばされたし、アークシュリラもダガーや剣を持って飛んでいたよ。
「少しは片付いたのかなぁ」
「本当に少しだがな。今回は凶悪で大きいのを始末したが、また少しすれば大きいのが出来て動物たちが襲われる。これは仕方ない事だ。だから、数年に一度くらいは、誰かが様子を見に来なければ成らないだろうな」
「私たちでこれほど苦労するのだから、ランクの低い冒険者では無理だよね」
「そうですね。エサになりに行く様なものですね」
巣の周辺には、動物の骨が幾つもあった。
よく調べてはいないが、多分、人のモノもあるだろう。