94 ジャイアントヴェスペの女王との戦い
ジャイアントヴェスペの兵隊たちとの戦いが一段落して、私たちは話し合っていた。
「ゼファーブル。あの弓はどう言うことだ」
「この杖は形が変わるんだよ」
「違う! そうじゃない。射抜いたことだ」
「なんだ、そっち。私の矢は細くしたから、当たっても途中でとまんないんだよ。多分だけどルージュミルパーツくらいなら射抜けるよ」
「ルージュミルパーツを射抜くだと」
「それでは甲冑を着ても、全く意味が有りませんね」
「ないな。剣の化け物と弓の化け物かぁ」
「ヴェルゼーア、化け物ってひどいよ。あんただって私と一緒に戦ってたんだから化け物だよ」
「そうですね。まともなのはわたくしだけ――」
「解体は終わったぞ」
「あの数を一人でやっていて、もう終わったのか」
「いや、もう一人化け物がいましたわ」
「どこに化け物がいる?」
「私の目の前にね」
「私が化け物なら、全ての言葉を操るお主も化け物ではないか」
「ここに居る全員が化け物でも良いが……」
「良く有りませんよ」
「そこは白黒はっきりさせよう」
レファピテルとビブラエスがヴェルゼーアの進行を妨害しだす。
「どっちでも良いよ。女王ってまだ居るんだよね」
「あぁ、そうだな。多分だけど凍ってはいないと思うぞ。巣の中には、生き延びた兵士も居るだろうしな」
「そうでした。ビブラエス、この話は終わってからゆっくりとしましょう」
「そうだな。それなら洞窟に入るか?」
「確認して、始末をしなければならんからな」
それで、私たちは洞窟を進むことにした。
ビブラエス以外は灯りの魔法を使えるが、ビブラエスは暗闇でも周囲にナニが有るかを確認することが出来る。
ここはビブラエスが先に行って確認して、私たちが後から付いていくことになった。
照明も、相手に気付かれない様に魔法でなくて、スライドシャッターを下ろしたランタンを使うことにした。
これが人間相手なら灯りを使っても構わないが、光に敏感な昆虫相手ではそうは言ってられない。
「本当に、これはラビリンスかダンジョンだね。ビブラエスは良く迷わないよね」
「アイツは頭の中で立体的な地図を作っているし、方向感覚は人間とは思えないモノを持っているから、迷うことはない」
「それと経験則で、この土や岩なら壁の厚さはいくつと判りますね。その上耳がやたら良いですよ」
レファピテルがささやく様に言った。
多分だけど、ビブラエスに聞こえない様にだろう。
やっぱりビブラエスも化け物だ。
「あっ、ビブラエス伏せて!」
アークシュリラは脇差しを抜いて光の矢を放った。
光の矢は、暗闇から現れたジャイアントヴェスペに刺さっている。
ビブラエスのダガーが、すかさずそれにトドメを刺す。
私たちは、その傍までやって来た。
「アークシュリラ、ありがとう。でも、これから先は支援はしなくても構わない。お前だって呼吸を整えていたのに、私が横から突然ダガーを投げたら嬉しいか」
「ごめん、私が悪かったよ」
2人ともジャイアントヴェスペが出てくることが、判っていたんだね。
それから出てくるジャイアントヴェスペを、ナンの問題も無く全てビブラエスが退治していく。
ビブラエスが立ち止まって、私たちが来るのを待っている。
「もう、この先に女王がいると思う。多分幼虫もいる」
「幼虫は攻撃をするの」
「近付けば咬むくらいだから、気にしなくてもいい。アークシュリラ、それでは行くか?」
「そうだね。行こうか」
ヴェルゼーアとアークシュリラが部屋に入って行く。
続いて私たちも部屋に入る。
そこには、今までのジャイアントヴェスペが子供と思えるほど大きな女王が、恐ろしい羽音をたてながら羽ばたいて空に留まっている。
「どうするの、魔法で落とす?」
「気が立っているから、降りては来そうもないな」
「あんなに上空にいたら、魔法しかないですね」
「2人ともそれで良いね。レファピテル、もう一度寒くするよ」
「判りました」
レファピテルは私の顔を見て、タイミングを合わす様だ。
「絶対零度」「絶対零度!」
二人がかりの魔法によって女王は躰が強張ったのか、高度を維持できなくなって下にやって来た。
それでも毒針を私たちに向けて、刺そうとしている。
こいつは、本当に化け物だね。
凍えているハズなのに、その動きは今までのモノに引けを取らない。
イヤ、少し早いかも知れない。
女王が刺すために私たちの所へ来たときが、ヴェルゼーアとアークシュリラの剣が当たるタイミングとなる。
しかし、そう何度も、相手の攻撃を私たちが防げる訳はない。
アークシュリラやヴェルゼーアも女王に対して剣を振っているが、上手く躱している。
どちらも幾度となく攻撃をしているが、その全てが決定打を欠いている。
女王の体が温まった様で、動きも速くなる。
私も杖から弓に変えて射出するタイミングを計っているが、上手くタイミングが合わない。
この弓で射たとしても、矢が目標に絶対に当たる訳ではない。
それは通常の弓と同じで、狙いが定まっていなければ当たることはない。
それにアークシュリラが剣で女王を攻撃しても、相手が致命傷にならないと云うことは、アークシュリラではやっつけられないと云うことだ。
祈らないでも倒すことの出来るウルフとかでも祈るのだから、まさかこの状態で祈ってない訳がない。
もう一度、女王に狙いを定めて、渾身の力で弓を引いて矢を射る。
女王は、その矢を難なく避けている。
もう、ダメなのかなぁ。既に万策が尽きた状態だ